上 下
2,199 / 2,518
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント後篇 その18

しおりを挟む


 精霊たちを“精霊憑依エレメンタルポセッション”で纏ったうえ、“精霊合身ヒューズエレメンタル”で擬似的に繋ぐ。
 九つの属性を使えるようになった状態で、振るう武器は魔武具『アルカナ』。

 ナシェクが協力してくれない状況ではあるが、充分に準備を整えたはず。
 すべては、『箱舟』ことノアの召還した魔物たちを処理する試練を乗り越えるため。


「──『氷結世界グラシエイト』」


 精霊たちの魔法は人族が用いるシステム的な魔法と違い、本来あらゆる魔法が理論上は使うことができる。

 魔力が足りない、あるいは精霊たちが使うイメージを行わない……そういった事柄から使わないだけだ。

 なので、氷魔法しか習得していない現状でも、氷河魔法モドキを発動できる。
 万物を凍らせる氷の世界、生み出された魔物たちを即座に冷凍処分していく。


「それじゃあ、試練のやり様がないじゃないか……魔物の種類を変更するよ」

「氷耐性付きかぁ──“天侵嵐萬カースドテンペスト”」

「き、君は……分かっていたけども、徹底してえげつないね」

「滅多にない時間だからね。僕はこうして、耐えられた個体を斬るだけでいい簡単なお仕事だよ。さぁ、もっと遊ぼう」


 時折、魔法そのものへの耐性からか攻撃を逃れる個体が現れる。
 俺の仕事はそんな個体に対し、絶対に傷を与える魔武具で一撃を食らわすこと。

 少なくとも今のところは、上手く行っているように思える。
 が、相手は魔王でもあるノア……そう簡単には終わらないだろう。


「遊び、か。君がこの試練を遊びと評するのであれば、相応に楽しめないといけないね」

「あんまり長続きしないから、短くかつ難しい物をお願いします!」

「うん、なら長期的な方がいいかな? だけど、君の本気が見たいのもまた事実。よし、君の主張を採用しよう」


 指を鳴らす演出を行うノア。
 すると、魔法陣の数は一気に減り一つへ。
 つまりその分だけ、質の高い魔物が現れるということだ。


「一体にしようかな?」

「……それ、その分だけ強いよね?」

「でも、それを君が望んだわけだし。だからこそ──全力を示そう」

「こ、れは……!」


 高層ビルほどの巨大な体、そして背から左右に伸びた巨大な翼。
 爬虫類染みたその存在を、人は竜、もしくは龍と呼ぶ……しかし、真実は異なる。

 世界でたった一人、存在するイレギュラー的竜種の『劉』。
 そんな『劉』の協力を得て生み出した、人造のユニーク種。


「『覇天劉[ドラグリュウレ]』!? な、なんで呼べるの!?」

「君の眷属が、できるようにしたからさ」

「嗚呼、なんて分かりやすい理由……! でも、それならこっちも全力全開でやらせてもらわないとね──“虚無イネイン”」


 相手にとって不足無し。
 ならばと使うのは、ナースの冠する属性と同じ名前の魔法。

 普段は制御しがたいそれも、ナースと共に在る現状において制御は容易い。
 息をするように魔法を制御し、やがてはそれを身を包む形で纏う。


「──“無装クローズ”。ちょうど、ナシェクが無の鎧を使っていたからね。参考にさせてもらったよ」

『…………』

「無視かぁ。まあいいけど、それよりも……倒したら特典はあるの?」

「いいや、あくまでも再現。すでに居ない存在であることに変わりはないよ」


 まあ、それが可能なら特典の無限増殖もできちゃうしな。
 ディーの“専変瞞化ディヴァース”も同じような感じだし、世にそういう裏技は無いわけか。

 改めて、[ドラグリュウレ]と向き合う。
 創造者な俺うみのおやではあるが、ノアが召還したからか殺意満々だ。

 それでも俺は“無装”に変化のイメージを送り、虚無エネルギーの一部を鎧から剣へと作り変える。


「うん、やっぱり剣も無いと竜殺しって感じがしないよね。元々使っていた方は……これだね──『失絡の硬貨』」


 防御、そしてカウンター用の形態。
 虚無の剣はその膨大なエネルギーで必ずダメージを与えられるので、わざわざ大剣を振り回し続ける必要は無くなった。

 なので、受けたダメージを確実に返せるようにしておく。
 ……しかし、[ドラグリュウレ]が相手ならまだ足りないか。


魔本開読オープン──“竜屠体現ドラゴンスレイヤー”」


 遊び心で創っていた、竜殺しの絵本に刻んでおいた竜殺し補正の魔法。
 相手は竜、辰、龍、そして劉の性質を持つ存在……割と効くんだよな。


「そして仕上げに──“七宝之珠セブンスオーブ”」


 七つの基礎属性を自動的に発動可能になる宝珠、それらを生成するこの魔法。
 ただでさえ精霊たちの属性適性を得た俺が使えば、通常以上に使いこなせる。


「……これで準備はバッチリだよ。さぁ、早く始めよう」

「君が待たせておいて、ずいぶんな発言だと思わないかい?」

「ううん、これっぽっちも」

「…………。少し、難易度を上げておくね」


 理不尽な仕打ちを示すように、これまで無言で待機していた[ドラグリュウレ]が勢いよく咆哮を上げた。

 ついでに言うと、何やら竜気らしきものが立ち込めているし……これは少しばかり、いや普通にルナティック並みに難易度が上がっている気がする。


「……いつでも、出て来てくれていいから」

『…………』


 大切なのは時間を稼ぐこと。
 勝てないわけじゃないが、相手がどれだけ能力を使えるかでその困難さが上がる……だから、早く立ち直ってくれ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...