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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント終篇 その20
しおりを挟む自分勝手な『英雄』のせいで、消滅したはずのラスボス(真)が復活した。
この状況に対してラスボス(笑)は、一つの布石を用意してから現場へ急行する。
「──あちゃー、こりゃ酷い」
玉座の後ろに設置していた願いの魔法陣。
内容は先ほど唱えた“身命祈願”だが、ある意味こちらの方が性質が悪かった……必要量さえ自分で賄えばいいんだからな。
悪意の塊も俺と同様に膨大なエネルギーを保有していたので、そこはなんなくクリア。
願いは当然自身に関するもの──本体が失われたはずの、悪意が力を取り戻す。
その力を得たうえで、狙うのは願いの魔法陣を求めて集まった参加者たち。
特に、願い/悪意の産物を持つ者は集中的に狙われているようだ。
「これで良かったのかな……うん、絶対に間違っているとは思うけどね」
俺が封印されたエリアに行かなければ、そもそも想定通りの展開になっただろう。
そうなれば、最低限祈念者と自由民で力を合わせれば倒せるレベルとなったはずだ。
だが現状、悪意の塊はさまざまな要因から通常のスペックを遥かに超えている。
だからだろう、『選ばれし者』が総出で対峙しているが……今なお傷一つ付かない。
『『ア、アの……』』
『! !!』
「ああ、ごめんね。出番は無かった方が本当は良かったんだけど……たぶん、君の力が必要になるかもしれないんだ」
『!!』
スーの結界に守られ、そんな惨劇をただ観ていた三体のデュラハン。
本来、見学させるために配置していたが、こうなってしまうともう仕方なかろう。
俺が悪意のエネルギーを使い生み出した、四体のデュラハン。
二体が暴れ回り、一体が二体に分離したりしたのだが、最後の一体は……反転した。
結果、憎悪に満ちた存在そのものが聖なる存在となっている。
ひとえに、純粋な子供の魂魄だけを集めて生み出したからだろう。
さて、どうして俺がそんな子に頼ろうとしているのか。
それは悪意の塊に対して、絶対的な天敵と化しているからだ。
聖別し、悪とは対極となった存在。
だが元が悪意のエネルギーである以上、親和性そのものは高い……つまり干渉された際に、拒絶することができない。
「君だけが、アレをサクッと倒せるんだ。もちろん、みんなでゆっくりやっても倒せるんだけどね。そうなると……被害者が出るのは間違いない」
『!!』
「うん、物語とかなら君が勇者みたいに大活躍する……みたいな場面にもできるんだけどね。ここは安心安全、確実にやっておきたいところなんだ。使命はただ一つ──アレにこの聖剣を刺してくることだけ」
手にしていた『想聖の聖剣』を渡すと、心なしかウキウキしだすチャイ(聖個体)。
当然、隣でハラハラしだすファズとマーザ(父と母個体)も居るが……気にしない。
はっきり言ってしまえば、スーの結界を破れていないので心配する必要性は皆無。
そのうえで、俺も眷属もそのミッションを達成するためのフォローはするので安心だ。
「──さぁ行こう! 神が定めた『勇者』でも『魔王』でもない! 君が、君こそがこの世界を救う本当の『英雄』になるんだ!」
『ッ!! !!!!』
「さぁ、ボクの配下たちよ! 偽りの役割はもう終わりだ! 真なる力を以って、破滅の未来を打ち砕こうぞ!」
『──ハッ、了解しました!』
ある程度予想した展開については、事前に台本を複数パターン分渡してある。
なので必要な台詞を言えば、それに対応した動きをしてくれるのだ。
今回の場合、全力サポートでサクッと終わらせようという流れ。
制限もほとんど無くなるので、あとはチャイを悪意の前に立たせるだけの簡単な仕事。
正直、祈念者視点からすれば訳の分からない駄作染みた怒涛の展開だろう。
ラスボスは偽りで、仲間がやらかしたら瞬殺され、いつの間にか敵が仲間に……。
しかし、悲劇的な流れを迎えることに比べれば喜劇なだけまだマシだと思ってほしい。
そもそも、願い/悪意の産物を奪うついでにだいぶ退場しているしな。
「……もう演技も疲れたし、さっさと終わらせようね」
《メルス様……演技などされておられなかったではありませんか》
「し、してたもん! 全然演技スキルは動いてなかったけど、それでもしてたもん!」
アンとの軽いやり取りの間にも、状況はますます加速していく。
結界で築かれた道を走り、チャイが勢いよく聖剣を悪意の塊に叩きつける。
するとαTフィールドのような防御魔法が展開されるが、チャイが声にならない叫びを出すとだんだんと内部に入っていき──最後には、頭(?)に聖剣が突き刺さった。
「──アン、今」
《演出開始》
そうなったと同時に、そもそも迷宮だったこのラスボスの間の仕掛けを起動。
神々しい(っぽい)光と共に、悪意の塊が消滅していく(ような演出を見せる)。
まあ、これで祈念者以外の参加者は納得してくれるだろう。
そして、彼らもまた大半の者はご都合主義な解釈で自己解決してくれるはず。
「……さて、最後にもう一仕事かな。なんだか最近、こんな感じで働いてばっかりな気がするよ」
《行ってらっしゃいませ、お気を付けくださいね》
そして、向かうのは当然──
◆ □ ◆ □ ◆
再び外へ戻ってきた俺。
浮島の方をボーっと見ていると、黒いナニカが飛んでいき──停止する。
『■■■■■ッ!?』
「──ボクの願い事はね、これだったんだ。君と、コレを融合させること」
『■■■■■!!』
黒いナニカ──悪意の残滓に見せたモノ、それはヤシの実サイズの種だ。
禍々しいエネルギーを放つソレを見て、残滓はそれを強く求める。
「まだチャンスはあるかもって? いやー、無理だと思うよ。まあでも、君がそれを望むなら──叶えるのがボクの仕事さ」
手に持った種──『魔王の種』と悪意の残滓が、強制的に願いの力で融合していく。
漆黒と暗黒、二つの黒が混ざり合い──さらに深い昏さを秘めた種が残る。
「これを使って【魔王】を作れば、史上最強の【魔王】になるかもね。まあでも、これの使い道は決まっているから……悪いけど、君の思い通りにはならないよ」
『■──』
指をパチンッと鳴らし、種に<常駐魔法>で仕込んでおいた“魂魄改変”を起動。
……本来の遺志は、すでにデュラハンたちが継いでいる──コレはもう不要だ。
「うーん、これで準備が整ったね。あとは、契約の履行をするだけだよ」
問題はその時期を考えるぐらいだな。
忙しくないとき……はそもそも存在しないので、ちゃんと予定の方をどうにかしないといけない。
特に、この後は忙しくなる。
前倒しで進めたから、後始末を付けなければいけないことだらけだしな。
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