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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント後篇 その01
しおりを挟むその日、すべての生命体が同じ光景を目にしたことだろう。
魔族の領域、人族の領域、迷宮、廃都──その四つの中央に位置する場所。
ごく一部の者にのみ知らされている、約束の地がそこにはあった。
辿り着くことができれば願いが叶う、そしてそれはこれまで本当に実現している。
祈念者が来訪した今回もまた、その願いに手を伸ばそうとする者は居た。
イベント終盤、彼らは祈念者に助力を願うはずだった──しかし、それは突如起きる。
≪ふーうん、タカシじょーーーうッ!!≫
生きとし生きる者すべてに送られた、嘲笑うような叫び声。
同時に、中央に浮かぶ巨大な島が光り輝き始める。
≪やぁ、みんな今日もエンジョイしているのかな? ぼくはとーっても元気! だからこの楽しさを、みんなにもおすそ分けした──いということでメインイベント!!≫
あれは何だ、バカにするなという声もぼそぼそと漏れ出す。
そして、一部の祈念者たちは察する……この流れはまさか、またなのかと。
≪いきなりのネタバレタイム! みんながこの世界で頑張ると、最後はこんな風にお願いされるんだ。『中央の地下、そこに眠る大魔法に導いてほしい! そこでどんな願いも叶えられる!』ってね♪≫
今度は自由民たちが、どうしてそれを知っているのかと呟く。
それは王家や高位の貴族、そして強者にのみ継承してきた伝説の話。
希望であり、強欲であり──戒めであり。
決して広められることなく、選ばれし者たちの間でのみ語られ、忘れられることの無い最後の切り札。
それが突如として、すべての生命体が聞く中で公表された。
ありえない事態を想定する、そうした経験が少ない彼らの動揺はかなりのものだ。
≪そしてサプラーイズ! なんとこのぼく、そんな願いを叶える魔法をゲットしちゃいましたー! はいみんな拍手ー、パチパチパチパチーーー!!≫
≪だから地下に行っても無駄でね、なーんにも起きないんだー。ちなみに、入るためには資格が必要だから、普通の人は入れないんだよー。もー、これだからお偉いさんは嫌になるよねー≫
≪そんな人たちに代わって、チャンスをぼくはあげちゃうよー! 見ての通り空を飛んでいるぼくのお城! ここに来て、ぼくを倒せた人がお城の主! 願いを叶えるのも思うがまま……誰にでも、資格はあるんだよ?≫
運命はここに来て、修復不可能なレベルにまで狂い始める。
祈念者が[選択肢]を選ぶも、そこには何一つ表示されることは無い。
本来想定したすべてを拒絶し、新たな運命が構築されていた。
主導するのは運命の導き手たる『導士』、不確定な未来は何も映さなくなる。
≪ルールは簡単、お城の下には迷宮に入るための装置があるんだ。それを通って迷宮を突破して、それからお城を攻略すればいい。何人で攻略してもいいし、どんな手段だって問題なし──できるものならやってみてよ≫
≪いろんな仕掛けもあるし、危険なこともたくさんあるよ。祈念者と自由民を平等にするため、チャンスは限られている。それでも、ゴールには願いを叶えるものがある…………さぁ、約束の地でぼくと握手♪≫
声は途絶え、これまでの出来事がまるで嘘かのように思えるほどの静寂。
しかし、空に浮かぶ島と城が、それらを真実だったと物語る。
「撲滅イベント……」「攻城戦……」「あとたぶん夢現祭り……」
『誰か分からねぇけど、絶対アイツだ!!』
祈念者の抱く謎の一つ。
AFOスタート初期から正体不明、時折イベント時に姿を見せないまま暗躍し、一位を奪い去っていく。
名前は分からず、かつて就いていた職業が【■■■】の三文字であること。
そして、今はただ『■■』と二文字で表示される謎の存在。
その存在以外のトップランカーは、ある程度把握されていた。
しかしそれでも、その存在だけが正体を暴かれることなく立ち振る舞っている。
そして、その存在が動けば決まって彼らは流れに呑み込まれていく。
翻弄され、個々の意思など無い強者の描いた演目の中へ。
──そして彼らの予想は、残念なことにかなりの精度で的を得ているのだった。
□ ◆ □ ◆ □
イベントエリア(中央) 浮島
変身魔法を解除し、偽っていた身も心も元の状態に戻す。
役に成り切るために使っていたが、我ながら上手くやれたのではと自賛したい。
先ほどまで声を届けていた魔道具の、接続が切れているかを確認。
……バレるのもバカらしいので、チェックは念入りにやっておかないとな。
「放送終了っと……ふぅ、毎度のことながら緊張するな」
「お疲れ様です、メルス様」
「サポートありがとうな、アン。さて、これで第二段階に移行できるな。周囲の反応はどうなっている?」
「おおむね良好かと。祈念者はすでに、メルス様のこういったサプライズに慣れ切っておりますので。ほとんどの者は、そのまま自由民共々この地の攻略を目指すでしょう」
アンの言う通り、割とノリのいい祈念者であればここに集結し始めるだろう。
もう大半の祈念者が暇になっていることは確認済み、だからこそこの日に始めたのだ。
暇を弄ぶ祈念者にとって、これは与えられた目立つチャンス。
輝く存在になるための機会、意図して逃すこともないはずだ。
──だがアンは、ほとんどの者と言った。
俺とて理解している。
たしかに大半の者は俺のことなど知らないし、自分から率先してその正体を暴こうともしないだろう。
それでもその真実を知る者の中には、決して俺の意にただ従うだけでは終わらない連中が居ることを。
《我が王へ報告──上空より侵入者を確認》
「展開してあった妨害魔法は?」
《魔法による破壊と分解を確認。島そのものに施した多重結界もまた、順調に掻い潜られているようです》
構築した防衛ラインを統制してもらっていたドゥルから、情報が入る。
不法侵入によるクリアを許さないため、徹底した防御網を敷いていたのだが……やはり通じなかったか。
金髪ツインテを靡かせ、空色の瞳を真っ赤に燃やし、激情に駆られた【賢者】には。
分かり切っていたことだ、だからこそ──策はすでに用意してある。
「選考の方は?」
「すでに済ませてあります──『神竜』が出撃します」
「……まあ、同じスキル持ちだし。正直、性格的に合わない気もするけど──今回は任せてみようか」
《了承を確認──『神竜』、出撃します》
映像越しに確認していた侵入者の少女、その動きが突如として止まる。
その場で結界を展開したかと思えば、それらが一瞬で砕かれ吹き飛ばされた。
それを行った者こそ、こちらの送り込んだ刺客であるコードネーム『神竜』。
他の祈念者はまだ動いて攻略を始めていない、せっかくなので楽しませてもらおうか。
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