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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント終篇 その01

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 ラスボス(仮)が始めた、風雲タカシ城。
 祈念者、自由民、魔族……さまざまな勢力が願いを叶える魔法陣(加工済み)を求め、迷宮『導刻の回廊』を進んでいる。

 俺もただの祈念者()として、精霊や聖具と共に迷宮を攻略していた。
 ……まあ、途中で楽をしたり無理ゲーに挑まされたりもしていたが。


「というわけで、とりあえずちょっと休憩。アン、レッツティータイム!」

「…………」

「畏まりました、メルス様。では、そちらの席に移動しましょうか」

「おう、やっぱりティータイムはちゃぶ台と畳に限るな……緑茶だし」


 出された湯飲みでお茶を飲む。
 ……沸かす時間? すでに準備した物を、魔道具から取り出しただけだし。

 何より、準備したのは俺だしな。
 アンはそれを出しただけ、まだまだ緑茶を飲むことで負けるわけにはいかないのだよ。

 さて、そうしてまったりと時間を過ごしていたかったわけだが……ちゃぶ台に並べられた湯飲みの数は三つ──そう、俺とアン以外にもう一人居る。

 天使の翼が生えた少女。
 ただしそれは模造品、それでも神によって創られた本物に限りなく近い──それ以上の聖性を宿した模造天使ナシェクだった。


「……これは、どういった茶番なので?」

「おっ、上手いこと言うな。けど、どうせならティータイムの方にもツッコミを──」

「そうではなく! あの……いろいろと訊きたいことが増えたのですが……」

「まあまあ、そう硬いことを言わずに。まずはほれ、一杯どうぞ」


 そう進めると、しばらく熟考した後に啜るナシェク……小さく『美味しい』と呟くのを聞いて、俺からの好感度は爆上がりである。


「ズズズッ……知っての通り、俺は『メルス』と『ノゾム』を使い分けているわけだが。今回、ある魔法を見つけた。どんな願いも叶う魔法、そんな物があると思うか?」

「無い……とは言い切れませんね。異世界から人を呼ぶ魔法、死者蘇生の魔法、あの娘の世界にもそんな能力があったと言っていたことがありました」

「…………その話はあとで詳しく聞くとしてだ。まあ、この世界にもそれはある。ただ、代償が酷くてな……使えば使うほど、世界のどこかで災害が起きる」

「……願いが叶う代償と言うのであれば、妥当であるかもしれませんね。ただ、それを他者に押し付けるのは残酷ですが」


 禁忌魔法“星命誓願ウィッシュ・ア・スター”とはそういう魔法だ。
 自分の命を捧げる“身命祈願サクリファイスウィッシュ”よりもえげつなく、世界そのものに願いの代償を強要するという悪辣の極みみたいな魔法である。


「ただ、そんな魔法もあるときからだんだんとおかしくなった。始まりは真っ当な理由があろうと、それを後世まで維持できなくなる人の世と同じだな」

「──まったくです(即答)」

「まあ、要はいろんな奴が私利私欲で願いを叶え続けた結果、早く使いたいからと触媒に血と死体と悪意を使うようになった。で、胃もたれしそうなものばっかり食わされた魔法がキレて、イカれた魔法になったわけだ」

「これだから人は……私のような聖具も、こうしてやがては感情を持つようになるのですから、こうなることは分かっていたでしょうに……」


 いえいえナシェクさん、魔法が意志を持つのは極めて稀な例ですよ。
 そういった伝説もあるらしいが、さすがに俺も創作物の知識が無ければ納得できない。

 ……試したりしたよ、魔法を人にするとかアイデアを拝借して。
 でもまあ、右往左往あってプロジェクトは凍結されたからなぁ(遠い目)。


「そりゃあ、後のことなんてどんな願いも叶う魔法の前じゃ無意味だろ。あとでどうにかなる、子孫にお任せ……みたいなノリだろうしな。まあ、溜まり溜まったその悪意なんだが──とりあえず俺がパクった」

「…………。あの娘もそうでしたが、どうして異世界人というものはここまで行動が突拍子も無いのでしょうか」

「お察しします、ナシェク様。わたくし共も同様の想いを抱いております」

「アンさん、でしたね。ええ、貴女たちとは仲良くなれそうです」


 なんだか俺のことをだしに仲良くなっている気がする……まあ、別にいいけども。
 ちゃぶ台の上で『の』の字を書きながら時間を潰していると、やがてこちらを見る。


「ああ、すみませんでしたメルス様。では、簒奪した辺りからどうぞ」

「…………つーん」

「これは……もうしばらくトークを見ていたい、といったところでしょうか?」

「……絶対に違うでしょう」


 面倒臭そうにナシェクが見ていた。
 これ以上は、さすがに無理か……字を書くのを止め、顔だけはとりあえず深刻そうな表情にしておく。


「エネルギーをパクって、儀式場も壊した。だから、過去と同じことをしたいなら、俺の下……というか最奥に置いた魔法陣に辿り着かないとならない。で、それを誰でも参加できるようにした結果がアレだ」

「誰も彼もがここを目指し、命を削り合うわけですか……」

「まあ、とはいえ死にはしない。参加権を一定時間剥奪して、強制退場する仕組みになっている。もちろん、仕組みを逆手に取ろうとする連中には、お仕置きもするけど」

「……そうですか、それを聞けて良かったです。それで、ここでそれを私に説明して、今後はどうされるのですか?」


 まあ、そんな質問が出てくるのは想定していた。
 なのでこちらも、当初から予定していた通りの回答を。


「ノゾムとしての活動は続行、ナシェクにはその手伝いをしてもらう。時々、他でやっていることもあるから、その間は他の眷属のサポートをやってもらいたい」

「サポートですか?」

「ここでアンと全眷属への指示をしてもいいし、誰かの行動の補助でもいい。まあ、交流期間だな」

「……分かりました。まずは、アンさんの手伝いをします」


 というわけで、しばらくナシェクにはここで仕事をしてもらおう。
 俺はその間に、各地に向かっている眷属が見つけたものを確認しなければ。


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