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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント終篇 その13
しおりを挟む妖刀[貅霓]を握り、振るった一太刀。
狙うのは特級戦力(候補)の一人、デバフ使いの祈念者。
ローブを纏い、顔にも穴の開いていない仮面を着けた何者か。
体格は……認識阻害でもしているのだろうか、大まかに小柄だということしか不明だ。
そんな相手に再現だが、“居合・十式”まで使って全力の抜刀を行った。
スキルの補正も乗り、狙ったのは即死狙いの首──
「──“■”」
「っ……!?」
その寸前、何かを呟いたデバフ使い。
すると俺の視界が闇に包まれ、何も見えない状態となってしまう。
だがその直前、体がブレて決めていた軌道で妖刀が振るえなかったことだけは分かる。
つまり、暗殺は失敗……ここからはアドリブでの対応が必要となるわけだ。
暗視スキルを起動するが、それでも何も変わらない。
可能性は二つ、暗視スキルでは対応できないほどの闇か──
「『盲目』の状態異常、かな?」
「──“■”」
「くっ、今度は……『脱力』!?」
目は見えないが、[メニュー]画面は応用として脳内での認識も可能だ。
そこから[ステータス]を見てみれば、表示される状態異常の数々。
耐性スキルは付いているはずだが、いっさい抵抗できないまま付与されてしまった。
これがデバフ使い──【呪与王】の力、ということなのだろう。
「──“■”、“■”、“■”……」
「うっ、くっ、あっ……!」
「──“■■”」
「あがぁあああ!」
脱力の感覚に慣れず、動けない俺に届く大量のデバフ効果。
定番の『毒』、『麻痺』、『混乱』などだけでなく、『空腹』、『苦痛』などもある。
極めつけは一番最後、『呼吸困難』なんて面倒なものまで付けてくる始末。
だが、[ステータス]を見れば、あることに気づいた。
「『眠り』、『魅了』、『気絶』……なんてものは無いんだね」
「…………」
「それに、『静寂』を使えば相手の魔法や武技も封じれる。なのに、それを使わないってことは──良くて使えない、悪くて使うと自分にも不都合なのかな?」
固有スキルの制約なのだろう。
強制付与のデバフ、その仕掛けに何らかの形で自分への悪影響も繋がっている。
先ほどの付与攻撃で固有スキルは模倣できただろうので、アンがいずれ正解を教えてくれるはず……この仮定が正しければ、少なくとも相打ちでないと即死の付与は無理だな。
《その通りですよ、メルス様。固有スキル名は【導病相憐】、自身が現在侵されている状態異常に限り、ほぼ完全な成功率とします》
《やっぱりか……ただまあ、死ぬって状態を状態異常で定義されたら、結局反撃もできそうだしな。うん、気を付けないと》
《なお、これが基本の効果で他にもまだ何かあるようです。現在、早急な解析を行っていますのでもうしばらくお待ちください》
俺の考察にアンが補填をしてくれる。
なんとも面倒臭い固有スキルだ、どんな状態異常でも付与できるなら、もっと厄介だったので良かったと言えば良かったけども。
「となると、もう少し張り切っていかないとね──“死体告訴”」
「!?」
「うん、相手と繋がっている間に、向こうから仕掛けられたら効くみたいだね。良かったよ、これならちゃんとやり様がある」
スキルの一部をほんの数秒封印、そして発動する邪悪魔法の“死体告訴”。
本来、成功率はかなり低いが……自分に付与してからなら、簡単に通った。
「さて、これなら確実に勝てるんだけど、どうせ対策はあるよね?」
「……“解──ッ!?」
「だからって、それを防がないとは言ってないけどね。だから……っと──“消魔”」
「……!」
驚かれて心外だが、固有スキルもいきなり何も無い所から発動しているわけではない。
状態異常用の魔法、もしくは呪術(?)を使う前に周囲の魔力を散らしておいた。
それだけで状態異常攻撃は失敗するし、再びやろうにも妨害されるという意識が生まれる……一石二鳥、やはり幸運の妖刀を持ってきておいて正解だったな。
そろそろいいか、ともう一振りの妖刀である[貔截]を引き抜く。
なお、状態異常で俺の視界は今も奪われているが──それぐらいならなぁ。
「そっちが言いたいことも、まあなんとなく分かるけどね。ちょっとした理由で、こういう状態異常だらけの時でも動けるようにしているんだ。だから、分かってさえしまえばこういう風に──『双斬撃』」
「っ……!?」
「うーん、反応が無いのもなんだかつまらないかな。でも、悪いと思わないで欲しい──“帝宝瑞獣”、“百解瑞獣”」
幸運を喰らう妖刀。
多くのモノを犠牲にし、溜め込んできたソレを使っての一時的な強化。
長刀である[貅霓]は、邪悪を払うことで幸運を俺にもたらす。
そして山刀である[貔截]は、それらも含めた幸運を消費して──勝利を得る。
それら二つの効果を用いて、現状を改善する方法。
それを試すべく、二つの能力を発動した状態で──長刀で皮膚を傷つける。
「うん、治った……みたいだね」
「──“■”、“■”、“■”……!」
「さっきまでならともかく、今の僕には通用しないかな。とーっても、運がいいからね」
「……っ!」
向こうの固有スキルが、掛け直しが即座にできるということも分かった
自傷行為についてはあとで怒られるかもしれないが、充分に意味のある行いだ。
ギリギリのタイミングで使う、あるいは相手がデバフを施せなくなってから使う……そういう方法もありだろう。
けど、俺のこれまでの勘が言っているんだよな──もっといいやり方があるって。
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