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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント終篇 その16

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 デバフ使いことエイブルは退場し、特級戦力(候補)が一人減った。
 少しばかり消耗したので、一度撤退して改めて場の様子を窺うことに。

 複製した『[コウジュコウ](再)』に関しては、まだ残っている。
 いかに『選ばれし者』と言えど、さすがに悪意とリンクしているユニーク種は辛いか。


「そうだそうだ、悪意だったね──おーい、ここで助っ人を呼ぼう! みんなで声を合わせて、せーの──『デュラハン』くーん!」


 魔本を膝の上に置いて、それぞれ対応したページに魔力を流す。
 すると、五体のデュラハンたちがこの場に現れる。

 戦闘狂やら憎悪に固執した個体、そして悪意に巻き込まれた人々の集合体。
 彼らを俺の前後に二体と三体ずつ召喚し、指示を伝えていく。


「前の二人、君たちは暴れて。特に例の物を持っている人、それを重点的にね」

『……チッ』
『分かりました』

「後ろの二人は……うん、護衛だね。けど、少し手伝ってもらいたいことがあるから、その協力だけしてほしいな」

『『はい、ウケタマワりました』』
『!!』


 前に出した二人は、即座に参加者……そして眷属へ襲い掛かる。
 いつの間にやら、装備している悪意の産物が増えている……頑張ったんだな。

 禍々しいオーラを全力で解き放ち、誰彼構わず暴れる戦闘狂。
 その戦闘狂の陰で暗躍し、主に貴族っぽい連中を暗殺していく憎悪個体。

 祈念者、そして自由民といった垣根は彼らにとって無意味なもの。
 ただその身に宿した衝動のままに、悪意を振りまく使徒と化していた。


『『『…………』』』

「まあね、彼らみたいになれとは言わないしならなくていいよ。アレはアレで、幸せな姿なんだけどね。自分を掻き立てる衝動のままに、他者を顧みず暴れる……それもまた、人の姿だからね」


 後ろに呼んだ三人は、俺が抽出した悪意の想念の中でも特に善良な部分の塊。
 父親と母親、そして子供という悪意の犠牲者たち……その集合体だ。

 だからこそ、悪意から生まれても強い破壊衝動などは感じていない。
 それでも、同じモノから生まれた存在が、ああして振る舞う姿は……堪えるだろう。


「あの二人とみんなの違いは、力の根源をどう受け入れているかだね。彼らはそれと同調し、衝動のままに暴れることを選んだ。その方向性は違うけど、結局どっちも同じこと。それもね、別に悪くは無いんだよ」

『『『…………!』』』

「大切なのは、それを以って何を成すか。分かりやすく言えば、どうしたいかだね。戦いじゃなくたって、力には使いようがある。今回、みんなが何をしたいのか……それを見つけられるといいね」


 縛りプレイで得たスキルは、ほとんどが戦闘スキルで少しだけ生産系が含まれる程度。
 そうした行いしかやっていない、元よりそれを望んだが故の結果だろう。

 もちろん、そうせざるを得ない環境で、否応なしに得てしまうこともある。
 ……そうならないよう、望む道を整えてやることが俺の偽善なのだろう。


「……ナシェク、ミコトさんはそういうことについて考えたことってある?」

『……ええ、ありますよ。孤児たちを救い、道を示していましたので。ただ、あの娘の場合は貴方ほどできることが多くありませんでしたので、誰かに頼ることが多かったです』

「頼る、か。初歩的だけど。とっても大事なことだったね。なら、そうだな……少し、頼ろうかな」


 まあ、『言っていることとやっていることが違う』だの『解釈がおかしい』だのとよく言われる俺ではあるが、今回ぐらいはちゃんとできるはずだ。


「──となると、この状況に合わせた頼り方があるよね。うーん、どういう風に頼ればいいのかなー」

『……物凄く不安な気がします。あの娘にもよくありましたよ、ちゃんと理解しているのですか!?』

「大丈夫、大丈夫。あっ、みんなも見ていてね。チャイ、僕の契約した精霊たちも召喚するから、いっしょに遊んでくれる?」

『!!』


 精霊たちを呼び出し、デュラハン唯一の聖化個体であるチャイと時間を潰してもらう。
 どうやるにせよ、起きるのは惨劇……子供がジッと観るものでも無いだろう。

 そうしてアダルトタイムを確保したが、俺一人で考え得ることはやはりしょぼい。
 頼るの一環というか、どうせ思考を読んで全部把握している人に相談しよう。


「頼る……うん、頼るか。ねえアン、ボクが今何を考えているか分かるよね? 率直な感想をお願い」

《──何を考えているのかこのクソ野郎、でしょうか?》

「し、辛辣……」

《冗談ですよ。だいたい、そのような言動を一度でもわたしがしたことがありますか?》


 ……アンさんや、そもそもそういった演技ができる時点で、考えたことが無いと言い切れない証拠となるんですよ。


《おや、そうなのですか? しかし、わたしたち眷属はメルス様をお慕いしております。たとえ裏でどのようにメルス様を軽蔑していようとも、その命令だけは遂行しますのでご安心を》

「全然安心できない! ダメだよ、溜め込むと良くないんだからね……ハァ、全部が冗談じゃないにせよ、一部は冗談なんだから話を戻してくれるかな?」

《……まあ、そういうことにしておきます。お考えですが、一部修正を加えた方が良い点がありますね。まずは──》


 アンから意見を聞き、適当だった考えが計画らしくなっていった。
 自分でもこれならいけるかも……というプランになり、俄然やる気が出てくる。


《あまり、空回りし過ぎないように》

「了解、やっぱりアンを頼ってよかったよ」

《……お褒めに与り光栄です》


 そうとなったら、景気づけに一発。
 魔力を溜め込み、世界に告げるように──


「魔導解放──“地より這い出よ骸共”」


 蝗害、そしてアンデッド。
 さて、演出を整えていかないとな。


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