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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント終篇 その04

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 導刻の回廊 餓狼の間:入口


 魔族領域での悪意の産物探しを終え、再び浮島攻略を始めた俺と精霊とナシェケエル。
 流れによって、四天王の部屋の入口に飛ばされたのだが……部屋の名前に驚いた。


「……へぇ、参加してたんだ」

「どうかしたのですか?」

「ううん、別に。それより、ナシェケエルも早く行こう」

「……いちいち長いですし、どちらであってもナシェクで構いませんよ。しばらくは、こうしていることも多くなりますので」


 契約を書き換え、ナシェケエル──ナシェクには第二形態である天使姿で顕現してもらうことになっている。

 その間ずっと魔力を支払うのだが、スキルで補えばどうにかなった。
 ……まあ、さすがにディーとの併用はまだできなかったけども。

 単純に一人より二人だし、俺にはいちおう『アルカナ』と大悪魔も居るからな。
 ちゃんと対価さえ支払えば、仕事はきっちりしてくれるし。


「分かった、ナシェク。それじゃあ、準備はいい?」

「ええ、構いません」

「よーし、開けーゴマ!」


 定番のフレーズを言いながら、扉に触れれば勝手に開く。
 ……呆れ顔なのは、たぶん元の担い手であるミコトさんもやっていたからだろう。

 ゴゴゴッと重低音を立てて開いた扉の先、そこに広がるのは──幻想的な森。
 その中央は開けており、一人の狼獣人が侵入者を待ち受けていた。


「よく来たな、『餓狼』の間へ!」

「……何やってるの、ヴァーイ」

「……。試練は単純、俺を戦いで楽しませてみな! そうすりゃあ、この証はお前たちにくれてやる!」

「あっ、無視した」


 ヴァ―イ、それは『赤ずきん』の童話世界に現れた【貪食】を持つ狼獣人。
 いろいろあって、少女を救うついでに彼も因果から解放したのだが……。

 眷属ではない彼が今回、なぜか眷属が担当している四天王をやっている。
 この問題、それに答えてくれるのは──彼女ぐらいか。


「どういうことですか──姫様?」

「! メル君……き、気づいてたの?」

「今はノゾムだけどね。霊視、精霊感知、思念感知なんかのスキルもあるから。そういう風に隠れていても、精霊たちが姫様がどこに居るか教えてくれるんだよ」


 ヴァ―イと共に部屋に居て、かつ精霊の力でその姿を隠していた少女。
 赤い頭巾を被る彼女こそ、自由世界における『赤ずきん』の主人公シャル当人。

 眷属なのは彼女の方で、ヴァ―イは普段彼女の護衛を務めている。
 ……なのにどうして、こんなことを二人してやっているのやら。


「それで、どういう事情なのかな?」

「……メル君たちの力になりたくて。とりあえず立候補してみたものの、ワタシの力って精霊のみんな頼りだから」

「代わりにヴァ―イが表向き四天王を務めながら、姫様が支援をするってこと?」

「……ダメ、かな?」


 涙目+上目遣いのコンボは、俺の心にクリティカルヒットしていた。
 まあ、やり方は眷属たちに委ねていたのだから、こういうのある意味アリなのか。

 そんなこんなで、『餓狼』という四天王と戦うわけなのだが……。
 相手もこちらも共に二人、なのでやり方もこれまでとは少し違ったものとなる。


「──『天雷の槌使』」
「──『聖邪炎の羽翼カオスフレイムウイング』!」

「──“精霊合身フューズエレメンタル”、“精霊憑依ポセッションエレメンタル”」
「──“精霊召喚サモンエレメンタル”!」


 ナシェク、ヴァ―イは戦闘モードに移行。
 雷を迸らせ、白と黒の炎を背に生やし──空での戦闘を繰り広げる。

 俺とシャルは共に精霊の力を行使。
 ただし、俺がその身に自分の契約精霊を憑依させているのに対し、彼女はただ周囲に展開するのみ……問題はその数だ。


「姫様……相変わらずだよね」

「ふんっ、名前で呼んでくれないメル君なんか知らない!」

「今はノゾムだからね。二人っきりの時は、好きなだけ呼ぶんだけど」

「~~~~ッ!? そ、そういうことなら許すけど……で、でも、だからって、手は緩めないからね──みんな、やっちゃって!」


 シャルの職業は【精霊妖姫】。
 血による遺伝で目覚めた、精霊たちを統べる妖精の姫。

 故に契約を介さない野良の精霊はすべてが彼女の味方となるし、そうでなくとも大半の精霊たちは彼女への攻撃を手緩くする。

 俺と契約した精霊たちも、攻撃を行うのであれば抵抗を見せるだろう。
 ……例外的に、ナースだけは神霊なので問題ないのだがな。


「精霊の御姫様でもある姫様に、精霊たちとのコンビネーションで挑むなんて……本当無理ゲーだよ」

「ふっふっふ、ギブアップする?」

「ううん、まだまだ──“空牢ジェイル”」


 虚無エネルギーの檻を展開し、シャル──そして俺を内部に収容する。
 その瞬間、彼女と精霊との接続は絶たれることに……まあ、まだ油断はできないが。

 だがそれでも、ナシェクとヴァ―イの戦いは純粋な彼ら彼女らの実力次第となる。
 俺の役割は、二人の戦いが終わるまでシャルを食い止めることになるわけだ。


「むっ、呼べなくなるんだ……」

「普通の精霊使いなら、これで終わりになんだけどね」

「ワタシは違うもんね──来て!」


 眷属一人ひとりに渡している指輪。
 シャルに渡している指輪の効果は、シンプルに霊的存在を保存できるというもの──そのストックが尽きない限りは終わらない。

 現れるのは、契約精霊に非ず。
 シャルは精霊との契約を好まず、あくまでも友好的な存在だと考えているからな。
 ……何か別の理由もあるらしいけど。

 まあ、ともあれ契約をしていないからか、最上位の精霊などは指輪から出てこない。
 そして、俺にはナースが居る……そう簡単には、負けたりしないぞ。


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