2,184 / 2,518
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント後篇 その03
しおりを挟む一部のスキルが起こす『侵蝕』作用。
そのスキルの持つ性質に適合せず、体の主導権を奪われることで起こる現象だ。
だが、一部の者は意図的にそれを起こし、スキルの性能を高めることに利用している。
制御できる状態を俺は『侵化』と呼び、大半の者同様に暴走状態を『蝕化』と呼んだ。
「──アルカが『蝕化』したな。ああでも、主導権は握ったまま……なのか?」
彼女が主導権を奪い合いをしているスキルは、『侵化』と『蝕化』が分かりやすい。
瞳が赤くなるだけで収まれば『侵化』、髪まで影響が及べば『蝕化』といった形だ。
だが、『蝕化』は精神的に不安定となり、言動などもスキルの在り様に引っ張られる。
つまり、間違いなく普段とは違うと認識できるはずだが……そこに変化は無い。
「メルス様同様、汚染された部分を別の場所に隔離することで対処しているのでしょう。完全ではないでしょうが、それでも充分、ということかもしれません」
「フー……もとい『神竜』相手にそれは、舐め過ぎなんじゃないか?」
アルカは『蝕化』の影響で、魔法の威力や速度が向上している。
もともと使っていた【憤怒】込みのオリジナル魔法も、その火力が高まっていた。
だが、フーはそれ以上に【憤怒】を使いこなしているので、その火力は無意味。
魔法が当たる度に火はフーを襲うが、叩いただけですぐに消えてしまう。
アルカの持つどの魔法より、【憤怒】の魔法は使えない代物と化していた。
それでも彼女は【憤怒】を引き出し、高めた火力で強行突破に挑む。
「──深度、とでも仮称しましょう。それを高めることで、スキルとの適性を強制的に引き上げることが可能です。潜れば潜るほど、強くなる代わりに元の場所へ浮上する難度もまた高くなります」
「で、アルカはそれを絶賛深め中ってわけだな。それ、戻って来なかったらどうなる?」
「魂魄とスキルが結びつき、定着。それに伴い精神の変容が始まります。メルス様の知っている例で挙げますと、シガン様と同じ症状でしょうか。やがて、それが顕著に現れるようになり……」
「戻すのが面倒になるわけだ。絶対不可逆ならともかく、そのシガンみたいに戻そうと思えばどうにかなる。末期症状でも、改善する余地はあるんだったな?」
昔は『【固有】狩り』と称して、それなりに拝借していたからな。
当然、『侵蝕』にどっぷり浸かった者たちも居たわけで……彼らで試させてもらった。
それによると、あくまでも魂と接続しているのは擬似的な魄。
故に定着しようとも、戻すことは不可能では無い。
ただまあ、その『侵蝕』が濃ければ濃いほど治すのに時間が掛かる。
それも、<大罪>なんてヤバい代物ならなおさらだろうな。
「……いちおう聞いておくけど、そんなにヤバいのに武具っ娘がほぼ俺の理想的な姿なのには何か理由が?」
「武具っ娘たちは、その深度が初期値で最大となっております。そのうえで、彼女たちという存在が構築されているため、想いのままにメルス様を傷つけることが無いのです」
「そういうものなのか……まあ、なんだか少し安心できたよ」
「いつも申しているように、眷属たちのメルス様に対する好感度は大半の者がカンストしております。彼女たちはただ真っすぐに、メルス様に想いを伝えているのです」
きゅ、急に言われると……あんまり脳のシリアススイッチ(仮)が切り替わらない。
武具っ娘たちにも、もっと頼った方がいいのかもな……なんて思いつつ。
「ん? ありゃりゃ、気づかれたか?」
「見る眼が鋭いアルカ様ですので、最後の最期が無いことに気づかれたのでしょうね」
「回復をこっそり促していたけど、追いつかないし……アルカ自身が自滅覚悟の魔法を発動して生命力を減らしていたから、そこでズレたんだろう──『神竜』に殺しは無理、最悪無視してもいいんだよな」
フーの持つ(禁殺格闘)スキル。
決して相手を殺すことなく、生かし続ける非人道的でありながら神聖にも思えるような縛りの能力。
それを何らかの形で見抜き、自分が殺されないことを理解したようだ。
戦い方に変化が生じ、やがてフーを倒そうとする意欲が失われていく。
「けどまあ、ただ無視するってのは無理なんだよな。見えている以上に、フーってのは厄介な存在なんだぞ」
アルカの魔法は一切の時間を掛けず、瞬間的に発動される。
それがどれだけ高度な魔法であろうとも、魔力さえあればそれだけで発動可能だ。
しかし、フーから距離を取るようになってから、その速度が格段に落ち始めた。
それはフーがすでに仕込み、あえて使わずにいた能力──(事象剥離)。
触れた相手の持つ事象を引き剥がす。
そんなシンプルでありながら理不尽な能力によって、アルカの中から待機時間と再発動時間という二つの概念が奪われている。
そのうえで、(因果改変)が『零は不可能』という因果を植え付けたうえで返却。
強制的にそのルールが適応され、解除されるまで瞬間的な発動が不可能となった。
「それでもまだ、致命的に勝てないようにはしない辺り、『神竜』は優しいよな」
「結界への干渉不可、それをしてしまえば可能ではありますね」
「まだ教えたいことがあるってわけか。それが今度、会った時にどうなるのかは分からないけど……まあ、『神竜』のやりたいことなら、受け入れるさ」
アルカの『蝕化』は、さらにその深度を高めていく。
その行き着く先は、間違いなく後悔……果たして、それでもやるのだろうか。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる