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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント後篇 その12
しおりを挟む神霊であるナースを連れての力試し。
それはもう、眷属であるアイリス的に全然自分の力では無いらしい。
だが、仕方が無いのだ。
真っ向から挑んで、それでも勝機が見いだせる眷属が一人たりとも居ない!
少なくとも、彼女たちに挑むのであればレギオン戦ぐらいの兵力が必要だ。
そのうえで、極級職や固有スキルなども充実していなければ……九割がた負ける。
「まあ、今回は一割の中の本気ってルールみたいだから、なんとかなると思うよ? もちろん、メルスが言えばいつでもフルパワーになると思うけど……」
「どう説得されても、僕はアイリスを連れて行かないからね? ほら、そろそろ仕事に戻らないと……フィレルが来ちゃうよ?」
「うぐっ……こ、今回だけなんだからね!」
「はいはい、ツンデレ乙~」
なんて逃げるときの定番を唱えてから、アイリスは走り去っていった。
今頃フィレルによって、お仕置きが……うむ、尊い犠牲に合掌。
「さて、僕たちも僕たちで頑張らないと……ところでナシェク、アンデッドにも悪意にもほとんど関わらないけど。今回はどれくらい力を貸してくれるのかな?」
『いえ、今回は特別です。あの者たちの全力がどれほどなのか、それを知る良い機会。今回に限り、第二段階の使用も良しとします』
「眷属と……うん、ならそっちの方が助かるかもね。じゃあ、準備もできたことだし──僕たちも行こうか」
『おー!』
元々付き従っていた六体の精霊たちは、どうやらまだナースに委縮している様子。
そりゃあ神霊、精霊たちからすれば尊敬や畏敬を超えて概念としてのみ存在する御方。
それが本当に実在しており、自分と同じ契約者に仕えている……そりゃあもう、衝撃的過ぎるだろう。
まあ、ナースといっしょに居れば、その雰囲気に絆されていくはずだ。
実際、彼女が神霊としての振る舞いができているかと言えば……うん、微妙だしな。
◆ □ ◆ □ ◆
導刻の回廊 第一フロア
最初から、何から何まで転移で場所を変えていくのがこの迷宮の特徴らしい。
第一フロア、第二フロアと移動を続けていけば最後には必ず着く場所があるとのこと。
「他の人と噛み合わない……なんて仕様、普通のオンゲーでも無いとできないと思うんだけど。これ、どうやってるの?」
《完全に人力ですよ? 空間の圧縮、そして拡張。時空間の平行性を利用し、互いを認識できないように配置しております。メルス様でも分かるように例えますと……フィルムのように重なっているのです》
「す、凄い技術だ……でもまあ、それぐらいしないと被っちゃうのか」
《数が数ですので。維持費の方は、皆さまから供給していただいてますので。帳尻は合わせられております》
それこそ、複数のサーバーによる運営を彷彿とさせる。
だが、AFOの売り文句の一つは、『全プレイヤー同一サーバーによるログイン』。
なのでそれはありえないのだが、同じく売り文句である『何でも自由な世界』。
運営側がそれらをやっておらずとも、祈念者の手で擬似的に可能とすることはできる。
眷属たちはそんな高度な技術を、魔法ありきとはいえ可能にした。
実際問題、サーバーがどうなっているかについては……うん、忘れておこう。
『……そろそろ、現実と向き合ってはいかがでしょうか?』
「……待って、もう少し。ねぇアン、最後に一つ訊きたいんだけど──いきなりフィールドが火山なのは、偶然?」
《偶然ですよ。ただ、一番最初に火山フィールドを引くのは、かなりの運が無ければいけませんが》
「その運って、幸運? それとも不運」
《ええ、とても『キョウ運』ですね》
わざと濁しているようだが、共通の認識として俺は『凶運』だった。
つまりはそういうこと……少しだけ、改めて運営神共を恨みたくなる。
火山フィールドはマグマが溢れる山、そのいきなり中腹から始まるようだ。
灼熱の熱気に蝕まれながら、目的地である転移陣を探さなければならない。
「アイア、アクス。お願いできるかな?」
『『!』』
水、そして氷の精霊たちに頼み、俺の周りに二種類の衣を纏わせる。
体から熱気が奪われ、むしろ寒々しく思えるまでに体が冷えていく。
「えっと、そうだね。フラム、エアルもお願いできるかな」
『『♪』』
自分もと張り切っているので、追加でもう二体にも頼んでみる。
すると、彼らは熱を断つ火と風の膜を展開し、さらに体が寒く……まあいいけどさ。
なぜか火山で暑耐性ではなく寒耐性スキルの成長が始まり、習得もやがてできる。
そして、それら二つのスキルの複合版である熱耐性も、急激な温度変化で習得できた。
どうやら、一度でもそういった経験をしないと習得できない仕様らしい。
まあ、寒い場所で熱湯風呂にでも入れば、可能ではあるけどさ。
「うん、いやまあ来てみて良かったとは思うけどさ……なんか、違くない?」
『そのようなことを言っている暇があれば、本格的に捜索を始めては?』
「……それもそうだね。ナシェク、は外に出たい?」
『今はまだ許可しません。あくまでも、眷属たちと接敵したときに限定します』
ナシェクを呼ぶ条件を聞き出せたので、とりあえずこれで良し。
それじゃあ、火山の中を探索するとしますかね。
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