2,191 / 2,518
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント後篇 その10
しおりを挟む悪意を秘めたデュラハン二体相手にやり過ぎて、体が死にかけ寸前。
なので『ギブアップ』を宣言すると、目の前に召喚用の魔法陣が浮かび上がった。
気づけば、俺の体は床ではなくふかふかなベッドの上に。
視界も王城の天井ではなく、見覚えの無い真っ白などこかになっている。
何がどうなっているのか、それを知るのはきっと──横目に映る天使様だけだろう。
「──あー、今回は俺が呼ばれるのな。しかしまあ、知らない天井だ」
「それは、メルス様がこちらに来たことが無いからですね。体調はいかがですか?」
「うーん、特に異常は無いと思──」
「なんと、それは一大事です。メルス様、それでは失礼しまして……」
黄髪の天使様──ガーは俺の発言を遮り、まるで重症患者のように扱いだす。
というか、今気づいた……何故にナース服なんだよ。
白衣の天使(物理)なガーは、動かない俺の手をギュッと握る。
感触はある……柔らかく、そして小さな手から温もりが伝わってきた。
「──“天使涙雫”。いかがですか?」
ガーの涙……ではなく演出上、天から落ちてきた一滴の巨大な雫。
俺の下へ降ってきたそれは、特に濡らすでもなく体に溶け込み、染み入っていく。
その効果は高速回復──そして、部位欠損の再生。
回復の効果としては、最上級に限りなく近い【慈愛】の能力なのだが──
「……あんまり、効果は無いみたいだな。自業自得、借りた分はしっかりと返す必要があるみたいだ。まあ、体はちゃんと動かせるようにな──」
「ダメですか……であれば、ゆっくりと治す必要があるみたいですね」
「いや、大丈夫なんだが……って、そういう流れか。いいよ、ガーのやりたいように治療してくれ」
「はい、ではそうさせていただきます」
天使の羽を器用に畳み、そのままベッドの中へ……って、ちょっと待て待て。
そう思う内心とは裏腹に、それらを口には出さない自分も居る。
《──ぐへへへ、せっかくの機会なんだから天使の肢体を味わおうぜ》
《…………アンさんや、急にわけも分からない悪魔の囁きみたいなことはしないでくれませんかね?》
「そうですよ、メルス様。アンさんの言うことを聞いてはいけません。メルス様は安静にすべき身、メルス様が主体で動く必要などございません。望むのであれば、私がメルス様の望むままに……」
「天使さん、天使さんや。天使側に立つのなら、もう少し俺の意向に合わせてほしかったな……しないよ、しないからね? そんな顔されてもしませんから」
ひどく残念そうな顔をするガーを宥め、同衾するだけに留めた。
ただ、ギリギリ{感情}様が仕事をする前らしく……心臓が張り裂けそうではあるが。
「どう、でしょうか? メルス様、お体の方は……」
「こればかりは時間経過だからな。蝕んだ邪気は、ガーといっしょに居れば自然と浄化されるし。あとは耐性スキルがどれだけ仕事をするのか、これに尽きる」
縛り状態のスペックなので、即座に治るわけではないのだ。
邪気を受けるのは珍しい事案だが、いずれ似たようことに巻き込まれるかもしれない。
なので得たばかりの耐性、そして熾天使の浄化能力頼りでじわじわと回復中。
とりあえず、すでに【剣製魔法】は発動可能……が、今は使わないでおく。
「たまには、休憩を挟もうかな」
「はい、そうしましょう。私たち眷属で、メルス様のすべきことはすべて行います。だから、安心してください」
ガーの言葉は俺の思考を甘く溶かし、今ある停滞を望むよう促してくる。
自分自身がそれを望み、堕ちていくのが分かる──それでも、最後の一線は守った。
「…………そう、だな。任せるよ、ほとんどは。すべては、俺が俺を許せなくなるから嫌なんだよ──“零剣創化・眷族剣”」
「それは?」
「守り刀、みたいなものだ。眷属の印を経由して、ピンチになればいろんな恩恵を供給する……みたいな設定にした。念じれば出せるから、試してみてくれ。女の子にプレゼントが剣って、あんまりよろしくは無いけどな」
「っ……本当ですね。これは、とても嬉しいです!」
短剣サイズの小さな剣だが、エネルギーが常に眷属印から供給されるため、その気になれば神器に等しい火力すら出せる一振り。
発動条件をシビアに設定し、眷属以外が決して使うことができない……といった制約と誓約を刻むことで、どうにか実現した──かねてより温めていた『さいきょうのぶき』。
どれだけ保険はあっても困らない。
眷属が望むままに世界を歩くため、障害となるモノすべてを排除できる力──その一つになれば……そう願って。
「……アン、聞いていた通りだ。念のため、全眷属に連絡を」
《畏まりました。よろしければ、メルス様より一言いただきたいのですが》
「うーん……使わないために使ってくれ、ただのお守りであり続けることを願っている。みたいな感じにしてくれ」
《──いつでも転移できるようにしたから、これでストーキングもバッチリ、ですね。畏まりました》
「全然違うっ!?」
いやまあそうだけど、転移不可でも転移できる……というか、眷属が脱出できるような仕掛けは入れたけども!
そう、それは俺の固執であり妄執であり、執念の産物。
どこまでも満ち足りない、凡人ゆえの尽きない欲が願った代物。
だからこそ、使ってほしくない。
それゆえに、使ってもらいたい。
──まあ、それを選ぶのは眷属次第……いろいろと危ない物でもあるからな。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる