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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント後篇 その06

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 縛りを緩め、【剣製魔法】関連のスキルを使えるようにした半チートプレイ。
 そんな状態で俺が訪れたのは、通常の縛りでは訪れることの無かった人族の領域。

 目指すのは王城──そして、狙うのは願いの産物である王旗……ではない。
 王家が叶えた願い、それが一つかどうかは現状不明だ。

 しかし、王族という偉いポジションに就く者がそれらを把握しないわけがない。
 というわけで、俺が探すのはそれらを纏めた記録である。


「──お待ちしておりました」

「急に悪いな、レミ……あっ、違うの。悪いな、『使徒』」


 訪れたのは、眷属が拠点としているらしい宿屋の一角。
 多くの眷属が中央へ向かったため、場所が空いていたんだとか。

 それなりに質の良い家具が置かれたその部屋で、彼女──レミルは俺を待っていた。
 アンから事前に連絡があったのだろう、俺は何もしていないからな。


「いえ。それでメルス様、王城内部の地図をご所望とのことですが……お独りで、向かわれるのでしょうか?」

「その予定だったんだが、あんまりそうして欲しくない感じか。まあ、眷属の立場ならそう言うのが当然だよな。ピンチになったら呼ぶし、危ないことは…………気を付ける!」


 しないとは言い切れないし、そもそもそういうことは予想だにできないものだ。
 レミルの不安を取り除いてやりたいところだが、無理なモノは無理なのである。


「それに、今は【剣製魔法】もある。最悪、大罪でも美徳でもどっちかの剣を使えば、強行突破ができるはずだぞ。レミル……じゃなくて『使徒』がその使命を全うできなくてつらいのは分かるが、やらせてほしい」

「……高く、つきますよ」

「お前もか……分かったよ。支払いには色を付けるからさ、頼む」


 もともとレミルは俺を守ってもらうため、なんやかんやと眷属が手を施した存在。
 そのため、俺に対する庇護欲がかなり高いのである。

 そんなレミルを説得し、彼女から王城の詳細な情報を貰う。
 すぐに[マップ]機能と同期させ、3D表示にすることで分かりやすくしてから確認。

 一部の場所が黒塗りになっており、まだ未発見の区画があるのだろう。
 王家の非常口だったり、隠された部屋だったり……まあ、ロマンがあるな。


「縛りは使う剣の制限、まあ二本にするってことぐらいだけど。それで対処できなくなったら、眷属を呼ぶってことで」

「畏まりました。では、呼ばれるそのときをお待ちしておりますね」

「……呼ばない方が何事も無いんだから、その方が良くないか?」

「たしかにその通りではありますが、私個人としてはメルス様の御傍に侍りたいですし。小数点以下の可能性でも、期待できるのであればお待ちしております」


 レミルの言葉にかなり心を揺れ動かされながらも、どうにか耐えきった俺。
 やっとこさ“剣器創造クリエイトソード転移剣テレポート”を発動すると、この場を後にするのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 王城


 ネイロ王国、ヴァナキシュ帝国、そしてこの人族の領域の王城。
 なんというか、地道に業を重ねているような気がしないでもない重要施設への侵入。

 潜むために隠形剣を片手に、こそこそと地図を見ながら移動中。
 兵士の大半は中央へ駆り出され、もぬけの殻とは行かずとも潜入は容易となっていた。


「……だからって、こうなることは予想していなかったんだけどね。レミルの時はまだ居なかったのに……運が悪いのか?」

「──くそっ、どこに隠れてやがる!」

「隠れて不意打ち、しかも【剣製魔法】なら使ってもバレることが無い……うん、チートだな──“放射剣レディエートソード吸収剣アブソーブ”」

「なっ、剣が……かはっ!」


 俺の姿を探す男に対し、念のため離れた場所で生み出した剣を射出。
 それは見事に体へ突き刺さり、剣の効果でごっそりと身力を吸い取られ──力尽きた。

 その体は生きる意思が失われ、そのまま地面に倒れ……る前に粒子となって消える。
 そう、殺したのは兵士ではなく祈念者、それも今の俺とある意味同類しんにゅうしゃだった。


「さて、と。これで八人目っと……計画的犯行かつ、一時的な同盟でも組んだか? まあロールプレイをしているなら、やってもしょうがいないか……しょうがいないんだから、俺に殺されるのもそう思ってくれよ」


 偽善者として、罪なき人々まで彼らの行いに巻き込まれる姿は見たくない。
 そんなこんなで侵入ついでに、同業者をサクサク刈り取っているのが現状だ。

 ……俺は殺しとかしないもん。
 するにしても、いかにも悪役っぽい台詞セリフを言っている連中にだけにします。


「よっと。さて、そもそも彼らの狙いは何だろうな。旗、それともまた別の代物? いずれにせよ、悪意云々と繋がっていると面倒だし──全部斬って、それから考えよう」


 脳筋度の高い発言だし、さっきの攻撃は間違いなく斬撃では無かった。
 自覚はしているものの、やはりそれっぽい台詞というのはしっくりくるものだ。


「えっと、王子様とお姫様はそれぞれ各領域に行っていたはずだから、居るのは国王ぐらいか? うーん、じゃあ勝手に上がり込むぐらいでいいか」


 要件が済んだら、その後で挨拶をするぐらいでいいだろう。
 ……創作物でも、割と放置されがちなんだよな王様って。


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