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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント終篇 その07

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 参加者たちが集まる扉の前。
 最後の紋章の到着を待つ彼らの中で潜み、準備を行う俺。

 隠蔽系のスキルや魔術は全力全開。
 手の中には彼らが求める『白熊』の紋章が握られており──今、高く足を上げて……大きく振りかぶって投げる。


「──“早投スロー”!」


 ある意味、起きた現象とは真逆の武技名を叫んでの一投。
 鋭い感覚を持つ者はすぐに感知するようだが、それでも止めるには至らない。

 紋章はそのまま、扉の欠けていた部分にピタリと嵌る。
 その結果、扉が四つの紋章を中心に幾何学な魔法陣を描いていく。


「よしよし、成功したみたいだね──じゃあアン、お願い」

《座標を送りました、そちらで転移をお願いします》

「了解。すぐに行くよ」


 本来であれば、誰かしらに見つかるのがオチなのかもしれない。
 しかし現在、扉の演出に注目している参加者たちは気づけないまま目的地に到着する。

 足を載せた途端、視界は切り替わり眼前にはアンが待機していた。
 俺はノゾム状態の縛りを解除し、偽善者としての振る舞いを始める……つまり素だ。


「ふひぃ~。アン、設定変更ご苦労様。これであと一日は、ゆっくりできるな」

「さすがはメルス様です。もともと開かない扉ですが、意図して意味もない数字のカウントダウンを行うことで時間稼ぎを図るなど、想定しておりませんでした」

「……なんでだろうな、勝手に連想しちゃうのかもしれないな。まあともかく、これで呼び戻す時間が確保できただろう?」

「はい。すでに連絡は済ませており、各自すべきことを終えた者から帰還しています」


 まったりと椅子に座り、完全にリラックスモードに入る。
 参加者たちは現在、『23:59』と表示された門扉に注目しているからな。

 1分ごとにカウントが1減っていくので、つまり『0:00』になるまで丸一日。
 祈念者たちはこう察する──待てば扉は開くのかと。


「そりゃあ何より……っておっと、ちょうどいい。攻撃をしてくれたぞ、ナシェクも見てみろよ」

「……なんと嘆かわしい」

「いや、別に良くないか? 完全に自業自得だろ、アレは」

「……貴方がそのような発想を持たずにいれば、そもそもあのような仕打ちを受けることなど無かったでしょうに」


 祈念者と違い、『お約束』を理解できない自由民らしき貴族っぽいヤツが魔法で扉に攻撃を行った。

 するとどうなるか……せっかく2つ減っていたカウントが、また1つに戻ってしまう。
 祈念者はさらに察する、大人しく待たないと開かないヤツだこれ、と。

 コネを作っていた者が、すぐに止めさせるよう王子っぽい人に報告。
 ずっと待つのは嫌だったようで、彼もまたその貴族に攻撃の中止を命令。

 このままならば、ただ時間が過ぎていくだけだろうが……うん、つまらないからな。
 しばらく待ち、カウントが10減った辺りで次の仕掛けが発動する。


「さて、これがマイクだったっけ?」

「はい。認識阻害機能も搭載しておりますので、そのままの姿でも大丈夫ですよ」

「……いや、変身魔法は使うから──なんかこう、心から切り替えないとあとで羞恥心が酷くなるんだよ」


 ノゾム状態とは少し違う、少々ウザめなイメージで創り出す少年の虚像。
 一度目と同様、マイク型の魔道具に手を当てて──スイッチを入れる。


  ◆   □   ◆   □   ◆


≪──やぁやぁ、四天王をどうやら突破したみたいだね。おめでとう、コングラチュレーション! ちょっと間抜けなことをしている人も居たみたいだけど、これでぼくの部屋に入る権利が与えられたね≫


 突然響くその声は、すべての始まりを告げた何者かによるもの。
 その間に、玉座の間入り口の映像がエリア中に放映される。

 いったいどういうことなのかと、抱かれた疑念に応えるように声の主は語った。


≪今、映像を出したと思うけど、その数字がゼロになったらあることが起きるよ。でも、扉に干渉されたらその数字はどんどん元に戻ることになるんだ──というわけで、防衛戦の始まり始まりー! ポチッとな≫


 最後の声が引き金となり、激しく振動しだす映像内の場所。
 すると、これまで現れなかった魔物たちが扉へ向け、どこからともなく吶喊を始めた。

 とっさに反応を示す者たちは多かったが、それらを掻い潜り魔物が一匹扉に衝突する。
 すると、減っていたカウントがまた1つ元に戻った。


≪まあね、ぼくもただ相手を休ませるだけの旧時代の悪役じゃないからね。いろいろと頑張ってみてよ……あっ、言っておくけど、扉の近くで魔法を展開したら、その分だけ数字は元に戻るからね≫

≪もちろん、そんなバカみたいなことをする人は居ないと思うけど。そんな頭の悪いこと考えるとか、常識的に考えてありえないもんね……ごめんね、ぼくが悪かったよ。じゃあみんな、張り切っていこー!≫


 イラっとする参加者たちを無視して、声はぱったり聞こえなくなる。
 最後の内容が意味するもの、それは常駐する防御網の構築ができなくなるということ。

 検証班の調査により、扉から半径五メートルでの魔法は使用禁止となる。
 参加者たちは扉のカウントを減らすため、長い長い戦いを強要されるのだった。


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