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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント終篇 その17

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 魔導“地より這い出よ骸共”。
 効果は至ってシンプル、辺りに瘴気を撒き散らしてアンデッドを生み出すというもの。

 同時に、効果範囲に死体があるのならば、たとえ地中に埋まっていようとも強引に呼び起こして一時的に操ることができる。

 厄介なのは『魔導』であるため、大半の聖属性による浄化(アンデッド対策)がすべて無効化されることだ。

 当然、火を使って体を燃やしたりミンチにするなどして、物理的に動かなくするのであれば可能だが……こと魔力による対策は、無意味と化す。


「もともとここは、アレがあった場所そのもの。歴史を知っている人なら分かるよね、どれだけの人が死んだのかを」


 自由民たちであれば、特に俺の言葉の意味が分かったはず。
 刹那的に生きる魔物や実力主義な魔族と違い、彼らは欲のままに命を捧げさせた。

 まさに血塗られた歴史、その礎とされた者たちの数は膨大である。
 そして今、その残滓が彼らに猛威を振るおうとしていた。


「さぁ、願いを手にしたいと語る者たち! 代償は重く、そして罪深いものと知れ! この悪意の源はなんだ? 始まりは尊く、そして終わりは汚く……嗚呼、人の業! ボクはだからこそ、今ここに居る!」


 改めて、イベント内容を思い出す。
 このイベントは陣営に属し、その役割を演じるというもの。

 人族側の『勇者』は、解放を目指す。
 魔物・魔族側の『魔王』は、庇護を行う。

 そして、どちらかの陣営で最終的に願いを叶えるべく地下の魔法陣を求める──おそらくそれが、メインイベントのようなものだ。

 王道的であり、邪道的だろう。
 平和を目指すも良し、世界征服を目指すも良し──いずれにせよ、最後は悪意の力が暴走して一致団結でハッピーエンドだ。

 ──そんな内容クソくらえ。
 第一、それまでに犠牲になった者たちが解放されていないし、庇護もされていない。

 どちらの陣営に属していても、手を差し伸べられない者たちが居る。
 そして、そこに目を付けることこそが、俺にとっての『偽善』だった。

 第三の陣営、すなわちラスボス(笑)。
 悪意の企みを阻止しつつ、これ以上の争いが無いよう魔法陣を処分……そして、そのまま終わりを迎える。

 死を以って完とするか、はたまた別の終わり方があるのかは未だに不明だが。
 ともあれ、予定通りになど進ませない──[選択肢]など不要だ。


「虫と戯れるでも良し、骸と遊ぶも良し。ボクの配下に詰られるも良し……コホンッ、どうぞ好きにしていてほしい。でも、それでもまだ願いを求めるのなら──相手をするよ」


 玉座から下りたラスボス(笑)。
 ノゾムと並列で操作していた意識をこちらへ集中させ、より複雑な行動ができるようにしてある。


「武器よ我が手に──[レヴェラス]」

《仰せのままに、我が王──転送開始》


 詠唱っぽく注文を付けて、発送してもらったミシェルの固有武装。
 杖であり剣である、魔法も剣技も冴え渡る<勇魔王者>に相応しい一振り。

 片手は空けて後ろに回し、剣を前に居る参加者たちへ突きつける。
 同時に、魔力を放出して強烈な圧を周囲に叩き込む──選別はこれで済むだろう。

 スキルの補正も何にもない、純粋な力による威圧。
 だがそれゆえに、耐性なども大して機能せず本当の強者だけを選びだす。


「うーん、百人か。まあ、母数が多いから仕方ないよね──“闇霧ダークミスト”」


 視界を奪う黒い霧。
 闇魔法でも初歩的なもので、本来の効果はそこまで高くない。

 がしかし、[レヴェラス]の補正と膨大な量の魔力さえ籠めれば効果は覿面。
 これまで光が灯っていたこの場すべて、突如として暗黒の世界と化す。

 突然のことに困惑する参加者たち、その間も蠢く蝗と死骸。
 結果、より強い光で灯りを取り戻すまでにそれなりの数の参加者が退場する。

 そこに、先ほど威圧を耐えた約百人は含まれていない。
 あくまでも選別、不要な者たちを排除しただけのこと。


「まあ、この程度でやられてもらっても困るからね。さぁみんな、ボクといっしょに遊ぼうよ──“死者之衣ネクロス”」


 まだまだ溢れていた悪意の被害者たち、それらを身に纏うと俺は昏く染め上げられる。
 ……普段なら衣として身を守ってくれる程度だが、どうやら程度が違うらしい。

 全身鎧になれるレベルで、集まった被害者たちが俺の周りを囲んでいる。
 発動中、適正の無い者には怨嗟の声が聞こえて精神が狂うが……うん、静かだ。

 ショタ状態なこともあって、鎧は濃密なほど被害者が詰まって堅固になっている。
 それでも余り、一部が外へ出ている……地上も大変になっているかもな。


「さぁ、一気に行くよ。まずは──君!」

「チッ……」


 狙うのは祈念者。
 デュラハンたちは悪意の産物の持ち主、つまり自由民や魔族、魔物を襲うので彼らしか狙いようが無いのだ。

 残っているだけあり、力任せに振るった一撃も安定して防がれる。
 そして、硬直した傍から俺だけを的確に狙う魔法や射撃が飛んできた。

 ……やっぱり百対一(+二体デュラハン)は、かなり難しかったかな?
 だがそれでも、このイベントエリアがよりよくなるため、『偽善』をやり遂げねば!


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