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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント終篇 その15

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 強制付与のデバフ使い、だがかなり面倒な宿業でも持っていたようで。
 強引に行った破邪の一太刀で切り伏せたところ、黒いナニカが飛び出した。


《──報告します。リオン様によると、やはり邪神の残滓だったようです》


 アンからの報告で、“魂喰の牙”で回収したソレの正体は判明する。
 妙に抵抗が激しかったのは、やはり自己防衛本能だったからだろう。


「……なんで邪神の残滓が、祈念者に憑りついているのかな?」

《リオン様、そしてご友神も分かっていないことでした。おそらく、運営神のどれかによる実験でしょう》

「人を実験台にするなよな……いやまあ、俺が言えたことじゃないけども」


 だからこその同族嫌悪、やり方が違えば自分もそうしていたであろう、そうどこかで認識できてしまうのだ。

 優先するのは眷属であり国民。
 その他を犠牲にして彼らが幸福を甘受できるのならば……俺は手段を択ばないからな。


「おっと、そろそろ時間か。早く復活させてやらないと」

『──それは、蘇生薬ですか? どうしてそのような物が……』

「ん? だって創ったから」

『……誰が?』

「僕が」


 ナシェクはひどく不思議そうだが、生産神の加護持ちだからな。
 取り出した蘇生薬の蓋を開けると、そのまま倒れている祈念者にぶっかける。

 やり方は雑だが、効果は覿面。
 徐々に粒子化していた体は、まるで時間を遡るがごとく再構築されていく。


「これで、とりあえず事情は聴けるかな?」

「…………」

「あっ、起きた? 殺してごめんね、でもああするしか他に──」

「ありがとう! 本ッ当にありがとう! 今まで誰も助けてくれなかったし、助けられなかったのに助けてくれた! もうずっと無理だと諦めてたけど、やった解放された……だから本当にありがとう!!」


 純度百パーセントの感謝。
 偽善でやっていた行いにそれを言われ、何とも言えないような顔を浮かべてしまっていることだろう。

 なお、認識阻害の状態異常も解除されたので、容姿などもある程度は分かるように。
 中性的な声、童顔に謎の紋様が描かれたタトゥーが印象的だ。


「え、えぇっと、君は?」

「ああそうだ、そうだったね、自己紹介もしていないのにこんなに話すのは失礼なんだっけ? ごめんね、ボクってあんまり人とお話しできなかったから、どういう風に話せばいいのかまだ分からないんだ!」

「……僕はノゾム、今はこんな姿だけで本当の姿はもっと大人だよ。君は?」

「ノゾム、ノゾム君か……うん、覚えたよ。ボクは『エイブル』! 種族は『呪人』で職業は【呪与王】! 固有スキルは──」

「わーわーわー! そこまで言わなくていいから! マナーみたいなものだから、エイブルも守ろう? ……教えてくれようとしたのは嬉しいけど、悪用する人も居るから気を付けないといけないんだよ」


 なんだろう、ピュア……なんだろうな。
 新弟子に箱入り娘っぽいお嬢様が居たが、それとはまた別ベクトルの箱入りっ子だ。

 ……うちの眷属で近しい者を挙げるとすると、アイリスだろうか。
 彼女は入院生活が長かったからこそ、与えられた創作物にどっぷり嵌っていた。

 なのでそういった知識もなく、純粋培養された子供……みたいな感じかもしれない。
 そんな子供を利用し、何かを企んでいた運営神……本当に、嫌になるよな。

 ──だからこそ、俺は変身魔法を解いた。


「わっ、驚いた……本当に、本当の姿ってあるんだね!」

「うん……いや、ああ。初めまして、エイブル。俺はメルス、あっちとこっちで別の名前なんだが……面倒臭いか?」

「ううん、二人分も名前を知ることができたもん! えっと、メルスお兄さん、初めましてです!」

「! ……ああ、初めまして」


 にっこり笑うエイブルを見て、俺の心はさらに浄化されていく。
 少なくとも、姿に関して隠すのはダメだと思ったんだよな。


「……ナシェク、この子の方が聖人として良くないか?」

『……大変素晴らしい提案ではありますが、残念なことに種族が問題です。最悪、私を身に付けただけで死に至ります』

「そっか……なら無しだな」

「?」


 まあ、ナシェクはまだ知らないが、この問題はそのうちなんとかなるからいいか。
 今は俺の独り言めいた呟きに、首を傾げているエイブルと話をしよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 エイブル(を操っていた邪神の残滓)は、悪意の産物からそのエネルギーを回収しようとしていたんだとか。

 祈念者には精神保護がされているので、主導権が乗っ取られていただけで意識はしっかりとあったからこその情報だ。

 なので本人としては自由に活動したいとのこと……その想いに応え、とりあえずご希望の場所に転送してやった。

 ちゃんと[フレンド登録]はしたので、何かあれば連絡してくれるだろう。
 ……オブリと会わせてみるのも、良いかもしれないな。


「──さて、当初の予定とは大きく変わったけど、これで特級戦力の一人が退場した。魔物たちを弱体化させて、他の参加者でも倒しやすくするエイブルが居なくなるからね……ああ、周りに誰も居なくなってる」


 集まっていた者たちも、ナースが張り巡らしていた“空牢ジェイル”を破壊できず、そのまま集まっていれば魔物たちに襲われるからかもう居なくなっていた。

 しばらくは、また様子を見ているだけでいいだろう。
 ……もちろん、飽きたらまた行動をするわけだけど。


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