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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント終篇 その18

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 参加者百人を相手に、ラスボス(笑)として挑むショタボディの俺。
 武器は杖としても剣としても使える特別な一振り、そして身を守る亡霊たちの黒い鎧。

 それでも、イベントエリア出身の者たちはその大半をデュラハンたちが対処している。
 なので俺は、祈念者だけを相手にすればいい……のだが、それが一番大変だ。


「真っ当に相手をしていたら滅入っちゃうようね──“無限血鎖ディ・エヌ・エー多重マルチプル極大マキシム複製コピー”」


 血を触媒に鎖を生み出す魔法を発動。
 使うのは俺の血──フィレルが認めた、特別な因子を組み込んだ極上の品だ。

 それをさらに<神代魔法>で増やし、堅固にしていく。
 試しに、まずは盾職に放った鎖──盾に触れた途端、盾が破壊する勢いで吹き飛ぶ。

 自分でも正直驚きだが、引き攣りそうな表情を演技スキル……ではなく、筋肉で物理的に留める。

 そして、[世界書館]で思念操作を行い、縦横無尽に鎖を振るっていく。
 固く、そして高速で振るわれる鎖が、連携しながら一人ずつ着実に参加者を減らす。

 大半の者は鎖に沈むが……『選ばれし者』たちは、そう簡単にはいかない。
 色とりどりの彼らを俺一人で倒すには、相応の時間とスキルが必要になる。

 ──だがまあ、頼るって決めたからな。


「ふむふむ、結構な人が消えたかな? それじゃあ……仮初の器は整えた、我が配下よ彼方より馳せ参じよ──召喚サモン!」
《──“召喚サモン眷属ファミリア”》


 ただそれっぽい演出をしてから、裏で準備した召喚魔法を発動。
 呼ぶのは当然眷属、出た召喚陣の数は──全部で十。

 そこから現れる眷属たち。
 ただし、その姿は美少女/美女ではなく、それぞれの身長に合わせて外套を被っただけの人形。

 これは俺が{多重存在}を使い、必要なスキルを埋め込んだだけの仮の器。
 眷属たちもまさに祈念者のように、そのアバターを使って彼らと戦うことになる。


「さぁ、行け!」

『…………』

「…………行くのだ!」
《すみません、あとで何でも……って言うと怖いからある程度のことはするから頼む》

『……』


 ノリノリで叫んだ台詞は失敗したが、報酬の提示でどうにか動いてもらった。
 ……わざとだよね、報酬が無いと動かないわけじゃないよね?


「──というわけで、君の相手はボク直々にやってあげるよ」

「……おっ、俺を狙うとはお目が高い。いちおう聞いておくぞ──俺が弱いから、なんてくだらねぇ理由じゃねぇよな?」

「もちろんだよ。あの中で、誰か一人を相手にするなら君だと最初から決めていた。弱いからじゃない、だけど……強いからでもないのは事実さ」

「はっ、どういう意味──ッ!?」


 武器を仕舞い、また異なる武器を展開。
 ソレは自身の出番に歓喜した、これまでと同じだけの格がある上物──『選ばれし者』という糧が目の前に居ることを。


「……例の妖刀か。ってことはテメェ、噂の鮫使いか」

「うーん、そうでもあるしそうじゃないとも言えるかな。ただ一つ、コレがあそこのみんなを喰ってきたことだけは事実だよ。だから君も、みんなと同じ餌になるんだ」

「言ってろ。要はチャンスなんだろ、俺がアイツらよりも強いって証明できるよぉ。俺を利用したいか? いいぜ、ならお前も俺に利用されろ」

「あはっ、良い考えだね。ならボクも、油断はしないよ──“英傑捕喰”」


 だいぶ前に『安寧魔王』と戦った時もそうだが、彼──『失風英雄』の彼もまた、俺のことを鮫使いとして認識しているらしい。

 しかしまあ、あの頃と今の俺は違う。
 特にオー嬢さんとの戦いの際、進化したことで妖刀は銘を『暴乱刀[窮霰飛鮫]』と改めている。

 そして、そのときに目覚めた能力。
 片方は当時も使った“英傑捕喰”、効果は強者との敵対時に施される自己強化。


「……いい風が、吹いてるな」

「うーん、ここは無風のはずなんだけど」

「言わせんなよ、俺の能力ぐらいそっちも把握しているだろ。現状、間違いなくそっちの方が有利な風が吹いている。仕込みから何から何まで、全部テメェらがやったんだしな」

「お膳立てはね。言っておくけど、ボクが話したことは全部本当だよ。風が分かるなら、嘘の風も分かるんじゃないの?」


 そんな創作物もあったし、可能かも……というか試したかもしれない。
 現に彼は、俺の問いかけに肯定はしないが否定もしていなかった。


「風ってのはどこにでも吹いている。俺はそれを味方にして、有利な状況を生み出せる。まあつまりアレだ──いつまでも上から目線でイキッてんじゃねぇよ」

「……そっか。そうだね、なら──素を出させてみてよ、ザーコ」


 瞬間、ナニカが失われたような感触に襲われる。
 取り返しのつかないことが起きてしまい、もうどうしようもなくなったような。


《──メルス様、緊急事態です》

《……何となく察しがつくけど、ここはどうなるの?》

《悪意の残滓が集合し、暴走を開始。抵抗しない場合、このままでは自爆します……爆発オチとは、なんとも陳腐でしょうか》

「……本当に、やってくれたね」


 目の前でニヤニヤする彼は、おそらく自分がやらかしたことの意味を理解していない。
 いや、しても興味は無いのだろう……向き合い方がこれまで知り合った者とは違う。

 ──それは異常であり、ある意味では正常とも言える……彼にとって、この世界はゲームなのだから。


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