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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント終篇 その05

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 始まった俺&ナシェクVS『赤頭巾』シャル&『餓狼』ヴァ―イの試練。
 開始早々俺が“空牢ジェイル”を使い、分断したため一対一が二ヵ所で繰り広げられている。

 精霊を統べる妖精の姫、そんな職業に就く彼女に今回契約精霊たちは強く出れない。
 唯一平気なナースと共に、指輪から精霊を呼び出したシャルに時間稼ぎを行う。


「一発一発の火力なら、こっちが勝つよ──“無装クローズ”!」


 虚無エネルギーを武器として固める。
 今回はその形を剣ではなく槍として、あえて身の丈に合わない長さにした。

 その意図を理解できないシャルだが、意味もなくやらないということは認識している。
 精霊たちに頼み、周囲の警戒も怠らないようにしていた。


「行くよ──“虚無イネインバレット”!」

「! みんな、全力で回避ッ!!」


 まずは先制攻撃。
 虚無のエネルギーを弾丸にして、射出。
 シャルと精霊たちは防御を選ばず、すぐに回避行動に移る──正解だ。

 弾丸はそのまま“空牢”に当たり、消失。
 通常の物質や他の属性で構築された檻ならば、容易く崩壊していただろう……あくまでも、同属性で構成されていたからだ。

 凶悪な<虚空魔法>、その弱点は──高すぎる威力ゆえに速攻で感知されてしまうこと。
 特に死に関する感知能力を持っていると、性能が低くとも過敏なほど反応する。

 それを活かして囮に……といった方法も、ナースの力しか借りれない現状では不可能。
 あくまでも、虚無のエネルギーで戦うという前提は崩せない。


「──“虚無・ボール”」

「今度は……なに?」

「ううん、まだ何もしないよ。ほら、いつ来るか分からないと不安になるでしょ?」

「……そういうの、良くないと思うよ」


 わざわざ<常駐魔法>を使わずとも、ナースの適性があれば無意識で制御できる。
 周囲に“虚無”を球状にして留め、いつでも当てられるとアピールした。

 一つひとつに死への予感が働くので、決して囮だと意識は緩められなくなる。
 張り詰めれば張り詰めるほど、ただ時間だけが過ぎていく。


「どうする、このまま向こうの二人が終わるまでお話でもしようか?」

「それでもいいけど……ワタシだって、たまには戦えるんだって証明しないと」

「それは、どうして?」

「──メル君といっしょに居たいから。だから、まだ諦めない!」


 精霊たちが強く輝き、シャルの中へ宿っていく。
 俺のように憑依しているのではなく、一つになる──つまり同一化を図っていた。

 とはいえ、主導権は完全にシャルにある。
 精霊たちは身を捧げ、彼女の行いの糧へ。
 それはまさに、王族とそれに仕える従者の如く──。


「──『精威解放』。ワタシだって、ただ何もしていなかったわけじゃない」

「……やっぱり、姫様は姫様ですよ」


 赤ずきんが外れた彼女の背には、精霊たちが魔力で模った妖精の羽が構築されていた。
 同時に──頭部には小さな冠、手には蝶が飾られた錫杖を握り締めている。

 それはまさしく、【精霊妖姫】そのもの。
 出会った頃とはまるで違う、ただ狼に食べられるだけの悲劇の少女ではない──己の運命に抗い、打ち勝った立派な淑女だ。


「こんなときばっかり、メル君っぽくならなくてもいいよ。ワタシは全力で挑む、だからメル君……全力で応えてね」

「了解──“精霊憑依ポセッションエレメンタル”解除」

『けーやくしゃ?』

「魂魄を借りるよ……小さき子。虚空を司りし神なる霊。才なき才、無の才を抱きし者。たとえ森羅に通じずとも、星に在りしは虚無の理。失われし其の力、我が意に従い振るえ──“虚無魂魄ソウルヴァニタス”」


 礼装などその身に纏っていない現状。
 しかし、これは俺と眷属たちが交わした魂魄レベルの契約。

 あくまでも礼装は、凡人では受け入れきれない彼女たちの才覚を留めるための容器。
 ……また『ギブアップ』することになるだろうが、全力には応えないとな。

 礼装であれば衣装も変わるだろうが、今回変わるのは服ではなく──俺そのもの。
 脳をガツンと揺さぶられるような拒絶感に耐えながら、成すべきことを成す。


「……時間が無いんだ。こうなった以上、時間稼ぎなんてできない。だから、全力をぶつけてきて!」

「最初からそのつもり! みんな行くよ──“妖精統杖ティタニアスタッフ”!」


 シャルの使った魔法により、統率されたような動きでいっせいに魔法を放つ精霊たち。
 指示に従った際の行動に補正が入る魔法だが、資質もあって通常以上の補正だ。

 故に精霊たちが放った魔法の数々も、相応に火力の高いものとなっている。
 集めれば、ただの“虚無”であれば対消滅まで追い込めるだろうな。

 迫ってくる魔法を前に、俺はまず大きく深呼吸。
 ナースの魂魄を受け入れ、虚無エネルギーが体内で満ちている。

 ……この状態であれば、スキルが使えずとも成功すイケるだろう。


「……なんちゃって夢現流武具術槍之型──『虚無槍』!」


 脚を踏ん張り、腰を捻り、全身を使って前に槍を突きだす。
 魔法にも当たらず、意味の無い空振り……となるはずだった突きの先にナニカが来る。


「元より、<虚空魔法>は虚無の世界に穴を開けてエネルギーを引っ張ってくる。なら、それ以外の方法で干渉する方法は? その答えがこれなんだ」

「……まだ、届かないんだ。今のメル君とワタシじゃ、全然ステータスに差があるのに」

「騎士は、姫様を守りたい生き物なんだよ。だから……これくらいの無茶だって、ね」


 虚無の世界に魔法のエネルギーは呑み込まれ、やがて穴は勝手に閉じた。
 俺の下に届いた魔法は無く、残されたのは勝手に自壊するバカ独りのみ。


「『ギブアップ』。姫様……シャルの勝ちってことで」

「こんな結果……ワタシは嫌」

「あはは……じゃあ、引き分けだね」


 体内で暴れ回った虚無エネルギーが、すでに全身を内側からズタボロにしている。
 本能が回復を図るため、意識を強制的に切断して休息を行うのだった。


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