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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント終篇 その19
しおりを挟む相対した『選ばれし者』、『失風英雄』がナニカをした。
その結果、アンが緊急で連絡してくるぐらいの異常が起きたようだ。
「──おっ、その顔はやっぱり何か起きたみたいだな。いいぜ、良い風が吹いてきた。おい、教えてくれよ。何が起きたんだ?」
「……数分もしないで、このままだとここは崩壊。当初生まれるはずだったレギオン級のボスが、通常よりも高いスペックで現れる」
「…………はっ?」
「本当にやってくれたね、ザーコ。そうだ、良いことを教えてあげるよ──風があれば勝てる? そんなわけないじゃん。だから君って、『選ばれし者』の中でも下の方に……間違えた、最下位なんだからね」
彼に語った通り、悪意が暴走を始めた。
自爆するとアンは言っていたが、問題はその後だ──炸裂させたエネルギーで周囲を喰らい付くし、強引に現界しようとしている。
まあつまり、運営のシナリオ通りに事が動き出しているわけだ。
これもひとえに、『選ばれし者』という運営神の駒がちょっかいを出したからだな。
プラン通りに事が進むとは思っていなかったし、最悪悪意が暴走は予測できていた。
しかし、彼にとって都合のいい風とは──ここまで劣悪なものだと予測できなかった。
「…………おい、今なんつった」
「『たかがゲーム、熱くなるなよ』……君がよく言う言葉らしいね。そっくりそのまま、今の君に贈るよ。雑魚だって別に、ゲームはできるんだから……もっと楽しもうよ」
「ふざけ──っ!?」
「はぁ、つまんないなぁ。あと、本当に君の相手をしている暇は無いんだよ……うん、ボクの予想通り、これまで喰べた中でも君が一番美味しくないって」
当初の予定では、熱いバトルでも繰り広げた後に[窮霰飛鮫]が喰らう予定だったが、それもキャンセル。
風なんて都合のいいものごと、すべてを切り裂いて彼の首を断つ。
即死防止のアイテムを着けていたが、二度斬ればそれも意味を介さない。
その一瞬を、彼は見逃した。
俺が告げたことで、ようやく体もそれを認識──首がコロリと地面に落ち、だんだんと死に戻り特有のエフェクトが発生する。
「ただの“燕返し”だよ。わざわざ『侵』も『狂侵』も、付ける価値が無い。まったく、時間を無駄にしたよ」
「くっそがぁああ!」
「じゃあね、ザーコ。あーあ、君みたいなのはもっと早く斬れば良かった。物理的にも、順番的にも……ほら、四天王のザコって物凄く先に死ぬよね?」
「死ね゛ぇ──ッ!!」
叫んだまま、彼は死んだ。
そういえば、名前……なんだったっけ。
痛い二つ名は覚えていたが、そちらの方はちゃんと覚えてなかったな。
「まあいいや、最悪悪魔……じゃなくて神にでも魂を売るでしょ。そうなったらそうなったで、ボクにとっても好都合だし」
《──メルス様》
「はいはーい、了解っと。まったく、余計なことをしてくれたもんだよ──スー、お願いできるかな?」
『……らじゃー』
離れた場所に居るスーだが、お得意の結界魔法経由で返事をしてくれる。
そして、彼女はそのまま結界を新たに展開し──この島を隔離した空間とした。
「アン、急いで準備を。魔導で隔離したら一発でバレる以上、魔法の範囲で留めながら抑え込むしかない」
《畏まりました。早急に準備を》
「人形は……うん、使いたくないな。というか、人型にした方が面倒な気もするし、自前でなりそうだし。みんなは……まだ足止めしてくれているんだ、ならそっちはそのまま任せておくよ」
味は不満だが、とりあえず満足といった感想を告げてくる[窮霰飛鮫]は回収。
代わりに取り出すのは[レヴェラス]、そして願いの産物『想聖の聖剣』。
悪意の産物ほど性能は高くないが、それでも同じ魔法から生み出された代物。
それゆえに、悪意の産物は自身を高めるための糧としてそれを狙ってくるはずだ。
「それに、これとボクの相性は異様なほど高いからね──{感情}、“■■■■”」
その能力を発動した途端、聖剣が生み出す聖気の量が異様なほど増大する。
これは想いを聖気へ変換する武器、ならばその量を増やせば強くなるのは自明の理。
バカ丸出しのアホ理論だが、効果は覿面。
どこからか視られているような感覚を知覚し、この場の者たちも驚いた様子でこちらを見て……うん、すぐさま浮島の外へ転移。
「……嗚呼、君だったんだね。本当に悪意に塗れている」
『■■■■■……!』
「そういえば、[魂源告訴]は使ってなかったね……まあいいや、どうせ聞くに堪えない言葉だろうし。君はこれが欲しくて、ボクは君のソレが欲しい。話が速くて助かるね。だけど、今の力じゃこれを奪えない」
『■■■■■……!!』
悪意の塊、今はまだ不完全だがそれはどこからともなく浮島へやって来ていた。
おそらくは迷宮、そこに仕込んだ残滓から本体を可能な限り再現したのだろう。
本体となる魔法陣は俺が砕いたので、すでにもう存在しない。
だが、残滓とこれまでに叶えられた悪意のエネルギーが合わさり、二代目が生まれた。
俺が溢れんばかりに生みだした聖気、それが願いの産物によって創られたことを感知してここに来た──だが、俺からは奪えないのだから、他の場所から奪うしかない。
「──けどまあ、行っていいよ」
『■!?』
「その代わり、君はもう出られなくなる。力はたしかにあるし、強さを取り戻せるよ。それでも……行くんだね?」
『■■■■■!』
すぐ傍を通り抜け、悪意の塊は浮島の内部へ突入する。
その直後、アンに指示されたスーが結界を完全な形へ。
俺、もしくはスーの許しが無ければ外部へ出ることはできなくなる。
一つ、手段があるとすれば……死亡判定を受けての強制退場だけだ。
「なんだか、予定と大きく狂っちゃったな。まったく、これも全部あの風の人が悪いんだからね」
うん、俺の凶運は関係ない!
全部アイツが悪いんだ……そういうことにしておいてください。
「これ以上の魔導は危ないから、代わりに使うのは……そうだ──“身命祈願”」
今回の騒動の原因となった魔法、その簡易版というか改良版。
星の命を使わずとも、己が身一つを捧げて小さな願いを叶える魔法。
一時的に縛りを緩め、解放するのは膨大な身力値。
それを縛り状態の数値になるまで一気に減らし、願い事を叶える。
「効果が出るのはあとのお楽しみっと、それじゃあボクも仲間に入れてもらおうかな」
そして、再び内部へ転移する。
はてさて、中はどうなっているのやら。
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