2,217 / 2,518
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント終篇 その16
しおりを挟むデバフ使いことエイブルは退場し、特級戦力(候補)が一人減った。
少しばかり消耗したので、一度撤退して改めて場の様子を窺うことに。
複製した『[コウジュコウ](再)』に関しては、まだ残っている。
いかに『選ばれし者』と言えど、さすがに悪意とリンクしているユニーク種は辛いか。
「そうだそうだ、悪意だったね──おーい、ここで助っ人を呼ぼう! みんなで声を合わせて、せーの──『デュラハン』くーん!」
魔本を膝の上に置いて、それぞれ対応したページに魔力を流す。
すると、五体のデュラハンたちがこの場に現れる。
戦闘狂やら憎悪に固執した個体、そして悪意に巻き込まれた人々の集合体。
彼らを俺の前後に二体と三体ずつ召喚し、指示を伝えていく。
「前の二人、君たちは暴れて。特に例の物を持っている人、それを重点的にね」
『……チッ』
『分かりました』
「後ろの二人は……うん、護衛だね。けど、少し手伝ってもらいたいことがあるから、その協力だけしてほしいな」
『『はい、ウケタマワりました』』
『!!』
前に出した二人は、即座に参加者……そして眷属へ襲い掛かる。
いつの間にやら、装備している悪意の産物が増えている……頑張ったんだな。
禍々しいオーラを全力で解き放ち、誰彼構わず暴れる戦闘狂。
その戦闘狂の陰で暗躍し、主に貴族っぽい連中を暗殺していく憎悪個体。
祈念者、そして自由民といった垣根は彼らにとって無意味なもの。
ただその身に宿した衝動のままに、悪意を振りまく使徒と化していた。
『『『…………』』』
「まあね、彼らみたいになれとは言わないしならなくていいよ。アレはアレで、幸せな姿なんだけどね。自分を掻き立てる衝動のままに、他者を顧みず暴れる……それもまた、人の姿だからね」
後ろに呼んだ三人は、俺が抽出した悪意の想念の中でも特に善良な部分の塊。
父親と母親、そして子供という悪意の犠牲者たち……その集合体だ。
だからこそ、悪意から生まれても強い破壊衝動などは感じていない。
それでも、同じモノから生まれた存在が、ああして振る舞う姿は……堪えるだろう。
「あの二人とみんなの違いは、力の根源をどう受け入れているかだね。彼らはそれと同調し、衝動のままに暴れることを選んだ。その方向性は違うけど、結局どっちも同じこと。それもね、別に悪くは無いんだよ」
『『『…………!』』』
「大切なのは、それを以って何を成すか。分かりやすく言えば、どうしたいかだね。戦いじゃなくたって、力には使いようがある。今回、みんなが何をしたいのか……それを見つけられるといいね」
縛りプレイで得たスキルは、ほとんどが戦闘スキルで少しだけ生産系が含まれる程度。
そうした行いしかやっていない、元よりそれを望んだが故の結果だろう。
もちろん、そうせざるを得ない環境で、否応なしに得てしまうこともある。
……そうならないよう、望む道を整えてやることが俺の偽善なのだろう。
「……ナシェク、ミコトさんはそういうことについて考えたことってある?」
『……ええ、ありますよ。孤児たちを救い、道を示していましたので。ただ、あの娘の場合は貴方ほどできることが多くありませんでしたので、誰かに頼ることが多かったです』
「頼る、か。初歩的だけど。とっても大事なことだったね。なら、そうだな……少し、頼ろうかな」
まあ、『言っていることとやっていることが違う』だの『解釈がおかしい』だのとよく言われる俺ではあるが、今回ぐらいはちゃんとできるはずだ。
「──となると、この状況に合わせた頼り方があるよね。うーん、どういう風に頼ればいいのかなー」
『……物凄く不安な気がします。あの娘にもよくありましたよ、ちゃんと理解しているのですか!?』
「大丈夫、大丈夫。あっ、みんなも見ていてね。チャイ、僕の契約した精霊たちも召喚するから、いっしょに遊んでくれる?」
『!!』
精霊たちを呼び出し、デュラハン唯一の聖化個体であるチャイと時間を潰してもらう。
どうやるにせよ、起きるのは惨劇……子供がジッと観るものでも無いだろう。
そうしてアダルトタイムを確保したが、俺一人で考え得ることはやはりしょぼい。
頼るの一環というか、どうせ思考を読んで全部把握している人に相談しよう。
「頼る……うん、頼るか。ねえアン、ボクが今何を考えているか分かるよね? 率直な感想をお願い」
《──何を考えているのかこのクソ野郎、でしょうか?》
「し、辛辣……」
《冗談ですよ。だいたい、そのような言動を一度でもわたしがしたことがありますか?》
……アンさんや、そもそもそういった演技ができる時点で、考えたことが無いと言い切れない証拠となるんですよ。
《おや、そうなのですか? しかし、わたしたち眷属はメルス様をお慕いしております。たとえ裏でどのようにメルス様を軽蔑していようとも、その命令だけは遂行しますのでご安心を》
「全然安心できない! ダメだよ、溜め込むと良くないんだからね……ハァ、全部が冗談じゃないにせよ、一部は冗談なんだから話を戻してくれるかな?」
《……まあ、そういうことにしておきます。お考えですが、一部修正を加えた方が良い点がありますね。まずは──》
アンから意見を聞き、適当だった考えが計画らしくなっていった。
自分でもこれならいけるかも……というプランになり、俄然やる気が出てくる。
《あまり、空回りし過ぎないように》
「了解、やっぱりアンを頼ってよかったよ」
《……お褒めに与り光栄です》
そうとなったら、景気づけに一発。
魔力を溜め込み、世界に告げるように──
「魔導解放──“地より這い出よ骸共”」
蝗害、そしてアンデッド。
さて、演出を整えていかないとな。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる