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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント中篇 その18

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 トーの姉力が(物理的に)爆発し、湖が干上がった。
 そこだけ聞くと、俺の精神が異常に来したと思われそうだが……紛うこと無き事実だ。

 沈黙を探索者に強要する湖は、今や見るも無残に焼死体の散開するただの池。
 残された水は最深層に該当する部分だけ、つまりいきなりボス戦だ……わーい(棒)。


「みんな、準備はいいかな?」

『♪』

「ナシェクも、問題は?」

『ありません。いつでも万全です』


 今の俺は『契約術師』縛り。
 これまで集めたスキルは使えず、契約した存在が持つモノだけを使うことができる。

 精霊をその身に纏えばその属性の魔法を、聖具を握れば聖属性の魔法を。
 そして、魔本のうちスキルを封じたものを使えば、そのスキルと同じスキルが使える。

 自分自身でやっていることは、あくまでも魔力の供給ぐらい。
 便利だが、一定以上の火力が出ないことやそもそものコスパが悪いという問題がある。

 なので使い手が少ない……複数種類の契約ともなれば、それはさらに稀有だ。
 それでも、今の縛りはそれを強要するわけで──やれることをやるだけだな。


「じゃあエアル、お願いを──」

『!』
『? !』
『!!』


「えっ、ラボルが? エアルがそれでいいなら……うん、分かった。じゃあ、ラボルにお願いするよ」

『!』


 水の総量が減り、そもそも水が溜まっているのは地底湖として想定されていた区画。
 エアルに擬似的な風魔法を使ってもらい、下まで行こうと思っていたが……。

 雷属性の微精霊が、自分にやらせてほしいと主張してきた。
 断る理由も無いし、任せてみると……まず足元にピリッと電気が迸る。

 そして、そのまま俺の体が軽く浮き上がったと思えば、勝手に移動が始まった。
 湖の在った地点に辿り着くと、今度はゆっくりと降りていく。

 ……おそらく、電磁浮遊的なものを再現しているのだろう。
 原理そのものではなくとも、電気そのものな精霊だからできる技と言える。


「凄いよ、ラボル! ……エアルも、サポートありがとね」

『!』
『♪』


 とはいえ、浮遊は浮遊であって飛行ではない……その辺りは、こっそり背中を押してくれていた風が影響しているのだろう。


「ヘリスは照明を、アリユはどこかに紛れていないか探してくれないかな? ナシェク、そろそろ使うよ──『滝水の天銃』」

『!』
『♪』
『あまりその流れでは……まあいいです』


 光の微精霊と闇の微精霊に探索の備えをしてもらい、聖具であるナシェクには遠距離武器となってもらう。

 水属性の相手に水は愚策では? と思われがちだが……まあ、やるだけやってみる。
 そんなこんなで湖だった場所なのだが……嗚呼、綺麗だった景色はいずこへ。


「空を飛べる魔物は……居ないみたいだね。うん、これなら──みんなだけで対処できるよね」

『♪』


 空を飛べずとも、跳ねたり躍ったりすることはできる。
 魔物たちは最後の力を振り絞り、俺の下へ攻撃を──する前に精霊に迎撃されていく。

 なんせ、俺は湖の在った中央。
 壁面以外に隠れていた魔物たちは、すでに消し炭か水底へ沈んでいる。

 そう、広大な湖だった。
 壁から中央に辿り着くより先に、精霊たちが構築する攻撃の方が早く完成し、魔物たちに到着するのだ。


「だから、このままレッツゴー!」

『♪』
『…………ハァ』


 どこからか溜め息が聞こえた気もするが、聞かなかったことにしてさらに下へ。
 だんだんと、現れる魔物も深海魚に似た見た目になっていく。


「こっちの世界も向こうの世界も、考えることは同じなのかな? 深海の圧に耐えるために、独特の姿になっている……そうじゃないのも居るけど、それは魔力で強引に形を整えている分、もっと歪な気がするし」


 だが、それでもまだ水の無い地点。
 トーの増やした火の影響に、呑み込まれた場所である……水底にはいったい、どんな生物が居るのやら。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ■まりの■水湖 最深層


 普通に言葉を呟けることからも気づいていたが、強制沈黙の効果は水に付随していたらしい。

 それでもお持ち帰りして来いと指示されていなかった辺り、あくまでこの迷宮の中でしか効果は発揮されなかったのだろう。


「ここが湖底か……うん、水が有ったら綺麗だったのかな?」


 光の届かないほど暗い場所、しかしプランクトンがほんのり光るのが地球の深海だ。
 同様に、こちらでも何か光る物質が存在した──全部死滅しているけど。


「トーの火、ここにまで影響が届いていたとは……このままだと戦闘ゼロで攻略が済んでしまいそう!」

『それでよいのでは?』

「いやまあうん、安全面的にはそっちの方がいいんだけどね。でも、みんなの出番が有った方がいいかなって……あっ、たぶんありそうだね!」


 すべてが死んでいるので、俺が行えたのはドロップアイテムの回収だけ。
 やはり最深層、俺が来る直前くらいまではどうにか生き残ってくれていたのだろう。

 だからこそドロップアイテムが残っているし、時たま死骸も確認出来る。
 ……それゆえの虚しさもあったが、それでも──扉が有ったので気にしないでおく。

 扉とは一種の隔てり、つまりトーの火の影響外にあるということ。
 確実に悪意の巣窟ではあるだろう……それでも、戦闘できる喜びを俺は持っていた。


「ナシェクだって、全部をトーお姉ちゃんに任せるだけでいいとは思わないでしょ?」

『……それは、そうですが』

「そういうことなんだよ。よし、じゃあさっそく!」


 迷うより行動あるのみ。
 扉に手を当て、その先へ進むのだった。


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