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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント後篇 その11
しおりを挟む俺の妄執の産物を、眷属たちに渡した。
使うかどうかはともかく、守り刀的能力はあるので持っていてはもらいたい。
「さて、そろそろ復活ってことで。ガー、布団から出てくれ」
「……残念ですが、これ以上メルス様の御邪魔をするわけにはいきませんね。では、私は別の御役目を果たしてきましょう」
「悪いな。ずっとここに居ると、妙に体がむずむずしてな……やっぱり俺に、ひたすら主人公を待つボス役って向いてないみたいだ」
ジッとしてはいられない、そんな性分なのだからどうしようもなかった。
眷属に任せる、そう思ってはいるものの、それとは別に自分も動きたいのだ。
「ところでガー、御役目って?」
「……調査、ですね。まだ認めていませんので、メルス様が主催したこの一連の催しにおいて、どのように振る舞うのかで判断させていただきます」
「あー、うん。優しくしなくてもいいけど、厳しくし過ぎるのはダメだと思うぞ」
「…………前向きに、善処するよう検討させていただきます」
関係者以外には割と【慈愛】感が足りないガーは、担い手(仮)のクラーレに厳しい。
眷属武装は貸し与えているものの、今なおその真価を発揮させることは無かった。
だがまあ、アドバイス(物理)を与えていたフーのように、俺が貸しているスキルの各担当者は、今回のイベント中にそちらの調査もするようだ。
「まあ、足りないと思ったらアドバイスを適時してくれてもいい。しなくてもいいし、ただ見ているだけでもいいんだろうな」
「メルス様は……どう、なってもらいたいのでしょうか?」
「それを俺に訊くか? まあそうだな、最初に抱いた信念を、そのまま貫けるか……不可能でもやり遂げようって想いで、なんとか足掻いてくれればいいよ。それなりにナニカがあるなら、少し考えてやってくれ」
ガーはやや複雑そうな表情を浮かべ、この場を後にした。
仲良くしてもらいたいが、それを強要するわけにはいかないからな。
いずれにせよ、認めるのも否定するのもすべてはガーとクラーレの関係次第。
俺にできるのは……そんな二人を見て、盛り上がることだけである。
◆ □ ◆ □ ◆
導刻の回廊
ラスボス(笑)の拠点である浮島。
それより下部の森やら砂漠やら、そしてそこに至るまでの道すべてを内包した迷宮こそが『導刻の回廊』である。
浮島へのゴールは転移陣一つでお手軽なのだが、その前に何度も転移を重ねなければ最後の転移陣に辿り着かない仕様だ。
「僕、全然関わってないんだけど……ここまで凄いことになっているんだね」
改めて、【剣製魔法】を封印して契約術師プレイを再開。
六属性の精霊たち、そして聖武具であるナシェクの力を主に借りての迷宮探索だ。
「うん……呼んであげた方がいいもんね──“神霊召喚・ナース”」
神霊──精霊から聖霊へ至り、神霊の域へ到達した最高位の精霊種。
まだ神気は生み出せないものの、それ以上の力を使える……それがうちのナースだ。
なお、先ほどの説明はあくまで、普通の精霊が辿る進化。
ナースの場合、特殊な精霊だったため、いきなり神霊に到達したイレギュラーケース。
『けいやくしゃ……?』
「間違ってないからね。うん、僕が契約者であっているよ」
『! けいやくしゃー!』
「うんうん、ずいぶんと立派になって……球体なのにだいぶ大きくなってるや」
微精霊だったころはピンポン玉ほどしか無かったサイズも、今では立派にバスケのボールサイズに……デカいな、うん。
精霊は本来、中級以上になると球体以外の姿になるのだが……うちのナースは幼かったがゆえに、上級になったときも球体のまま。
そして、そのまま神霊になり、ようやく新たな姿を得たものの。
それもそれで中身同様の文字通り赤子、まだまだ成長する才能の怪物である。
「それじゃあ、僕も迷宮の探索を始める……わけなんだけど、どうしたのかな?」
「はいはい、おに―さん。ちょーっと、事務所の方に来てくれるかな?」
「じ、事務所って……そんなのどこに?」
「すぐそこだよ。なーに安心して、ちょっとだけだからね」
現れた少女に連れられ、向かった先にはたしかに小屋が一つ。
招かれない限り、認識できない阻害機能付き……うん、そういうことである。
「ねぇ、メルス。そんなショタ状態で迷宮攻略をするの?」
「アイリス……」
「あと、縛りプレイのはずなのに、ナースだけ連れてくのはどうかと思いまーす。ぜひともご同伴をー」
「却下でーす。せっかくここで仕事をしているんだし、そのまま頑張ってくださーい」
アイリスが居れば、そりゃあ攻略もサクサク進むことだろう。
だが、俺の目的は迷宮の攻略ではないわけだし……頼らないでおく。
「むぅ、じゃあメルスは何をしに行くのさ」
「そうだね……力試し、かな?」
「ナースを連れてくのに?」
「……ナースを連れていても!」
いやだって、そうでもしないと勝機が見いだせないんだもん!
どれだけ俺が準備をしていても、それだけではどうにもできないことがあるんだよ。
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