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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント後篇 その14
しおりを挟むナースの力を借りた代償は重い。
いつものように突進してきたナースによって、俺の体は一瞬で破壊された。
そんなピンチを助けてくれたのは、まさかのナシェク……いや、ナシェケエルである。
しかし、今度はお説教が始まり……どうにもこうにも、頭が回らないものだった。
『──これに懲りましたら、もっと聖人に相応しい振る舞いを心掛けるように』
「…………」
『返事は……意図してしないようですね。以降、意識はするように』
「…………」
すでにナシェクは腕輪に戻り、思念によって意思を伝えてくる。
精霊たちがそろそろ帰ってくることを伝えたお陰で、お説教が終わったからだ。
しばらくして、精霊たちが視界で捉えられる距離に来ると思念による説教も終わる。
……ちくしょう、腕輪になってからも結構続いたな。
『けいやくしゃー!』
「来いやー! “不ど──ぐふっ!」
衝撃耐性と同じく、『土堅』を続けることで得た不動スキル。
ナースという圧倒的強者の一撃を受けたことで、一気に熟練度が上がったらしい。
効果は当然、動かない間の防御力が上昇するというもの。
先ほど行った対策に加え、これと身力操作も行うことで……完全に耐え切った。
「ふぅ……指令をクリアしたみたいだね。ありがとう、ナース」
『ふふーん!』
「それにみんなも。ナース隊長といっしょに見て来てくれて、本当に助かったよ」
『♪』
六属性の微精霊たちだが、そのうちナースの影響を受けて進化を遂げるだろう。
ただでさえイレギュラーなナースが近くに居て、『精霊導士』たる俺も居るのだ。
すでにその片鱗があるアクスとアイアのように、何かしらの力に目覚めてもらいたい。
……もちろん、目覚めなかったとしても、それはそれで調べようがあるけども。
そんな精霊たちを労うため、俺は精霊魔法“精霊揺籃”を発動。
七体が全員、中でゆったりした時間を過ごしているのを確認して、移動を再開する。
「縛りがもうぐちゃぐちゃだけど、まあもう今さらだよね──『探知』っと」
スキルでも武技でもなく、ただ魔力と精気力を網状にして広げただけの荒業。
相応に身力を消耗するが、ナース対策で使用している回復系スキルの性能で補う。
そうこうしていれば、マグマの中から生命体の反応。
近づいてくる何かをサイドステップで避けると、壁にはべったりマグマが垂れている。
「マグマでも泳ぐ魚……『熔砲魚』って、まあ鉄砲魚の進化版ってことなのかな?」
大きさは1mほど。
水面ならぬマグマ面から顔を出し、正確無比にこちらへマグマを飛ばしてくる。
軽く身体強化を行えば、スキル無しでも躱せるのでそちらは問題ない。
だが、攻撃にはマグマの中に潜る相手に届く手段が必要なわけで……。
「フラム、ソムス。お仕事の時間だよ」
『『!』』
「あそこに居るお魚さん、あれを全部こっちに持ってきて。できる?」
『『!』』
火の微精霊と土の微精霊は、力を合わせて魔法を生み出す。
それはマグマの海にも影響を及ぼし、干渉し得る熔属性となって熔砲魚たちを襲う。
「おおーっ、マグマが割れてく……モーゼの十戒みたいだね。っと、そうじゃなかった、今の内に。魔本開読──“魔力槍”」
マグマのプールが真っ二つになり、ピチピチと無抵抗な姿を晒す熔砲魚たち。
当然、それを見逃すわけもなく……すぐに攻撃の準備を行う。
魔本を開き、魔力を籠めて発動させる無数の魔力の槍。
それらを熔砲魚へ向ければ、自動的に射出されて──息の根を止める。
ソムスに頼み、地面を盛り上げることでマグマから熔砲魚たちを回収。
適当に解体をし、食べられることも確認してから再び『探知』を再開。
「転移陣は……運がいいのか悪いのか、まあ見つかって何よりだよ」
しばらくして、転移陣は見つかった──先ほどとは別のマグマの中で。
さっきの一発で済んでいれば、できると分かっていても同じことをせずに済んだのに。
ともあれ、あとは同じことを繰り返せば道が切り開かれる。
モーゼの海割り(マグマ版)を精霊たちにやってもらい、転移陣の場所へ直行。
この際、マグマの熱で地面が尋常ではないほど熱くなっているところに要注意。
先ほども、熔砲魚を回収する際に痛い目に遭ったよ……。
「同じ轍は二度も踏まないぞ……アイア、アクス。二人ともお願い」
『『!』』
魔力をたっぷりと供給すると、二体は大量の水を地面に散布しだす。
膨大な量の熱気が蒸気として流れ込むのだが、アイアがそれらを氷に変換。
するとどうなるのか……物理法則を超越して、いきなり視界に映る光景が氷の世界へ。
とはいえ、だんだんと外部のマグマやら周囲の熱で融けているので転移陣へ駆け込む。
「よーし、それじゃあ次のフィールドも張り切って攻略するぞー!」
『オー!』
『!!』
『…………』
ナースも微精霊たちも、俺のノリに乗ってくれていた。
ナシェクは……無言ではあるが、何となく反応はしてくれた気がする。
そんなこんなで、転移陣を踏んだ俺たちは次なるフィールドへと飛ばされるのだった。
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