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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント後篇 その09

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 悪意を濃縮し、俺が生み出した二体のデュラハンたち。
 彼らを従えるべく、戦個体と憎個体を同時に相手取ることになった。

 銀色の瞳は冷静に、しかし圧倒的な全能感で俺を支配しようとしてくる。
 呑まれればそのまま『蝕化』一直線、しかし衝動は{感情}によって無効化された。


「──“王を讃えよプライズ・オブ・キング”」


 一定時間、デメリット無視でのバフの重複が可能となる能力を発動。
 今回はバフの方ではなく、あくまでもデメリット無効化の方をメインとして使用する。

 左手に持った『戦憎剣(仮)』を握り締めて、右手に持った『不壊剣アンブレイカブル』を──解除。

 そして、代わりに新たな剣を【剣製魔法】によって生み出す。


「来い──“剣器創造クリエイトソード慢芯剣マーナロー”」


 かつて生み出した【暴食】の剣と同じく、『侵化』以上の適性度を有している時のみ使うことにしている【傲慢】の剣。

 ただ一振り、横に薙ぐ。
 これまでと違い、ティル師匠から習った剣の理を無視した凡庸な一撃。


「──『王は孤高にして孤独きょぜつ』」

『『なっ……!?』』

「喚くな、王の御前だぞ。大人しく地に這い蹲れ──『王の軛は天もが傅くじゅうあつ』」

『『っ…………!!』』


 すべて喰らう【暴食】の剣と違い、こちらの剣もまた【傲慢】の力をその威で示す。
 それ即ち、慢心の証明──剣一本でそれを象徴する事、それそのものが【傲慢】だ。

 条件など無く、言葉と共に告げた内容すべてがだいたい本当になる。
 似たような魔導や能力もあるが、消費魔力的にはこちらの方が燃費が良い。

 ただしその分、【傲慢】な振る舞いや相手からの畏怖が実現に必要となる。
 拒絶も重圧も、デュラハンたちが今の俺にそれを感じているからこそできたのだ。


「まだ足掻くか? すでに、勝敗は決しているだろう。何より、お前たち自身が──」

『まだだ、まだ終わってねぇ!』
『…………』

「戯言を。『王は──」

『今です!』


 俺の発言を邪魔するように、憎個体が掌から邪気を固めて飛ばしてくる。
 口を噤んだ隙に、戦個体が攻撃をする……といった流れなんだろうか。

 迫ってくる戦個体をジッと眺め、俺は何もしない──する必要が無いからだ。
 それを証明するように、振るわれた大剣は何も無い場所でナニカに弾かれる。


「──雑魚が」

『『なっ……!』』

「王がいちいち、言を発する必要がどこにある。『王の統治は絶対こてい』、ただそれだけだ」

『う、動かねぇ……!』


 そう、『マーナロー』の他の言霊系能力に比べて優れている点は、一度言ったことが連続的に実現可能ということ。

 拒絶も、重圧も、そして固定も。
 言霊を受けた対象が、俺を畏怖して剣が存在する限り、延々と効果が発動して彼らに圧し掛かる枷となるのだ。 


「そもそもだ……俺がお前たちに何を要求した? …………そう、まだ何も言ってなかっただろう」

『『…………』』

「ちゃんと聞け、愚弄共──気づけ、ここには人族が集めた悪意の産物がある。そして、ここにわざわざ呼んだ理由……一つしかあるまいに──『王の意は疾く済むねんどう』」


 デュラハンたちの前に、俺がグーを介して集めなかった悪意の産物を移動させる。
 そこから放たれる禍々しいエネルギーを、彼らも感じ取ったのだろう。

 戦個体ですら何も言わず、並べられたアイテムをジッと見つめる。


「下賜してやろう。お前たちの望むままに、それらを使いこなせ」

『……テメェ、何が望みだ?』

「単純な話だ。悪意はお前たちをも利用するだろう。利用されたいか? お前たちの想いなど意にも留めず、道具として使われる末路が好みなのであれば止めはしないが」


 まあ実際、悪意の中核をぶっ壊したのでそこまでしてくるかどうかは不明だ。
 それでも、迷宮を弄ったりと何もできないわけじゃない……なので保険を用意した。


「数を集めれば、その分だけ悪意の中での位が高くなる。お前たちは元より最上位の存在だ、今以上に強く成れば干渉など気にせずにいられるだろう」

『『…………』』

「俺から言うべきことはすべて言い終えた。あとはお前たちの好きにするが良い」


 共有の能力で、思念通話を高速で済ませたのだろう。
 一瞬、悩んだそぶりをしていたデュラハンたちは、やがてそれぞれアイテムを選ぶ。

 真っ黒な鎧と真っ黒なマント。
 どちらも王旗と違い悪意がそのどす黒さを発揮した頃に願われたものなようで、持つ能力もかなり扱いづらいものだった。

 それでも、彼らが身に纏うと邪気がより強まるだけ。
 デメリットはいっさい存在しない、すでに彼らの存在がデメリットそのものだから。


「では、もう良い。下がり、お前たちの戦場で力を揮え──『王の采配は的確なりてんそう』」


 転移に似た言霊によって、デュラハンたちの座標を元居た場所に書き換えた。
 残されたのは悪意の産物と俺だけ、つまりもう独りだけ。


「やべっ、使い過ぎ……たぐっ」


 誰も居なくなった部屋で、俺は独り……ひどい虚脱感に耐える。
 保険で使っていた“王を讃えよ”だが、やはり邪気や悪意の産物に触れるのはキツい。


「……ああ、邪気耐性が手に入っているな。まあ、それだけ干渉していたってことか」


 憎個体が何か企んでいたので使ったが、やはり正解だった。
 すぐに【剣製魔法】で状態異常を解消できる剣を創ろうとしたが──体が動かない。


「あー、無理……仕方ない、『ギブアップ』するよ」


 その言葉を引き金に、俺の眼前に浮かび上がる召喚の魔法陣。
 アンがどうせ見ていただろうし、分かっていたことだ……少し反省をしないとな。


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