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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント番外篇 その04
しおりを挟む黒い表示に関しては、あとでやることを童話世界の眷属たちにも手伝ってもらうという交渉で納得してもらった。
そして、選んだのは廃都での復興作業。
それでも念のため、迷宮の方には一報入れてもらい、まだそこに居た眷属たちに何かあれば対処してもらうよう頼んである。
後腐れも無くなり、ある程度自由になった俺はそれこそ復興を率先して手伝っていた。
もともとアンデッド狩りから、目立っておらずともそれなりに活動している。
居ること自体に疑問は持たれず、精霊たちと楽しむように作業を行っていく。
……同時にスキルの熟練度稼ぎもできるのだから、上手い話である。
「体の動かし方を意識してやれば、身体系のスキルが手に入りやすくなる。そう、本にも書いてあったからね」
バイブルと化した『誰でもできる簡単スキル取得本(完全版)』の情報に従い、身力の操作を意識しながらの作業だ。
お陰で腕力強化スキルを獲得し、これまでに得た強化系スキルの複合版──全体強化スキルの獲得に至る。
複合にも複合で条件があるが、そちらも本がカバーしてくれた。
本当、高い金を払ってでも買った意味のある素晴らしい本だ。
「瓦礫の撤去の方は、そろそろいいかな。身体強化系は充実しているし、お次は……修理の方をお手伝いだ」
『!!』
精霊たちを引き連れて向かうのは、崩壊した建物を再築している区画。
トンテンカンと鳴り響く作業音を聞きながら、向かうのは周辺を仕切る代表者の下。
一時的に<畏怖嫌厭>を魂魄偽装で無効化、できることを伝えて指示を受ける。
あとはスキルの力に頼りながら、素人でもできることをやっていくだけ。
「フラム、火力を上げて。アクスとアイアはそのまま掻き混ぜてね。エアル、ソムスは塵が入ってこないようにお願いね。ラボルとヘリス、それにアリユは僕に支援を掛けてくれるかな」
『!!』
現在行っているのは、錬金術。
ただし作るのはポーションではなく、魔物由来の素材を混ぜた特殊なコンクリートのような物。
精霊たちの調整を頼める分、無職にしてはそれなりの質を出せていた。
ついでに言うと、精霊に連なる種族的にこちらの方が好まれるそうで。
「大量生産を受注しちゃったから、その分だけ頑張らないと! 上級錬金、早めに獲得しておいて正解だったね」
キメラ種騒動の際に、もうその域までスキルは成長していた。
補正もその分だけ高く、作業もどんどん効率化され自動生産だって可能だ。
まあ、そうなると精霊たちと作るわけでは無くなるので質が下がる。
結局俺は、精霊が飽きないように楽しませながらゆっくり作っていくことになった。
◆ □ ◆ □ ◆
精霊を従え、なおかつ生産も行う者の数はこの場において極めて少ない。
そりゃあ大半の者は例のイベントを観戦しているし、そうでなくとも迷宮の探索者だ。
だからだろう、たとえ<畏怖嫌厭>があろうとも近づいてくる者がちらほらと。
もちろん、近づけば顔をしかめるのだが、それでも笑顔で対応するのが大人である。
要求される錬金アイテムを次々と作り上げて、どんどん必要とする所へ提供していく。
向こうも俺に頼らざるを得ない、だからこそ覚悟する──ならば応えようではないか。
「……だからって、これは無いよね」
「すまない!」
「うん、貴方の言葉はもういいんだ。だからこれ以上は何もしていないし、何もする気にならないんだけども」
「くそっ! 俺が何をしたってんだよ! ただ他の奴らみたいに、足りねぇ物を要求しただけじゃねぇか!」
現状は会話を聞けば分かる通りだ。
ノリノリで応えていた俺だが、それはあくまでも誠意と覚悟を以って要求して来た者だけに限っていた。
そうではない者──つまり、俺を恫喝してアイテムの優先度を変えようとするような連中には、精霊たちが『おもてなし』をするように予め頼んである。
結果、恫喝して来た者は地面とキスをしているし、その仲間と思わしき人物が必死に覚悟を決めて俺と交渉をしていた。
俺の機嫌を損ねれば、精霊と合作をしている錬金アイテムが失われる。
それはつまり、それらを期待していた者たちの機嫌をも損ねることになるのだ。
そのことで俺が驕っているならまだしも、真面目にやっていただけの俺に異を唱えることなどできない……誠意を見せなければ、彼ら自身がその誠意となってしまうだろう。
「まっ、そろそろ潮時かな?」
「なっ、テメェ……逃げんじゃ──」
「いい加減にしろ! お前、自分の立場が分かっているのか? このままじゃ……何もできなくなるぞ」
「はぁ、何を言って……!」
この場の祈念者もゼロじゃない。
彼らの行いは[掲示板]を通じて広まり、イベントエリアの外でも認識されるだろう。
……自由民の中には、祈念者から情報を買う者も居るからな。
自然と悪行は善行よりも早く伝わり、評判が下がってしまうはずだ。
最初に手を出した男も、普段はもっと真面目な対応なのかもしれない。
俺の<畏怖嫌厭>に触発されたか、あるいは『侵蝕』の影響があったか……。
──だがいずれにせよ、起きた事実そのものは変わらない。
「うん、そっちのお兄さんがちゃんと謝ってくれたし、もう少し僕も頑張るよ」
「そうか! ……本当に、すまなかった」
「ううん、僕もちょっと悪かったかも……ごめんね、お兄さんも」
「~~~~ッ、テメェ!!」
おや、お気に召さなかったようで。
残念ながら俺からの誠意ある笑顔は、彼の怒りを爆発させてしまったらしい。
だが、それを見たのは彼一人。
強引に気絶させられ、そのままどこかへと引っ張られていくのだった。
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