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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント番外篇 その06

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 何者かがラスボスらしく、イベントエリア全域を暗闇で包み込んだ。
 発生源は現在、人族と魔族のわだかまりを解決しようとしていた中央エリアの闘技場。

 しかし、ただの凡人として廃都の復興作業に従事している俺に、できることはない。
 たとえそれが世界の危機であろうと、今できることを──花精人アウラウネの住処を作るだけだ。


《──メルス様、ナックル様よりご連絡が来ておりますが》

「……今、せっかくここでまったりしようと決めたばっかりなんだけど。まあ、ナックルが相手だし仕方ないか。うん、繋いで」

《畏まりました──接続します》


 外線である[ウィスパー]経由の通信を、念話へ旨いことアンが繋いでくれる。
 音声が必要な[ウィスパー]ではなく、俺は念じるだけでいい念話仕様で会話可能だ。


【──おい、今どこに居る!?】

《西の廃都エリア、今は錬金術で復興作業のお手伝い中だけど?》

【…………いや、何も言うまい。ともかく、そっちでもこっちで何かあったってことは理解できているか?】

《そりゃあまあ、いきなり曇ったしね。いちおう確認するけど、そっちに居るメンバーだけでなんとかできるんだよね?》


 アンが俺に出動要請をしていない以上、その問題は正直ないとは思う。
 しかしまあ、認識はアンとナックルとではまったく違うからな。

 仮にナックルが無理だというのであれば、それは本当に祈念者が神風アタックを繰り返しても勝てないような相手だということ。

 そうなれば、直接でも間接的にでもアシストした方が良いだろう。
 ……さて、そんなナックルの判定はいかほどか。


【──いや、大丈夫だ。『選ばれし者』たちも、有力クランだってたくさんいる。いつもはお前らが無双して終わってばっかりだが、たまには俺たちもやればできるんだって見せてやるよ!】

《……そっか。まあ、あとで楽しませてもらうとするよ。あと、一つだけ言っておきたいことがあるとすれば……》

【あるとすれば?】

《──偽善者は、望まれなくても勝手にするから偽善者なんだよ》


 アシストを望まれていないみたいだが、それでも勝手にやっておこう。
 アンが座標を把握しているので、遠隔で魔力を行使することが可能だ。


「魔導解放──“白き箱清き光”」

「お、おいノゾム、また今度は……白い光が急に見えたぞ!」

「うん、とっても綺麗だね」

「そ、そりゃあそうだけども……」


 再び声を掛けてきたオジさんには、俺の出来得る限りの笑みで対応。
 ……なぜかそれを見て、顔が引き攣っていたのかは謎に包まれている。


【──おい、自称偽善者】

《さて、何のことやら。ただ、白い光の中だとノーリスクで蘇生されるみたいだよ。あと自称じゃないもん、ちゃんと偽善者やってるもん》

【……そうだな、運営のサポートかもな。ただ、俺は納得しても、お前を知っている連中がどうなのかは分からんからな】

《うぐっ……と、ともかく、その辺りはナックルに任せるよ。ま、まあ何にも関わって無いけどね!》


 遠隔起動はアンがしっかり欺瞞したので、アルカがそれを見抜くのは…………とりあえず、今は無理なはずだ。

 そして、今は“白き箱清き光”の解析でもしているのだろうか。
 アルカとて、魔導を拝むのはまだ俺が使うときぐらいだろうし。


《じゃあ、頼むよ! お願い、僕は殺されたくないんだ!》

【いやまあ、お前にとっては死活問題か──だが無理だ、逆の立場でお前に止められるなら別だがな】

《……こっちでなんとかするよ。ただ、居場所は言わないでね》

【──ああ、それぐらいは頑張ろう】


 おや、なんだか決意ある言葉だった。
 念話がここで切れるのだが、なぜか強引に引き千切られるような感覚が。


《……メルス様、アルカ様がこちらの存在を掴もうとしておりましたので、強制的に中断しました》

「Oh……!」

《幸い、逆探知を終える前に途絶することに成功しましたが……おそらく、闘技場に居ないことは確信されたことでしょう》

「うーん、アルカにも向こうで頑張ってほしいんだけどね。アルカが真面目に取り組むか取り組まないかで、かなり何度が変わりそうな気がするし」


 どうして俺を気にするのやら。
 というか、逆探知に成功していたら彼女は何をしようとしていたのだろうか……うん、考えてはいけないな。


「──あっ、空が……」

《ラスボスが手酷いダメージを受け、空に回す制御能力が失われたようですね。なお、ラスボスの正体は──》

「うーん、僕には関係ないからパスで」

《畏まりました》


 キメラ種騒動のときみたく、最後に介入するわけでもないし。
 今の俺はただの錬金術師として、ひたすら花精人の引越しの手伝いをするだけだ。

 真っ黒だった空は、澄み切った青空へ。
 まだ中央の方だけは黒いのだが、それ以外の場所に居る者にとっては、危機が去ったとも言えよう。


「辺境に住んでいる人って、こういう気分なのかな? 自分たちとは関係ない場所で、あらゆる問題が始まったり終わったりする感覚みたいな?」


 向こうでの物語が本編だとすれば、まさしく今の俺がやっていることはスピンオフやら番外編だのと言われる行いだろう。

 まあ、観ていてまったく面白くない作業が続いているという意味では、それ以上の駄作に違いないが。

 ともあれ、もう間もなくその本編も終わりに近づくだろう。
 刻一刻と青色に戻されていく空が、それを強く物語るのだった。


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