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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント番外篇 その03

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 北と南の諍いを収めるべく、祈念者主導で行う対抗戦。
 俺は場所だけ提供し、あとは他の者に任せて隠居生活をする予定。

 具体的に何をするのか、それを[選択肢]で決めようとしたところ……何やら不穏な選択が浮かび上がった。

 その色は黒、不穏さから選びたくない度は一番高いのだが……それ以上に、表示された内容が俺の目を奪う。


「『思い出して、やらないと■■……』ね。アン、心当たりは?」

《…………》

「ノーコメントか。つまり、自分で考えなければいけないわけだな」


 思い出す、つまり過去に起きた出来事に起因して起きる出来事。
 そしてアンが何も言わない以上、これは眷属関係の出来事な可能性が高い。

 ゆっくりと頭を捻り、溜め込んだ記憶をすべて[世界書館]から引っ張り出す。
 脳もフル回転で探しているが、地頭が優れていないため性能を発揮し切れない。

 だからこそ、眷属に普段は解析などを任せているのだ。
 ……なんて泣き言を言っている暇もなさそうなので、精いっぱい考え抜くことに。


「うーん、とりあえず心当たりが三つほど浮かび上がったんだけど。アン、答え合わせは手伝ってもらえるかな?」

《──よろしいとのことです》

「じゃあ可能性の低い順に。一つ、祈念者との約束事──眷属にした人もそうだけど、弟子やらますたークラーレ関係かもしれないね」


 こちらから接触する機会が少ないので、基本的にはイベントで会うことが多い彼女ら。
 ただ、眷属であれどアンがそこまで庇い盾するかと言えば……正直微妙なところだ。


「そして二つ、眷属みんなとの約束事──普通に死にかけてるし、ギブアップも宣言しているし、いろいろとやらかしたもんね」

《その結果が黒色の表記であると?》

「かもしれないね。まあでも、これじゃない気はするんだ。だって、わざわざイベント中じゃなくてもペナルティは与えられるし」


 ……渡航イベントの際は、イベント中でも受けさせられたけども。
 なので、一番確信があるとは言い切れないが一つ目よりは可能性は高いだろう。


《──では、三つ目は?》

「眷属の……中でも童話組かな? 今回、僕はシャルとヴァ―イの力を借りている。それに、ジリーヌの力もね。弟子云々のついでで赤色の世界には行ったけど、童話世界の方には行っていないし……これだと思う」

《……ファイナルアンサー?》

「ファイナル、アンサーで」


 しばらく、沈黙が場を支配する……なんてことはない。
 俺は現在、祈念者に絡まれないよう逃走している身。

 なので無音で歩こうと風が靡き、周囲の雑多な音が耳に入ってくる。
 むしろピリピリした緊張感を保ち、アンの反応を待つ。


《──正解です》

「良かったーっていうのはなんだか違う気がするね。でも、どうして黒色なの?」

《色はわたしたち、そしてメルス様がその未来においてどのような心情になるのかを踏まえての表記です。悲しむ眷属の姿に、メルス様はどう思われますか?》

「…………うん、それなら黒で間違いない。じゃあ、僕はどうすればいいのかな?」


 もちろん、残り時間のすべてを彼女たちに捧げても一向に構わない。
 しかし、それでは時間が足りないのもまた事実……短すぎるのだ。

 指を折って数えるが、一人ひとりの時間を大切にすればするほど必要時間が増える。
 かと言って、複数人を一度に──というのは、今回は適していないように思えた。


《結論から申しましょう──例のアレ、その実行の際に同伴することでお許しになるとのことです》

「……本当に危ないんだけどな。不完全なうえに、心象的に悪いだろうし」

《では、決まりということで》

「あっ、ちょっと……! もう切れたよ」


 すぐに否定すれば、彼女たちは渋々ながらも諦めてくれただろう。
 しかし、危険だからと遠ざけるのも俺の我が儘でしかないか。


「聞いてるでしょ。とりあえず了解、だけど装備はフルで着てもらうからね」

《──畏まりました》

「うん、これでよし! じゃあ、残った二つのどっちかにしようか」


 問題はとりあえず、解決したはずだ。
 残された[選択肢]は二つ──青色表記の迷宮活動、あるいは黄色表記の廃都復興。

 青色は好転、黄色は現状以上のはず。
 それでも黄色として出た迷宮探索を選んだ結果、当時の俺はそれなりに充実した生活を送れていた。

 それ以外、という選択肢は今回注釈に表示された『関係者との遭遇』で消去される。
 なので、必ずどちらかから選ぶ必要があるのだが──さて、どうしたものやら。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 イベントエリア(西)廃都


 ──初心に帰って偽善をしよう。

 そんな心情から選んだのは、黄色の選択。
 ただ、もし迷宮の方で俺が居なければ困るようなことが起きれば……ということで、保険もちゃんと用意しておいた。


「というか、まだ迷宮都市に居たんだね」

《『冥犬』と『闘機』が粘りまして。根負けした『節介』が見守っております》

「不幸中の幸い、ってところだね。まあ、何かあればみんなに任せよう。僕はここで、復興作業のお手伝いだ!」

『!!』


 契約した精霊たちも、俺のテンションに合わせて盛り上がっていくれている。
 現状維持の選択が、何を起こすかはたまた何も起こさないか。

 ──それは分からないが、今は偽善をすることに集中しよう。


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