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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント後篇 その13
しおりを挟む迷宮はいきなり火山でした。
精霊たちに保護してもらったが、逆に寒くなったり……なんてことをしながら、次のエリアに行くため転移陣を探しに行く。
とりあえず隠れ潜みながらの移動だ。
魔物の反応もあるし、逃げ場を決めていないタイミングでの戦闘は避けたいからな……なので最初は、それを確保しておきたい。
「フラム、ソムス。二人でマグマの中もいちおう探してくれるかな?」
『『!』』
「ありがとう。入ったときの、あの魔力の感じだと思うよ。僕が潜るのは……うん、耐えられないから二人にお願いするよ」
火属性と土属性の精霊たちに、力を合わせてマグマの中も探してもらう。
火山という環境そのものが、火と土の属性に溢れ返っているからな。
土で感覚を同調する存在を生み出し、火で融けないようにコーティングをしていた。
そっくりそのまま熔魔法は使えずとも、似たようなことであれば可能なわけだな。
「じゃあ、他のみんなは──僕といっしょに魔物を退治しようか」
『KYEEEEEE!』
「“鑑定”っと……『熔岩鳥』かぁ。うん、見たまんまだけど、やっぱり数が多いかな」
すでにマグマが冷めた、見た目からカクカクして溶岩でできた姿をした鳥型の魔物。
問題はその数──上空に数十羽ほど舞っていた。
今は隠れているので狙われることは無いのだが、戦うというのであれば当然バレる。
しかしまあ、それはそれとして倒し方は勘で分かるので実行してみることに。
「ナシェク──『滝水の天銃』で」
『……何をするのですか?』
「まあまあ、いいからいいから」
渋々、と思わせつつも気になるそぶりを見せるナシェクは、すぐに腕輪から銃型へ。
聖水が放てる銃を構え、それらを上空に撃ち放っていく。
『KYEEEEEE!』
「まあ、当たらないよね。でも……こうすればどうかな?」
『KYEEEEEE!?』
「水を予め籠めた魔力で維持、そして操作。あとは溜まった分を一気に解放すれば──即席の豪雨になる」
躱されていた水の弾丸を全部集めて、名前の通り滝のような量の水を溜めた。
いかに溶岩の鳥とて、聖水が混ざったこれらすべてを蒸発させるのは不可能。
操作を止め、落下する水に呑まれていく熔岩鳥たち。
発していた熱量が失われ、弱っている──が、ここで放置したら元も子もない。
「どうせ、マグマの中に入ったら復活する仕様だろうし──ナース!」
『──“いねいーん”!』
『KY──!?』
森羅万象、あらゆる概念を無に帰す神代魔法の一つ<虚空魔法>。
その使い手であり、何よりその概念を司るのがうちの神霊ことナースだ。
放ったのは唯一の虚空魔法“虚無”。
光すら呑み込む真っ黒な球体に吸い込まれて、熔岩鳥たちはこの世界から存在を抹消されるのだった。
「素材が欲しい人的には、ドロップゼロになるからハズレ魔法になっちゃうけど……別に必要ないし。うん、よくやったね、ナース」
『ナー、やった? けいやくしゃ、うれしーのー?』
「うん、凄いよナース。だって一度に全部をやっつけたんだから。うん、嬉しいよ」
『ナーもうれしー! けいやくしゃー!』
ナースにとってはこれまで通り、勢いよく俺の下へ突っ込んでくる。
俺は大きく両手を広げ、それを……ギリギリどうにか、受け止めることに成功した。
物理耐性スキル、精霊術『土堅』、そして魔本で仕込んでおいた闇魔法“遮断強化”。
何より、誰からも需要を見いだせてもらえていない、俺の渾身のスキル──演技。
それらを駆使し、表面上は笑顔を浮かべてナースを抱え込む。
……裏では尋常ではないダメージを受け、一発で衝撃耐性スキルを獲得していたが。
「よしよし、ナースは凄いな……よしよし」
『?』
「そ、そんなナースには……あ、あたらしーしめーを……あ、あたえよう」
途中から発音がおかしくなったものの、どうにか周囲探索をお願いすることができた。
意気揚々と向かうナースに、微精霊たちも追随してもらう。
残されたのは俺、そして腕輪状に戻ったナシェクだけ。
心配する者はいない、近く範囲から精霊たちが居なくなったことを確認し──倒れる。
即座に再生系のスキルを……と言いたいところだが、それはもう使っていた。
物理耐性スキルもそうだが、縛りとか考えていたら間違いなく一発昇天である。
なので自分で獲得したスキルに限り、一時的に解除していた。
それでもなお、貧弱な肉体ではナースの挨拶にも耐えることができない。
『……まったく、バカですね』
「あははっ、やっぱりそう思う? ……でもね、これでいいんだよ。目を掛けている子の期待には、僕も応えたいんだ」
『…………ハァ、『天輝』のみ使用を許可します。早く使いなさい』
「えっ、でも──」
『早く!』
謂われるがままに聖具──否、聖武具であるナシェケエルを解放。
形態は『天輝の杖使』、現れるのは杖──そして模造天使ナシェケエルそのもの。
杖を構え、模造天使としての力を解放。
凡人の再生スキルでは癒えなかった深い傷が、少しずつ体内に沁み渡る魔力によって癒え始める。
「あまり、無茶はしないように。これでは聖人を目指すことも、ましてやあの者たちに挑むこともできないではありませんか」
「……すみませんでした」
「言いたいことはいろいろとありますが……今回は、あの精霊に免じて勘弁しましょう。ですが、このようなことは無いように」
「……本当に、すみませんでした」
免じてくれたはずだが、このあともナシェケエルは淡々とお説教を始めてしまう。
それが終わるのは、再び知覚範囲に精霊たちが戻ってきた頃だった。
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