2,174 / 2,518
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント中篇 その13
しおりを挟む脳筋……とは違うと思いたいが、だからと言って理論派とも思えない俺という凡人。
少なくとも、目の前の情報を処理しきれず体を動かそうと思うぐらいにはアレだ。
一度地面に引き下がった血は、一つの巨大な塊となって再度地上へ昇ってきた。
その姿はまさに……人そのもの、悪意の塊はその象徴として『人』を選んだらしい。
「ナシェク──『煌光の天杖』!」
『……本気ですか?』
「本気も何も、困ったらまた同じことをするだけだからね。みんなも、力を貸して!」
『!』
構える武器は自我を持つ聖なる杖。
周囲に従えるは八属性の微精霊たち。
決して有利とも万全とも言えない状況、しかしだからこそ挑む。
間違いなくこれは予定調和ではない。
シナリオが狂い、起きたイレギュラー。
修正力がどう足掻こうと、決められていた流れはとうに過ぎ去っている。
「──自分の限界に挑戦だ!」
『本音が漏れているじゃないですか!!』
「だって、迷宮で得た分の経験値は全部アレに使っちゃったんだもん! レベルを上げるためには、少しぐらいの無茶をしないとダメなんだよ!」
そう、それなりに迷宮を攻略して……いやそれ以前に廃都でアンデッド狩りをしている頃から経験値は溜まっていた。
がしかし、それらはたった一つのスキルのために使われてしまっている。
──幸運、せめて運ぐらい良くなればいいなぁ……という子供染みた考えによって。
「あんまり運は良くならなかったけどね」
『……確認しますが、貴方の言う幸運とはどういったものですか?』
「うーん…………いいことが起きる?」
『その認識では分からないでしょう。ええ、貴方はもともと幸運なので、気づけていないだけですよ』
いや、俺は幸運じゃなくて凶運……という言葉も虚しく、ナシェクは戦闘補助に専念したのか沈黙を貫いた。
俺も俺で、精霊たちへの指示が忙しくなったので同じこと。
契約術師プレイなので、俺ができることはせいぜいそれぐらいなのだった。
「ナシェクを介しているから、光系統と聖属性魔法はいいんだけどね──“聖槍”!」
『効いていませんね。元より、聖属性は威力よりも支援や浄化に性能が偏っています。あれほどの悪意には通じないはずです』
「聖属性って使えな……いえ、何でもありません」
『……分かればいいのです』
修道服でも着てブーストを掛ければ、それなりの火力も出せるんだけどな。
信仰も強化の鍵になっているのだが、今の俺は何の神の加護も持っていない状態だ。
「じゃあ、天使魔法を貸してくれる? こういう時にピッタリのヤツ、あるよね?」
『どうしてそれを知っているのか、そして使えるのかという疑問は浮かぶのですが……可能ならば構いません』
「魔法自体は知っているから、ナシェクの力があればできるよ──“天命執行”!」
対象の業値によって、自己に強力なバフを発生させるこの魔法。
本来、自分の徳も高くないと効果は見込めないが……今回はナシェクが居る。
発動者を霊験あらたかなナシェクにすることで、その問題はクリア。
ただでさえ業の深い相手を敵にすれば、なおのこと補正値は上がる。
「そして──“裁きの光”」
空に手を翳し、勢いよく下ろす。
その一順の流れから生み出された、天から注がれる神々しい光。
先ほど語った徳と業を、今度は攻撃に用いたのがこの魔法。
自分の徳が高く、相手の業が深ければ深いほど効果は抜群だ。
『……なぜ、ここまで使いこなせるのでしょうか?』
「ん? そりゃあ僕、こっちの世界に来たときの姿は天使だったから」
『天使!? あ、貴方が…………』
「……なに、そのありえないものを見ましたみたいな反応。そりゃあ期間はそんなに長くなかったけど、一通り使える魔法は試しておいたんだから──“守護天羽”」
攻撃を一度だけ減衰してくれる魔法で、念のための保険を掛けておく。
物凄く疑っているようだが、因子でも打てば認めるだろうか?
光は今なお降り注いでいる。
どうやら持続時間に関しても、徳か業かで延長していたのかもしれない……俺が試すと業値が0で確認にならなかったからな。
「とにかく、これで充分に戦えるよ。天使の召喚もできるから戦力だって確保できるし」
『それはできません。私という存在の特殊性からか、こちらの世界の天使を呼ぶことができませんので』
「ちぇー。まあいいよ、それならそれで使いたい魔法もあったし」
気になることを語ったナシェクではあるのだが、今はそれを気にしてはいられない。
光がだんだんと収まっていき、体積は減ったが未だ健在な血の巨人が出てきたからだ。
対抗すべくまず行うこと、それは──新しく腕輪を嵌めること。
宝珠の付いたそれを前に構えて、相棒をここに召喚する。
「来て、[ディー]!」
『♪』
「そして──“専変瞞化”!」
『!!』
流れるようにディーのリミッターを解除して、すぐさまやるべきことをやってもらう。
使用中の戦闘は不可能なので、俺は大人しく後方へ下がる。
一方のディーは葛餅みたいだった姿を、うねうねと変形させていく。
姿は人型……だが羽が生えており、何より全身が影法師のようにシルエット状。
それでも聖性を迸らせ、存在するだけで周囲を浄化している。
そう、ありとあらゆる姿になれる今だからこそ使える切り札。
「──『護法天影[ロウシャジャル]』! さぁディー、やっちゃって!」
『!!』
『な、何なんですかアレはぁああああ!?』
ナシェクの心からのシャウトを聞きつつ、俺は頼れる相棒にこの先を任せるのだった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる