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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント後篇 その04
しおりを挟むアルカVS『神竜』の戦い。
一方的にやられるアルカだが、『蝕化』の深度を高めることで、勝機を見出そうとしている……フーは何がしたいのだろうか。
「映像に音声が無いから、こう盛り上がる言葉の交わし合いとかは分からないんだよな」
「その辺りは、プライバシーの観点から考慮しておきました」
「……考慮するなら、そもそも映像を出すこと自体アウトだと思うが?」
「監視カメラが有りな世界出身なのですし、その辺りは大目に見ては? 何より、メルス様自身がすでに音声込みで監視されているようなものなのですし」
……否定はできないので、これ以上は何も言わないでおこう。
そんなことよりも、今は二人の戦いだ……ついにアルカの『蝕化』がヤバい領域へ。
「あーうんうん、アルカの場合はああなるんだな。やっぱり、貸与でもまったく同じになるわけじゃないと」
「アルカ様の場合、【憤怒】が引き出すのは多感的な面でしょうか。普段のクール然とした表情から一転していますね」
「……なんで泣いているのかはフーしか分からないけど。ともあれ、【憤怒】を引き出せる限界には達したわけだな」
長期発動による『蝕化』の汚染を、並列思考に押し付けて誤魔化す術。
俺もやっているそれを、アルカは解除したのかそれとも限界に達したのか。
いずれにせよ、適正の引き上げを強制的に成す『蝕化』はその時点で臨界点を示す。
ある意味、それは安全装置──それ以上、使用者が堕ちないようにするための干渉だ。
「待機時間と再発動時間を封じられている以上、アルカにできることは限られている。今の状態、それは【憤怒】をある程度は受け入れたということ……アレを使うのか?」
七つの<大罪>を冠するスキルは、その名を持つ能力を必ず二つ有している。
一つは権限、何らかの形でシステム的な束縛から解き放たれるための代物。
そして、もう一つは極致。
尋常ではない代償の代わりに、名を冠する罪の力を最大限に発現する。
「──“憤怒永掩”。尽きない魔力を与える力、ただし最後は死ぬ。アルカがあれを使う機会が来るとは……」
「禁忌魔法を乱発しても、足りるほどの魔力ですか。アルカ様唯一の欠点である総量を補えた今、レパートリー豊富な魔法がすべて使えるわけですか」
「『神竜』の鱗が上級以上のシステム的魔法は無効化するから、全部が通るってわけじゃないだろうけど。それでも、それを可能にする魔法が禁書魔法には在ったっけ」
「──“偽階魔展”ですね。階級ごと、一定以上の魔力を必要とするため、ほとんどの場合は意味を成しませんが……スキルなどで一定階級の無効化を図っている場所での使用を鑑みて、禁書指定された魔法です」
本来であれば、低位の魔法など気にも留めずにいられるフーの身体スペック。
しかしそれを覆す術を、かつての人々は編み出していた。
それこそが禁書魔法“偽階魔展”。
決して簡単には知ることのできない魔法ではあるが、絶対に無理というわけでもない。
ちょうど、アルカが行ったと思われる場所にそれが載った禁書もあると考えられる。
……あの学園都市、やっぱり禁書とかそういうのも持っていそうだしな。
そんなこんなで、尽きない魔力で発動する魔法すべての階級を格上げ。
威力そのものにいっさいの変化は無いが、システム的な無力化を無効化できる。
ゼロを一に、不可能を可能に。
塵も積もれば山となる、そうしたやり方でフーを倒そうとする……のだが、根本的な部分から、勝利は絶望的だ。
「まあ、そうなるわな」
「フー様にはあって、【憤怒】には無い。メルス様の我欲が勝敗を決めましたね」
「言い方……まあ、無抵抗にでもならない限り、フーが負けることは無いからな」
たしかに、僅かながらにダメージは入るようになっていた。
しかし、フーが自分の体を気合でも入れるかのように叩くと──生命力が回復する。
それこそが『反理の籠手』が持つ、もっとも歪で極悪なスキル(接触反転)。
触れたモノの方向性を、自由自在に逆さまにすることができる。
自分に当てたダメージも回復行為となり、相手から受けた攻撃もその方向性を操作。
外への放出ではなく、内部への収束に魔法の術式が改変され、勝手に消失していく。
「……終わりはあっけないな。まあ、一度だけなら復活できるけど、だからって即座に脳の汚染を洗浄できるわけじゃないからな。それじゃあドゥル、やっておいてくれ」
アルカは頑張ったが、“憤怒永掩”を発動した時点で死そのものは定まっていた。
一定時間経つと、魔力同様に減らないはずの生命力を一割使ったことにされる。
そして、その判定がもう十回目。
それは同時に、強制的に今まで消費したものすべてを徴収される刻でもある。
魔力を全力全開で使っていた時点で、生命力云々で無くとも死んでいた。
それはひとえに、アルカが『新機一填』という擬似蘇生魔法を使えるからだろう。
そのため、彼女は徴収された命を即座に別の場所から取り寄せた。
……がしかし、それまで使った【憤怒】が残した置き土産が彼女を蝕む。
──その間にドゥルに指示をして、アルカの強制排除を済ませておく。
《──仰せのままに、我が王》
「方向はそうだな……どうせ転移で戻ってくるだろうし、魔族の方で」
《座標設定完了。砲台にセット──射出》
アルカは結界に包まれ、そのまま浮島の下部に配置された砲台に押し込まれる。
そして、そのままドンッと勢いよく魔族の領域へと吹っ飛んでいった。
「これで良しっと。さて、これでとりあえず通常営業ができるな」
「──いえ、たった今報告が」
「……今度はなんだ?」
眷属からの念話を受けていたアンが、俺にそう告げてくる。
いろんな場所で同時に作業している分、確認だけでも手いっぱいだよ。
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