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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント後篇 その08
しおりを挟む宝物庫の隠し部屋には、王家が回収したと思われる悪意の産物が集まっていた。
それらを王の間に置かれた王旗の力で、抑制していると思われる。
俺はそれらを『魔法鞄』に詰め込めるだけ詰め込んでいき、強奪を試みた。
しかし、悪意の抵抗だろう……悪意が多めのアイテムはそれを拒絶したのだ。
「まあ、無駄だけど……グー、回収に使わせてもらうぞ──“存在蒐集”」
それは、【強欲】の力を秘めた魔武具に与えられた能力。
概念すらも蒐集し、万の智識の糧とする魔本の権能。
抵抗していたアイテムも、より業の深い力によってあっさりと回収される。
あとはグー経由で解析班の下へ届き、悪意についての調査が進展するはずだ。
「魔本……そうだな、ついでだし眷属に使わせたくないのはこいつらにやるか。来い──『絶望騎士』、『狂戦騎士』」
グーこと『万智の魔本』から連想し、思いついた悪意の産物の活用方法。
異なる魔本を開き、呼びだすためだけに仮登録していた二体のアンデッドを召喚。
それはイベント二日目、俺がイベント最後の仕掛けであろう、願いの魔法に注がれる悪意のエネルギーを基に作り上げた魔物。
人々の黒い想いが具現化し、恐怖の惨劇を繰り広げるためだけに生みだされた怪物。
……まあ要するに、イベントのボス用強化バフを持ったレギオン級のアンデッドだ。
放置して、自由に暴れさせていたが……果たしてどうなっているのやら。
召喚陣から現れた彼らは、相も変わらず狂いに狂っている……と思ったのだが。
『ここは……っ、テメェは!』
『これはこれは、私どもを生み出した死霊術師殿ではないか』
さまざまな存在を糧にして、会話を饒舌に成長していたようだ。
見た目もより禍々しく、前者はそれらを解放して後者は内に秘めている。
「いつの間に知性を得ていたのか。まあいいだろう、今回呼んだのは他でもない。お前たちに……っと、危ないな。戦闘狂はともかくとして、お前もか?」
『うるせぇ! テメェを殺せば、俺様は晴れて完全に自由だ! とっとと死ね!』
『このバカに同意するわけではありません。しかし、頸木から解放されるのもまた事実。申し訳ありませんが、死んでください』
「……ハァ。少しだけ遊んでやるから満足しろよ──“剣器創造・不壊剣”」
今回生み出したのは、特殊な攻撃でもしないと絶対に壊れない剣。
それ以外に特殊な性能など無く、ただ壊れないという一点に特化している。
だがその分、耐久度が尋常ではなく高い上にいつでも再構築が可能。
どれだけ成長しているのか分からないし、とりあえずこれを選んでおいた。
「じゃあ、とりあえず来いよ」
『調子に乗ってんじゃねぇぞ!』
『お手並み拝見と行きましょうか』
そんなこんなで、一対二での剣戟が繰り広げられていく。
どうせ、宝物庫は悪意が洩れないように頑丈に造られている……まあ、たぶん持つか。
デュラハン(戦)は果敢に大剣を振るい、デュラハン(憎)は長剣で隙を突いてくる。
俺はティル師匠仕込みの剣技で、大剣を弾いて長剣を受け流しながら観察を行う。
どうやらデュラハン(戦)──戦個体は本来、何でも破壊する力を持っていたようだ。
『砕けろよ、さっさと砕けろよ!』
「さっき言っただろ。俺の剣は壊れない、いや正確には壊せるんだけどな…………雑魚には砕けない仕様なんだよ」
『~~~~ッ!!』
『この程度の挑発に乗らないでください。それにしても、死霊術師にこれほどの剣術があるとは……これは油断なりませんね』
『お、おう……悪い』
デュラハン(憎)──憎個体が嗜めると、急に激情を鎮火させる戦個体。
俺はその理由を知っている、それはデュラハン同士に仕込んでいたリンク機能。
本来の目的は、片方がピンチになったときに援軍に行くためのモノだったのだが……どうやら想いの方も共有して、肩代わりでもしたのだろう。
『そろそろいいでしょう。では、合わせてもらいますよ』
『おう、アイツを殺すまでだからな』
「勝手に殺すなよ。しかしまあ、手数が増えるのか……面倒だな」
感覚、もしくは視覚の共有でもしたのか、死角からの攻撃が増える。
スキルは使わず、ただ弟子としての勘だけで捌くが……少し厳しくなってきた。
そりゃあアルカ相手でも逃げられる程度には、彼らも立派に戦闘を経験している。
師匠であるティルならまだしも、俺が余裕で捌く方がありえないということか。
「一本追加だ──“一剣密封”」
『なっ、俺の邪気を……!』
『これは……!』
「『戦憎剣(仮)』ってことで。まあ、このまま続けるぞ」
『『っ……!?』』
彼らの振るう剣に宿っていた、負のオーラたる邪気。
瘴気をより濃くしたようなそれらを、魔法で剣の形にして押し留めた。
適当に名付けたその剣は、使い手である俺など認めまいと邪気を蝕ませてくる。
だが、俺の体は眷属が弄った特別製……並大抵のことでは変化など起きない。
逆に聖気……だと弱体化するので、俺も瘴気を放ちそれを邪気として送り込む。
しばらく反抗した後、すっかり従順になった剣を軽く見つめ……彼らへ目を向けた。
「この剣ぐらい、あっさりと堕ちてくれれば楽なんだけどな」
『ふざけんな! それはコイツの邪気まで吸うからそうなっただけだ!』
『いえ、彼のように単細胞な個体から邪気を取るからそうなるのです』
『──やんのか!?』
『──やりますか?』
「ハァ……どっちでもいい。両方とも、俺の手駒にしてやるよ」
邪気からなんとなく、力で捻じ伏せればいいことは分かる。
ならば、俺もそうしよう──銀色に輝かせた瞳で、彼らを眺めながらそう思った。
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