上 下
2,201 / 2,518
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント後篇 その20

しおりを挟む


 逆鱗状態になり、複数の形態を取るようになった[ドラグリュウレ]。
 そんな形態の一つ、フィレルの力を操る紅モードに大苦戦。

 光によって生成される血が、全方位から一斉に攻撃してくる。
 ピンチになったそのとき……腕輪から、溜め息のような声が聞こえてきた。


「あっ、起きた?」

『……貴方、気づいていたでしょう?』

「まあ、あれだけ呼び掛けていたしね。おっと、ちょっと待っててね──“虚崩ブレイク”」


 自身でピンチと称した全方位攻撃だが、さすがに虚無魔法を使えば余裕で防げる。
 ただ、ナシェクを呼ぶのにちょうどいいシチュエーションだったからな。

 向けられていた血の棘すべてを、虚無エネルギーを解放して消し去る。
 広範囲に作用し、エリアそのものを滅ぼすこともできる形態──それが“虚崩”だ。


「そして──“空牢ジェイル”」

『──ッ!!』

「しばらくはその中に居てね」


 ナースの適性が無ければ使えない、恒常的に虚無エネルギーの檻を維持する“空牢”。
 内部で[ドラグリュウレ]は暴れるが、ビクともしない頑丈さを発揮していた。

 ともあれ、こうして拘束しておけばしばらくは持つだろう。
 ……今は、せっかく反応してくれたナシェクと話す時間だ。


「お待たせ~。で、えっと……どこまで話したんだっけ?」

『……まだ何も話していませんよ。それで、私を呼んで何をしたいので?』

「関係をね。改めて話そうかと思って……単刀直入に言うよ──僕は、聖人には絶対にならない。ミコトさんの代わりは務まらない、そして努めたくもない」

『っ……! なぜ、そのようなことを今言うのですか?』


 ナシェクが心のどこかで、俺を代替品のように考えていることは知っていた。
 すでにこの世に居ないミコト、その影を追い次の担い手を求めている。

 だが、求めていてもナシェクにとっての理想の体現者はミコトただ独り。
 過去にナシェクを振るおうとした者たち、失敗者たちが蝕んでいる。


「──ミコトは生きている、そうだと言ったら……どうする?」

『…………。えっ?』

「言葉通りだよ。死んだと思っていたミコトがまだ居て、ナシェクを求めている。それなら、僕が何もしなくたっていい──」

『ふざけないでください! ミコトは……あの娘はもう死んだのです! どうして……どうしてそんなに酷いことを……!』


 割り切るための時間は、ナシェクにとって心の殻を生み出す時間だったのだろう。
 いっしょに居た時間の短い俺の言葉など、信用も信頼もしてくれない。

 ──だからこそ、この言葉を贈ろう。


「『貴女に会えてよかった。貴女が居たからここまで来れた……ありがとう、ナシェ』」

『! それは……あの娘の!!』

「僕のことは信じてくれなくていいけど、彼女の言葉は信じてほしいかな? ナシェクといっしょに居たミコトさんは、たしかに死んだよ。でも、残した軌跡まで無くなるわけではない……」


 なお、遺言っぽい発言は最期に刻んだ言葉としてアイの所へ行った残留思念が覚えていた言葉だ。

 とても印象深かったのだろう、強く焼き付いていたらしい。
 ……あれからそれなりに時間も経って、集められる情報も増えているからな。


「改めて契約しよう──僕との契約、その期間はミコトさんを見つけだすまで。具体的な期間は……うん、ごめん。まだ分からないから、要相談で。こっちの要求は、第二形態の恒常的な使用許可」

『……それを許せば、どうなると?』

「さぁ。僕は変わらずミコトさんを探すし、ナシェクは何もしなくたっていいよ。ナシェクがそれでいいなら……だけど」

『安い挑発ですね……それが貴方にとって、現状を打破するほどの何かを得られる話ということですか?』


 そう、挑発だ。
 はっきり言えば、契約の破棄も強引な契約も俺なら自由にできる。

 それでもこうして語るのは、その方が利益が生まれると信じているから。
 ……自分がつくづく凡人だと思える、なんとも浅い考えだけども。


「少なくとも、こんな風にいちいち手間が掛からなくて済むよね? ナシェクは俺を矯正しなくていいし、俺も自由で居られる。僕たちはただ、ミコトさんを探す……そこだけが同じ目的なんだ」

『…………本当に、ミコトを見つけてくれますか?』

「眷属たちに誓って。僕……いや、俺は必ず二人を引き合わせる」

『──分かりました。ならば、この力……この身はこれより貴方に。この心はあの娘と共にあれど、それ以外のすべてを』


 その言葉を頂けたのとほぼ同時、ちょうど虚無エネルギー切れなのか“空牢”が崩壊。
 中から現れた[ドラグリュウレ]に対し、俺は──言葉を紡ぐ。


「──『天源の鎧使』」

「…………」

「それじゃあ、倒すのを手伝ってくれる? あっ、ついでにこれまでと態度は変えなくていいからね」

「……それを今言いますか? ハァ……分かりました、ノゾム」


 ナシェク……否、ナシェケエルと共に駆け出し、[ドラグリュウレ]へと挑む。
 一人でもそれなりに戦えている相手に、二人で挑めば……そりゃあ結果は見えている。

 銀、紅、そして黒の姿を使って抗ったのだが、それでも『天源の鎧使』の力を解放したナシェケエルには通用しなかった。

 そうして、俺たちは[ドラグリュウレ]の討伐に成功。
 最後に『箱舟』の紋章を受け取り、次なるフィールドを目指すのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...