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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント番外篇 その01

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 番外編──というか後日談と言おうか。
 悪意の塊、そして願いを叶える魔法陣が失われた今、イベントエリアの人々はこれからどう生きるかを問われることになる。

 ずいぶんと重い話だが、RPGのようにボスを倒したら終わりというわけではない。
 イベントエリアと言えど、手順を踏めばいつでも来れることを俺は知っているからだ。

 というわけで、困ったときのナックル頼りによって、会談の場を設けられた。
 南の人族の王、北の魔族の王、東の迷宮監視代表、そして西の廃都の末裔代表。

 ついでに祈念者、そしてラスボス(笑)を演じていた俺も混ざっている。
 ……まあ、魔法陣を破壊した張本人なので一部の者は根に持っているようだし。


「まあ、残された願いの産物はある程度回収してあるし……これらをどうするのかが、今回の議題になるかもしれないね」

「…………毎度毎度、どうしてこうもお前は面倒な問題を持ち込んでくるんだ」

「迷宮も含まれているんだし、もっとプラス思考で行こうよ。あそこだって、悪意の残滓が失われたとはいえ、悪辣なギミックについてはまだそのままだよ。ついでに言うと、願いの産物だってまだあるかもしれないし」

「……さすがに今回は、迷宮だからって飛びつくわけにはいかないだろ。そりゃあまあ、お前の迷宮は結構楽しんだけども。それでもだ……っておい、急に舌打ちするな。目を逸らすな、見て見ぬふりをするな」


 チッ、頭の固い奴め。
 全部をナックルに押し付け、楽をしようという作戦はあえなく失敗してしまった。

 祈念者が各陣営で支援をしているが、彼らもずっとここに居られるわけではない。
 こちらの時間で言えばあと一週間、慎重にやることを選ぶ必要があった。


「なあ、お前が全力で支援すれば──」

「ん? そりゃあ西の復興は一瞬。東に必要量の装備を提供することもできるし、北と南の諍いを抑えることもできるよ」

「だよなぁ……本当、お前ってチートだな」

「ズルって意味でもチートなことは理解しているよ。でも、だからって力に相応の働きをする……ってのは嫌だし。まあ、縛り状態でできることならそれなりに手伝うよ」


 それぞれの領域ごとに、上がっている問題は一つずつ。
 祈念者は使えなくなった[選択肢]を頼らずに、自らどこを手伝うか選んでいる。

 スキルも魔法もある世界なので、復興や装備提供などはその時間内でも可能だろう。
 問題は北と南の問題……まだ残る蟠り、それをどうするかという悩みだ。


「ナックルたちの方は、どういう対応をする予定なの?」

「……まあ、アレだな。やりたいだけやらせて、禍根が無くなるぐらいスッキリさせる」

「昔のヤンキー漫画じゃないんだから。まあでも、ある意味それが一番なのかもね」

「だろ? あとはそれをどう平和的にやるかなんだが…………なぁ?」


 腹に抱えたものを全部ぶつけて、殴り合えばいいという古より伝わる解決策。
 しかし、祈念者以外がやれば死にかねない方法なので……俺の方を見てくる。


「……闘技場があるんだし、そこを使えばいいと思うんだけど」

「いやいや、ここはやっぱり広い迷宮の方がいいだろう。というかほら、直接殺し合うってのは過去の遺恨を思い出させそうだし、互いに条件を出して迷宮勝負ってのは──な、なんでもない」

「もう、あんまり困らせちゃダメだよ。それよりほら、ボクも少しだけ考えたんだ。ナックルの意見を聞かせてよ」

「お、おう……分かった」


 俺とナックルの会話を聞く一人の女性。
 それは彼の秘書を務めるアヤメさん……ではない。

 小人族として背の低い容姿だった彼女に対し、見守る女性は標準的な普人のサイズ。
 何よりスーツ姿だったアヤメさんと違い、彼女が身に纏うのは白い和服だった。


「それにしても、うん……」

「おい、何か言いたいなら言えよ」

「……ヨク、オニアイデスネ」

「心にも無いこと言いやがって。ほれ、早くそのアイデアを聞かせろ畜生め!」


 彼女は『ハクアキ』。
 祈念者で、種族は珍しい氷人族で──ナックルの奥さんだ。

 今回のイベントに、いつの間にか再入荷したAFOが間に合ったらしい。
 ……そんな彼女に見守られながら、ナックルは俺とこれまで話をしていた。

 果たして、どういう心情なのだろうか。
 自分より年下のクソガキにからかわれ、あまつさえ(迷宮限定で)こびへつらう姿を晒すというのは。


「…………うん」

「おい、なんの頷きだ。急に優しい目でこっちを見るな。あっ、お前まさか、今さら改めようとしてやがるな」

「まさかまさか。それよりも、アイデアには迷宮も含んでいて──」

「マジ──ッ!? こ、こほんっ、詳しく聞かせてくれ」


 冷たい視線(物理)が届き、ブルリと体を震わせたナックル。
 レベル的にはまだまだ遠く及ばずとも、関係性というのは精神に影響するのだろう。

 状態異常には何ら表示されていないが、間違いなく『凍傷』状態になっている。
 うん、無理難題を言われなくて助かる……なのでとりあえず、彼女に頭を下げておく。


「……(ペコリ)」

「……(ペコリ)」

「おっほんっ! ──で、そのアイデアってのは!?」

「そうだね。まずは中央に迷宮を──」


 ナックルと俺は、これからのことを考えながらアイデアを語り合った。
 今回出た内容を基に、ナックルが祈念者の有名な人たちとさらに話し合う予定だ。

 もともと何でもやっているので、可能だということさえ伝わればいい。
 あとはそれを、実行するだけという所まで進めてもらう……その方が、俺も楽だしな。


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