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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント後篇 その10

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 悪意を秘めたデュラハン二体相手にやり過ぎて、体が死にかけ寸前。
 なので『ギブアップ』を宣言すると、目の前に召喚用の魔法陣が浮かび上がった。

 気づけば、俺の体は床ではなくふかふかなベッドの上に。
 視界も王城の天井ではなく、見覚えの無い真っ白などこかになっている。

 何がどうなっているのか、それを知るのはきっと──横目に映る天使様だけだろう。


「──あー、今回は俺が呼ばれるのな。しかしまあ、知らない天井だ」

「それは、メルス様がこちらに来たことが無いからですね。体調はいかがですか?」

「うーん、特に異常は無いと思──」

「なんと、それは一大事です。メルス様、それでは失礼しまして……」


 黄髪の天使様──ガーは俺の発言を遮り、まるで重症患者のように扱いだす。
 というか、今気づいた……何故にナース服なんだよ。

 白衣の天使(物理)なガーは、動かない俺の手をギュッと握る。
 感触はある……柔らかく、そして小さな手から温もりが伝わってきた。


「──“天使涙雫エンジェルティア”。いかがですか?」


 ガーの涙……ではなく演出上、天から落ちてきた一滴の巨大な雫。
 俺の下へ降ってきたそれは、特に濡らすでもなく体に溶け込み、染み入っていく。

 その効果は高速回復──そして、部位欠損の再生。
 回復の効果としては、最上級に限りなく近い【慈愛】の能力なのだが──


「……あんまり、効果は無いみたいだな。自業自得、借りた分はしっかりと返す必要があるみたいだ。まあ、体はちゃんと動かせるようにな──」

「ダメですか……であれば、ゆっくりと治す必要があるみたいですね」

「いや、大丈夫なんだが……って、そういう流れか。いいよ、ガーのやりたいように治療してくれ」

「はい、ではそうさせていただきます」


 天使の羽を器用に畳み、そのままベッドの中へ……って、ちょっと待て待て。
 そう思う内心とは裏腹に、それらを口には出さない自分も居る。


《──ぐへへへ、せっかくの機会なんだから天使の肢体を味わおうぜ》

《…………アンさんや、急にわけも分からない悪魔の囁きみたいなことはしないでくれませんかね?》

「そうですよ、メルス様。アンさんの言うことを聞いてはいけません。メルス様は安静にすべき身、メルス様が主体で動く必要などございません。望むのであれば、私がメルス様の望むままに……」

「天使さん、天使さんや。天使側に立つのなら、もう少し俺の意向に合わせてほしかったな……しないよ、しないからね? そんな顔されてもしませんから」


 ひどく残念そうな顔をするガーを宥め、同衾するだけに留めた。
 ただ、ギリギリ{感情}様が仕事をする前らしく……心臓が張り裂けそうではあるが。


「どう、でしょうか? メルス様、お体の方は……」

「こればかりは時間経過だからな。蝕んだ邪気は、ガーといっしょに居れば自然と浄化されるし。あとは耐性スキルがどれだけ仕事をするのか、これに尽きる」


 縛り状態のスペックなので、即座に治るわけではないのだ。
 邪気を受けるのは珍しい事案だが、いずれ似たようことに巻き込まれるかもしれない。

 なので得たばかりの耐性、そして熾天使の浄化能力頼りでじわじわと回復中。
 とりあえず、すでに【剣製魔法】は発動可能……が、今は使わないでおく。


「たまには、休憩を挟もうかな」

「はい、そうしましょう。私たち眷属で、メルス様のすべきことはすべて行います。だから、安心してください」


 ガーの言葉は俺の思考を甘く溶かし、今ある停滞を望むよう促してくる。
 自分自身がそれを望み、堕ちていくのが分かる──それでも、最後の一線は守った。


「…………そう、だな。任せるよ、ほとんどは。すべては、俺が俺を許せなくなるから嫌なんだよ──“零剣創化ソードバース眷族剣エニアグラム”」

「それは?」

「守り刀、みたいなものだ。眷属の印を経由して、ピンチになればいろんな恩恵を供給する……みたいな設定にした。念じれば出せるから、試してみてくれ。女の子にプレゼントが剣って、あんまりよろしくは無いけどな」

「っ……本当ですね。これは、とても嬉しいです!」


 短剣サイズの小さな剣だが、エネルギーが常に眷属印から供給されるため、その気になれば神器に等しい火力すら出せる一振り。

 発動条件をシビアに設定し、眷属以外が決して使うことができない……といった制約と誓約を刻むことで、どうにか実現した──かねてより温めていた『さいきょうのぶき』。

 どれだけ保険はあっても困らない。
 眷属が望むままに世界を歩くため、障害となるモノすべてを排除できる力──その一つになれば……そう願って。


「……アン、聞いていた通りだ。念のため、全眷属に連絡を」

《畏まりました。よろしければ、メルス様より一言いただきたいのですが》

「うーん……使わないために使ってくれ、ただのお守りであり続けることを願っている。みたいな感じにしてくれ」

《──いつでも転移できるようにしたから、これでストーキングもバッチリ、ですね。畏まりました》

「全然違うっ!?」


 いやまあそうだけど、転移不可でも転移できる……というか、眷属が脱出できるような仕掛けは入れたけども!

 そう、それは俺の固執であり妄執であり、執念の産物。
 どこまでも満ち足りない、凡人ゆえの尽きない欲が願った代物。

 だからこそ、使ってほしくない。
 それゆえに、使ってもらいたい。

 ──まあ、それを選ぶのは眷属次第……いろいろと危ない物でもあるからな。


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