2,176 / 2,518
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント中篇 その15
しおりを挟むディーが[ロウシャジャル]となることによって、血の巨人は見事に討伐。
また、断罪の光を最後に浴びさせたことで迷宮そのものにも影響が及んだ。
「ディー、ありがとうね。また期間が過ぎたら、いっしょに遊ぼう」
『♪』
それだけの成果を出した代償は、一定期間の召喚不可。
さまざまな手札を持つ俺なので、困りはしないのだが……やはり寂しいな。
「さて、本当はこれで迷宮の攻略は済む……はずなんだけど。うん、まだ何かあるみたいだね」
迷宮は核によって成り立っている。
それが生物なのか、迷宮核なのかは場合によるのだが──いずれにせよ、活動を停止させれば機能は停止する……はずだった。
「ナシェク、どうしてだと思う?」
『単純に考えれば、迷宮核が存在する。あるいは……』
「迷宮の核は別にある、かだね。その場合、まだどこかで生き残っているはずだし……見つけださないとね」
『何をするのですか?』
ディーが頑張っている間に、消耗した分の魔力はポーションで補ってある。
ナシェクに形状変化の意思を伝え、腕輪から銃の形状に変わってもらった。
「──『滝水の天銃』」
『聖水をどのように使うので?』
「氷でも良かったんだけど、こっちの方が広範囲にできるからね。アイア、力を貸してくれるかな?」
『!』
水魔法を使う必要があるため、水の微精霊の了承を得て“精霊憑依”を発動。
その身に憑いてもらい、水属性の封印という縛りから解放される。
「あとは聖水を触媒に魔法を使っていくんだ──“雨降”」
『! なるほど、これなら……』
「ナシェクなら分かるよね? どんな形であれ、この迷宮は禍々しい気配がずっとあるんだから。それを探ってくれる?」
『いいでしょう。誰にも見せないとはいえ、聖人らしい振る舞いをすることは大変喜ばしいことですので。感覚はあります、悪意に触れる感覚──そちらですね』
ナシェクが器用に水を生成し、その悪意の本元の場所へ導いていく。
指し示されたのは──何も無い場所、しかし宙に浮いた水は下に矢印を向けていた。
「……あー、本物と同じ感じなのかな? 迷宮を創りたいって願いは、草原の地下にあった魔法陣で叶えられたんだ。だから、それを模しているのかもしれないね」
『地下ですか……』
「魔法ならどうとでもなるよ。魔本解読──“大地散床”」
微精霊では難しい魔法なので、魔本……それも完全解放版で発動する。
大地が突如割れ、それが地中奥深くまで効果範囲となっていく。
真っ二つになった迷宮、その間に存在したのは──真っ黒な球体だ。
『なんですか、あの禍々しい物は……!』
「むっ、あれは……魔本開読──“鑑定”」
魔本によるスキル付与で、自前の鑑定スキルを解放……こういう手順を踏むのも、縛りのこだわりである。
で、覗いた結果なのだが……いっさいの情報が記されていなかった。
これは俺のレベルが足りない、もしくはそもそも情報が存在しないかのどちらかだ。
「レベルは足りないし、そのうえで分からない物ってことなんだろうね……うーん、とりあえず『黒血珠』と名付けよう!」
『安直ですね……って、それよりも早く破壊すべきです!』
「うっ、いいんだよ、分かれば。破壊は止めた方がいいかも。もし、アレを壊した瞬間に中身が弾け飛んだら? 迷宮の中だから外部には漏れないと思うけど、ここで何が起こるかまでは保証されないよ?」
俺が死ぬ事態となれば、眷属たちによる手厚い保護が受けられるので問題ないだろう。
しかし、あくまでそれは最終手段……可能な限り、自分でなんとかしたい。
「でも、さすがにこれはな…………」
《──と、お困りの貴方に朗報です!》
「……急に通販みたいな展開が。えっと、急にどうしたの?」
《そちらの『黒血珠(笑)』ですが、利用したいことがありまして。メルス様(笑)、よろしければそちらの品、ぜひともお渡しいただけないでしょうか(笑)?》
……なお、全部の『(笑)』を口で言っております。
ナシェクには伝えていないようだが、俺の行動に慣れたのか何も言ってこない。
というか、何故に俺を呼ぶ時に『(笑)』が付いていたんだよ。
ややこめかみが引くついているのを自覚しながら、突然連絡してきたアンと話す。
「持っていた際の被害は?」
《迷宮の機能停止、及び外へ持ち出された血珠の性能低下でしょうか? 最悪、死者が出るかもしれません》
「そりゃあ頼りにしていたレア素材が、全然使えなくなるわけだしね。都合よく非戦闘時に低下させるのは……僕には無理だし、仕方ないか」
『っ……待ってください、それは間違いなく危険な品です。しかし、その言では……何に利用するつもりですか!?』
俺たちのたくらみを完全にでは無いが理解したのか、首……もとい思念を突っ込んでくるナシェク。
とりあえず中継役は嫌なので、アンには回線を繋ぐように伝える。
《──改めまして、模造天使ナシェク様。わたしはメルス様……いえ、ノゾム様のサポートを行っている、アンと申します。単刀直入に言ってしまいますと────》
「……あれ、急に僕の方の回線が切れたんだけど?」
『──。なるほど、そういうことですか』
「あれ、なんでナシェクにはちゃんと伝えるのさ!?」
結局、この後ナシェクが納得するまで俺は放置される羽目に。
黒血珠に関しては、『万智の魔本』で輸送することになりましたとさ。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる