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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント中篇 その15

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 ディーが[ロウシャジャル]となることによって、血の巨人は見事に討伐。
 また、断罪の光を最後に浴びさせたことで迷宮そのものにも影響が及んだ。


「ディー、ありがとうね。また期間が過ぎたら、いっしょに遊ぼう」

『♪』


 それだけの成果を出した代償は、一定期間の召喚不可。
 さまざまな手札を持つ俺なので、困りはしないのだが……やはり寂しいな。


「さて、本当はこれで迷宮の攻略は済む……はずなんだけど。うん、まだ何かあるみたいだね」


 迷宮は核によって成り立っている。
 それが生物なのか、迷宮核なのかは場合によるのだが──いずれにせよ、活動を停止させれば機能は停止する……はずだった。


「ナシェク、どうしてだと思う?」

『単純に考えれば、迷宮核が存在する。あるいは……』

「迷宮の核は別にある、かだね。その場合、まだどこかで生き残っているはずだし……見つけださないとね」

『何をするのですか?』


 ディーが頑張っている間に、消耗した分の魔力はポーションで補ってある。
 ナシェクに形状変化の意思を伝え、腕輪から銃の形状に変わってもらった。


「──『滝水の天銃』」

『聖水をどのように使うので?』

「氷でも良かったんだけど、こっちの方が広範囲にできるからね。アイア、力を貸してくれるかな?」

『!』


 水魔法を使う必要があるため、水の微精霊アイアの了承を得て“精霊憑依エレメンタルポセッション”を発動。
 その身に憑いてもらい、水属性の封印という縛りから解放される。


「あとは聖水を触媒に魔法を使っていくんだ──“雨降レイン”」

『! なるほど、これなら……』

「ナシェクなら分かるよね? どんな形であれ、この迷宮は禍々しい気配がずっとあるんだから。それを探ってくれる?」

『いいでしょう。誰にも見せないとはいえ、聖人らしい振る舞いをすることは大変喜ばしいことですので。感覚はあります、悪意に触れる感覚──そちらですね』


 ナシェクが器用に水を生成し、その悪意の本元の場所へ導いていく。
 指し示されたのは──何も無い場所、しかし宙に浮いた水は下に矢印を向けていた。


「……あー、本物と同じ感じなのかな? 迷宮を創りたいって願いは、草原の地下にあった魔法陣で叶えられたんだ。だから、それを模しているのかもしれないね」

『地下ですか……』

「魔法ならどうとでもなるよ。魔本解読リリース──“大地散床グランドグラウンド”」


 微精霊では難しい魔法なので、魔本……それも完全解放版で発動する。
 大地が突如割れ、それが地中奥深くまで効果範囲となっていく。

 真っ二つになった迷宮、その間に存在したのは──真っ黒な球体だ。


『なんですか、あの禍々しい物は……!』

「むっ、あれは……魔本開読オープン──“鑑定”」


 魔本によるスキル付与で、自前の鑑定スキルを解放……こういう手順を踏むのも、縛りのこだわりである。

 で、覗いた結果なのだが……いっさいの情報が記されていなかった。
 これは俺のレベルが足りない、もしくはそもそも情報が存在しないかのどちらかだ。


「レベルは足りないし、そのうえで分からない物ってことなんだろうね……うーん、とりあえず『黒血珠』と名付けよう!」

『安直ですね……って、それよりも早く破壊すべきです!』

「うっ、いいんだよ、分かれば。破壊は止めた方がいいかも。もし、アレを壊した瞬間に中身が弾け飛んだら? 迷宮の中だから外部には漏れないと思うけど、ここで何が起こるかまでは保証されないよ?」


 俺が死ぬ事態となれば、眷属たちによる手厚い保護が受けられるので問題ないだろう。
 しかし、あくまでそれは最終手段……可能な限り、自分でなんとかしたい。


「でも、さすがにこれはな…………」

《──と、お困りの貴方に朗報です!》

「……急に通販みたいな展開が。えっと、急にどうしたの?」

《そちらの『黒血珠(笑)』ですが、利用したいことがありまして。メルス様(笑)、よろしければそちらの品、ぜひともお渡しいただけないでしょうか(笑)?》


 ……なお、全部の『(笑)』を口で言っております。
 ナシェクには伝えていないようだが、俺の行動に慣れたのか何も言ってこない。

 というか、何故に俺を呼ぶ時に『(笑)』が付いていたんだよ。
 ややこめかみが引くついているのを自覚しながら、突然連絡してきたアンと話す。


「持っていた際の被害は?」

《迷宮の機能停止、及び外へ持ち出された血珠の性能低下でしょうか? 最悪、死者が出るかもしれません》

「そりゃあ頼りにしていたレア素材が、全然使えなくなるわけだしね。都合よく非戦闘時に低下させるのは……僕には無理だし、仕方ないか」

『っ……待ってください、それは間違いなく危険な品です。しかし、その言では……何に利用するつもりですか!?』


 俺たちのたくらみを完全にでは無いが理解したのか、首……もとい思念を突っ込んでくるナシェク。

 とりあえず中継役は嫌なので、アンには回線を繋ぐように伝える。


《──改めまして、模造天使ナシェク様。わたしはメルス様……いえ、ノゾム様のサポートを行っている、アンと申します。単刀直入に言ってしまいますと────》

「……あれ、急に僕の方の回線が切れたんだけど?」

『──。なるほど、そういうことですか』

「あれ、なんでナシェクにはちゃんと伝えるのさ!?」


 結局、この後ナシェクが納得するまで俺は放置される羽目に。
 黒血珠に関しては、『万智の魔本グー』で輸送することになりましたとさ。


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