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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント終篇 その06

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 礼装を使わず、ナースの虚無の力を直接体内に収めた結果。
 体が内側から崩壊し、生死の境をさ迷うことになった。

 試合に勝って勝負に負ける。
 実際『ギブアップ』宣言をしているので、シャルの温情が無ければ引き分けにもならなかっただろう。


「……なんというか。眷属のみんなって、膝枕が好き、だよね」

「あっ、メル君起きた? まったくもう、無茶し過ぎだよ」

「ごめんごめん。えーっと、それで向こうの試練はどうなったのかな?」


 すでに“空牢ジェイル”が解除されているので、ナシェクとヴァ―イ側も確認できる。
 戦闘は終わっているのだが、果たして結果は──


「ナシェクさんが勝ったみたいだよ。ヴァ―イも頑張っていたみたいだけど、途中から凄く強くなったんだって」

「……虚無の力じゃなきゃいいけど」

「うーん、どうだろう。みんなが観ていた限りだと、たしかに普通の天使様っぽくは無いみたいだったけど」


 シャルとの接続が断たれた後も、精霊たちは二人の戦いを観ていたようで。
 それによると、追い込まれていたはずのナシェクが急に力を制御を誤りだしたらしい。

 ……うん、虚無のエネルギーがそっちにも行ったのだろう。
 普通なら、耐えられないはずだが、事実として今なおピンピンとしているようだ。

 聖具だが、異世界転移の特典として生み出されたからこそ耐えられたのかもな。
 なんてことを思っていると、ナシェクがこちらにやってくる……あっ、怒ってる。


「貴方という人は……なんですかアレは!」

「……ナースの虚無の力だけど。もしかしなくても、そっちに行っちゃった?」

「行っちゃった、じゃありません! ……お陰で危険なところを免れましたが、制御にかなり苦労したのですよ!」

「あはは……ごめんって。いっしょに助けてもらうときは、これからちゃんと気を付けるから許してよ」


 お説教したそうではあったが、俺の現在位置はシャルの膝の上。
 彼女まで巻き込むわけにはいかない、そんな天使の思考回路が説教を一時中断する。


「ハァ……次は無いと思ってください」

「はーい、気を付けます」

「……。試練は突破しました、次に向かいますよ」

「うん、分かった……というわけだから、姫様。もう僕は大丈夫だから、このまま行かせてもらうね」


 よいしょっと、体を動かすがすぐに激痛が全身を走る。
 それでもこれまでに得た耐性スキル、そして今回得た虚無耐性スキルを行使。

 おまけに演技スキルを最大限に使い、自分なりに笑顔を浮かべる。


「うん、もう平気だ──」

「メル君……顔、引き攣ってるよ?」

「……ダイジョウブ、ダヨ」


 信じてもらえないようで、ジト目で見てくるシャルの視線から目を背け、ナシェクと共に転送陣へ向かう。

 これでいいのか、とナシェクまで見てくるのでさらに視線を逸らした。
 ……仕方ないじゃん、こうでもしないと次へ進めないの!


  ◆   □   ◆   □   ◆

 導刻の回廊 玉座の間:入口


 転送陣に乗った回数が一定数を超えると、最終的にここへ到着するようになっている。
 ゲーム同様、最後の休憩場として広い空間が用意しており、参加者の多くが休息中だ。


「結構みんな、頑張ってるんだね……ほら、アレを見てよ」

『紋章が三つ嵌っていますね。そうではないのは、『白熊』の紋章のみ』

「うん、スーが面倒臭がったんだろうね。まさか一番最初に貰った紋章が、誰も手に入れていない物だったなんて……」


 絡まれると面倒なので、ナシェクにはいったん腕輪に退避してもらっている。
 俺自身もバレるのを避けるため、今は魔術とスキルを併用して隠形中。


「ねぇ、アン。紋章は嵌めた瞬間、扉が開くようになるの?」

《そのように設定しておりましたが、変更なさいますか?》

「休みたいし、連絡をさせたいかな? だから、────って感じにしてほしいんだ」

《畏まりました。では、実行は連絡後にお願いします》


 アンが扉の設定を書き換えている間、ただのんびりと待つだけの時間が過ぎる。
 それはそれとして、これまで獲得したスキルを見て何かできないかなども考えておく。


「やっぱり、あんまり普段使いしないようなスキルも入っているな―。似たようなスキルも多いし、いっぱいあるんだよね。そういえばナシェク、ミコトさんのスキルってどれくらいあったの?」

『あまり記憶していませんが、武術のみで五十はありましたね』

「……そんなにあるんだ。というか、やっぱり異世界人はスキル枠が無制限なんだね」


 他の実例──アカリとアカネの姉弟も、同様にメイン/サブといったスキル枠の概念を持ち合わせていなかった。

 俺も俺で、終焉の島以降はスキル枠が無くなっていたからな。
 おそらく間違っていないはず……うん、試したいわけじゃないけどな。


「そう、利点はスキルの多さなんだよ。だからこそ、ラスボスをやるにしてもそこを上手く使わないといけないね」

『……本当にやるのですか?』

「うん、そうしないと納得できないだろうからね。今までの風習は、積み重ねた想い以上に強引なナニカで打ち砕くんだ。それが僕にできる、精いっぱいの偽善だよ」

《──準備が出来ました》


 ちょうどいいタイミングで、アンからの連絡も来た。
 それじゃあ、ラスボス戦を始めてもらうとしますか!


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