上 下
2,219 / 2,519
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント終篇 その18

しおりを挟む


 参加者百人を相手に、ラスボス(笑)として挑むショタボディの俺。
 武器は杖としても剣としても使える特別な一振り、そして身を守る亡霊たちの黒い鎧。

 それでも、イベントエリア出身の者たちはその大半をデュラハンたちが対処している。
 なので俺は、祈念者だけを相手にすればいい……のだが、それが一番大変だ。


「真っ当に相手をしていたら滅入っちゃうようね──“無限血鎖ディ・エヌ・エー多重マルチプル極大マキシム複製コピー”」


 血を触媒に鎖を生み出す魔法を発動。
 使うのは俺の血──フィレルが認めた、特別な因子を組み込んだ極上の品だ。

 それをさらに<神代魔法>で増やし、堅固にしていく。
 試しに、まずは盾職に放った鎖──盾に触れた途端、盾が破壊する勢いで吹き飛ぶ。

 自分でも正直驚きだが、引き攣りそうな表情を演技スキル……ではなく、筋肉で物理的に留める。

 そして、[世界書館]で思念操作を行い、縦横無尽に鎖を振るっていく。
 固く、そして高速で振るわれる鎖が、連携しながら一人ずつ着実に参加者を減らす。

 大半の者は鎖に沈むが……『選ばれし者』たちは、そう簡単にはいかない。
 色とりどりの彼らを俺一人で倒すには、相応の時間とスキルが必要になる。

 ──だがまあ、頼るって決めたからな。


「ふむふむ、結構な人が消えたかな? それじゃあ……仮初の器は整えた、我が配下よ彼方より馳せ参じよ──召喚サモン!」
《──“召喚サモン眷属ファミリア”》


 ただそれっぽい演出をしてから、裏で準備した召喚魔法を発動。
 呼ぶのは当然眷属、出た召喚陣の数は──全部で十。

 そこから現れる眷属たち。
 ただし、その姿は美少女/美女ではなく、それぞれの身長に合わせて外套を被っただけの人形。

 これは俺が{多重存在}を使い、必要なスキルを埋め込んだだけの仮の器。
 眷属たちもまさに祈念者のように、そのアバターを使って彼らと戦うことになる。


「さぁ、行け!」

『…………』

「…………行くのだ!」
《すみません、あとで何でも……って言うと怖いからある程度のことはするから頼む》

『……』


 ノリノリで叫んだ台詞は失敗したが、報酬の提示でどうにか動いてもらった。
 ……わざとだよね、報酬が無いと動かないわけじゃないよね?


「──というわけで、君の相手はボク直々にやってあげるよ」

「……おっ、俺を狙うとはお目が高い。いちおう聞いておくぞ──俺が弱いから、なんてくだらねぇ理由じゃねぇよな?」

「もちろんだよ。あの中で、誰か一人を相手にするなら君だと最初から決めていた。弱いからじゃない、だけど……強いからでもないのは事実さ」

「はっ、どういう意味──ッ!?」


 武器を仕舞い、また異なる武器を展開。
 ソレは自身の出番に歓喜した、これまでと同じだけの格がある上物──『選ばれし者』という糧が目の前に居ることを。


「……例の妖刀か。ってことはテメェ、噂の鮫使いか」

「うーん、そうでもあるしそうじゃないとも言えるかな。ただ一つ、コレがあそこのみんなを喰ってきたことだけは事実だよ。だから君も、みんなと同じ餌になるんだ」

「言ってろ。要はチャンスなんだろ、俺がアイツらよりも強いって証明できるよぉ。俺を利用したいか? いいぜ、ならお前も俺に利用されろ」

「あはっ、良い考えだね。ならボクも、油断はしないよ──“英傑捕喰”」


 だいぶ前に『安寧魔王』と戦った時もそうだが、彼──『失風英雄』の彼もまた、俺のことを鮫使いとして認識しているらしい。

 しかしまあ、あの頃と今の俺は違う。
 特にオー嬢さんとの戦いの際、進化したことで妖刀は銘を『暴乱刀[窮霰飛鮫]』と改めている。

 そして、そのときに目覚めた能力。
 片方は当時も使った“英傑捕喰”、効果は強者との敵対時に施される自己強化。


「……いい風が、吹いてるな」

「うーん、ここは無風のはずなんだけど」

「言わせんなよ、俺の能力ぐらいそっちも把握しているだろ。現状、間違いなくそっちの方が有利な風が吹いている。仕込みから何から何まで、全部テメェらがやったんだしな」

「お膳立てはね。言っておくけど、ボクが話したことは全部本当だよ。風が分かるなら、嘘の風も分かるんじゃないの?」


 そんな創作物もあったし、可能かも……というか試したかもしれない。
 現に彼は、俺の問いかけに肯定はしないが否定もしていなかった。


「風ってのはどこにでも吹いている。俺はそれを味方にして、有利な状況を生み出せる。まあつまりアレだ──いつまでも上から目線でイキッてんじゃねぇよ」

「……そっか。そうだね、なら──素を出させてみてよ、ザーコ」


 瞬間、ナニカが失われたような感触に襲われる。
 取り返しのつかないことが起きてしまい、もうどうしようもなくなったような。


《──メルス様、緊急事態です》

《……何となく察しがつくけど、ここはどうなるの?》

《悪意の残滓が集合し、暴走を開始。抵抗しない場合、このままでは自爆します……爆発オチとは、なんとも陳腐でしょうか》

「……本当に、やってくれたね」


 目の前でニヤニヤする彼は、おそらく自分がやらかしたことの意味を理解していない。
 いや、しても興味は無いのだろう……向き合い方がこれまで知り合った者とは違う。

 ──それは異常であり、ある意味では正常とも言える……彼にとって、この世界はゲームなのだから。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...