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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント中篇 その20
しおりを挟む迷宮攻略の通知は、今回も送られない。
S級迷宮というのは、どこもかしこも容易には核を奪われないように隠しているということなのだろうか。
「前回は黒い血珠が核だったけど……今回は何がそうなんだろう? みんな、探し物を手伝ってくれるかな?」
『!』
精霊たちにも頼み、それらしきものが無いかを探ってみるのだが……すぐにそれを見つけることはできなかった。
「じゃあ、とりあえず同じ方法でやろうか。ナシェク、お願い」
『分かりました。あのようなものを、残しておくわけにはいきません』
先ほどまで酒を生み出していた水鉄砲で、聖なる水を生み出していく。
怪魚を討伐後、再び溢れ始めていた水に聖なる水が浸透する。
その水を通じて、ナシェクが源泉らしき場所を探ってくれるだろう。
俺は鑑定スキルが宿る魔本を開き、自前の鑑定スキルを使えるように備えておく。
『──見つけました。今いる場所から右側にある水路、その先に結晶があります。それがこの迷宮の核である可能性が高いです』
「了解っと。エアル、お願い」
『♪』
一時的に風の膜で保護してもらい、水中に濡れることなく潜る。
ナシェクの案内の下、水路を通った先──これまた儀式場のような場所へ辿り着いた。
配置された結晶から水が流れ、この迷宮を覆っていた……そういうことなのだろう。
幸い、行きついたこの場所には空気もあるし、ちゃんと陸地もある。
それがかつて地下で見た空間とほぼ同じなのは、これが悪意の産物である証拠。
ともあれ、今の俺にできるのは──眷属への貢物の確保ぐらいだ。
「見ているんだよね? アン、これも持って帰った方がいいかな?」
《──可能であれば、ぜひとも》
「可能だったから、前の黒いヤツだって持ち帰ったわけじゃん。うん、ちゃんとこっちも持って帰るからね」
《ただし、お気を付けください。次々と悪意が生んだ産物を奪い、利用しようとする。それに気づいた存在が何を企むのかを》
アンの言葉は的を得ている……のだが、一番利用している俺たちがそれを考えても仕方が無いと思う。
悪意は当然これに気づくだろうが、根本の魔法陣はすでに俺が破壊した。
なので全S級迷宮の核を奪い取れば、自動的に無力化できるも同然。
ダーククリスタル、そう呼ぶのが一番妥当な結晶に近づき触れる。
膨大な悪意が俺を襲うのだが……{感情}がすべてシャットアウトし、害は及ばない。
その間に【強欲】の魔武具『万智の魔本』によって回収され、そのまま眷属たちの下へ届けられる……これで一先ず、迷宮の攻略は達成された。
「けどまあ、他にも願われたことってあるはずだよね」
《悪意の魔力、その残滓を調査したところ。人族の領域に三つ、魔族の領域に二つ。廃都に一つございました。なお、これらは願いの産物そのもののカウントであり、副次的なものは含めておりません》
「この迷宮は、これそのものが悪意の産物だもんね……他のえっと、六つか。これにどういう願いが籠められているのか、それを調べた方がいいかもしれないね」
《そのすべてが形ある物ではない、そう認識されるのがよろしいかと。力を欲する、これもまた純粋な願いなのですから》
この迷宮都市は、迷宮が願いに適していたからこそ悪意によって創造されている。
しかし、不定形なもので願いが叶うのであれば、それらもまた可能なはず。
永遠の命、最強の暴力、無尽の栄光……凡人でも簡単に思いつくのだ、あの場所に辿り着くことができる連中もまた、そんな願いを唱えたのかもしれないな。
「うーん、だいぶ溜めていたし。そろそろ使おうかな──[選択肢]っと」
実は迷宮に入り浸ってから、使わなくなっていた[選択肢]。
その代わり、一日ごと溜まるエネルギーを拝借して溜めておいた。
今回はそれを一日分だけ使い、これからどうすればいいのかを視てみることに。
自動的に両目が未来を映す神眼に切り替わり、そのままUIが表示される。
===============================
・これからの方針──何をする?
1:眷属と共に迷宮の攻略をする(金)
2:眷属と共にラスボスを始める(金)
3:眷属と共に各陣営に忍び込む(金)
===============================
……うん、時間を空け過ぎたため、システムが完全に掌握されてしまったらしい。
とりあえず、それぞれの最初の単語を視なかったことにして、選択肢を見てみよう。
迷宮の攻略、これはシンプルに悪意の産物集めをするということだ。
眷属が使う分だけの予定だったが、必要ならばやっても構わない。
ラスボスを始めるのは……たぶん、強制的に全部を終わらせるということだろう。
今回得たものを組み込ませて、さっさとやるのもまた楽しそうだ。
陣営に忍び込む……のはつまり、他の陣営にある悪意の産物を見るということ。
奪うにせよ調査するだけにせよ、どういった願いだったかを知るわけだな。
──今回は全部金色なこともあり、どれを選択しても損は無いようだ。
「よし、ならいっそのこと──全部を一気にやるってのはどうかな? 四天王ポジションで揉めていたぐらいだから、参加してくれる眷属は多いはずだし」
《正当な報酬があるのであれば、わたしたちも協力は惜しみません》
「報酬がある時点で、お手伝いとは言えない気がするけど……うん、みんなで楽しみたいからね。僕が拒否しない、そうちゃんと理解していることならやってみるよ」
《畏まりました。ではその旨、皆さまにもお伝えしてまいります》
イベントが始まってから、それなりの帰還も経過している。
ならばそろそろ、大きなことを始めても良いだろう。
──蹂躙と暗躍、どっちも楽しそうだな。
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