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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント中篇 その13

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 脳筋……とは違うと思いたいが、だからと言って理論派とも思えない俺という凡人。
 少なくとも、目の前の情報を処理しきれず体を動かそうと思うぐらいにはアレだ。

 一度地面に引き下がった血は、一つの巨大な塊となって再度地上へ昇ってきた。
 その姿はまさに……人そのもの、悪意の塊はその象徴として『人』を選んだらしい。


「ナシェク──『煌光の天杖』!」

『……本気ですか?』

「本気も何も、困ったらまた同じことをするだけだからね。みんなも、力を貸して!」

『!』


 構える武器は自我を持つ聖なる杖。
 周囲に従えるは八属性の微精霊たち。
 決して有利とも万全とも言えない状況、しかしだからこそ挑む。

 間違いなくこれは予定調和ではない。
 シナリオが狂い、起きたイレギュラー。
 修正力がどう足掻こうと、決められていた流れはとうに過ぎ去っている。


「──自分の限界に挑戦けいけんちだ!」

『本音が漏れているじゃないですか!!』

「だって、迷宮で得た分の経験値は全部アレに使っちゃったんだもん! レベルを上げるためには、少しぐらいの無茶をしないとダメなんだよ!」


 そう、それなりに迷宮を攻略して……いやそれ以前に廃都でアンデッド狩りをしている頃から経験値は溜まっていた。

 がしかし、それらはたった一つのスキルのために使われてしまっている。
 ──幸運、せめて運ぐらい良くなればいいなぁ……という子供染みた考えによって。


「あんまり運は良くならなかったけどね」

『……確認しますが、貴方の言う幸運とはどういったものですか?』

「うーん…………いいことが起きる?」

『その認識では分からないでしょう。ええ、貴方はもともと幸運なので、気づけていないだけですよ』


 いや、俺は幸運じゃなくて凶運……という言葉も虚しく、ナシェクは戦闘補助に専念したのか沈黙を貫いた。

 俺も俺で、精霊たちへの指示が忙しくなったので同じこと。
 契約術師プレイなので、俺ができることはせいぜいそれぐらいなのだった。


「ナシェクを介しているから、光系統と聖属性魔法はいいんだけどね──“聖槍ホーリーランス”!」

『効いていませんね。元より、聖属性は威力よりも支援や浄化に性能が偏っています。あれほどの悪意には通じないはずです』

「聖属性って使えな……いえ、何でもありません」

『……分かればいいのです』


 修道服でも着てブーストを掛ければ、それなりの火力も出せるんだけどな。
 信仰も強化の鍵になっているのだが、今の俺は何の神の加護も持っていない状態だ。

 
「じゃあ、天使魔法を貸してくれる? こういう時にピッタリのヤツ、あるよね?」

『どうしてそれを知っているのか、そして使えるのかという疑問は浮かぶのですが……可能ならば構いません』

「魔法自体は知っているから、ナシェクの力があればできるよ──“天命執行ヘブンズオーダー”!」


 対象の業値によって、自己に強力なバフを発生させるこの魔法。
 本来、自分の徳も高くないと効果は見込めないが……今回はナシェクが居る。

 発動者を霊験あらたかなナシェクにすることで、その問題はクリア。
 ただでさえ業の深い相手を敵にすれば、なおのこと補正値は上がる。


「そして──“裁きの光ジャッジメントレイ”」


 空に手を翳し、勢いよく下ろす。
 その一順の流れから生み出された、天から注がれる神々しい光。

 先ほど語った徳と業を、今度は攻撃に用いたのがこの魔法。
 自分の徳が高く、相手の業が深ければ深いほど効果は抜群だ。


『……なぜ、ここまで使いこなせるのでしょうか?』

「ん? そりゃあ僕、こっちの世界に来たときの姿は天使だったから」

『天使!? あ、貴方が…………』

「……なに、そのありえないものを見ましたみたいな反応。そりゃあ期間はそんなに長くなかったけど、一通り使える魔法は試しておいたんだから──“守護天羽エンジェルフェザー”」


 攻撃を一度だけ減衰してくれる魔法で、念のための保険を掛けておく。
 物凄く疑っているようだが、因子でも打てば認めるだろうか?

 光は今なお降り注いでいる。
 どうやら持続時間に関しても、徳か業かで延長していたのかもしれない……俺が試すと業値が0で確認にならなかったからな。


「とにかく、これで充分に戦えるよ。天使の召喚もできるから戦力だって確保できるし」

『それはできません。私という存在の特殊性からか、こちらの世界の天使を呼ぶことができませんので』

「ちぇー。まあいいよ、それならそれで使いたい魔法もあったし」


 気になることを語ったナシェクではあるのだが、今はそれを気にしてはいられない。
 光がだんだんと収まっていき、体積は減ったが未だ健在な血の巨人が出てきたからだ。

 対抗すべくまず行うこと、それは──新しく腕輪を嵌めること。
 宝珠の付いたそれを前に構えて、相棒をここに召喚する。


「来て、[ディー]!」

『♪』

「そして──“専変瞞化ディヴァース”!」

『!!』


 流れるようにディーのリミッターを解除して、すぐさまやるべきことをやってもらう。
 使用中の戦闘は不可能なので、俺は大人しく後方へ下がる。

 一方のディーは葛餅みたいだった姿を、うねうねと変形させていく。
 姿は人型……だが羽が生えており、何より全身が影法師のようにシルエット状。

 それでも聖性を迸らせ、存在するだけで周囲を浄化している。
 そう、ありとあらゆる姿になれる今だからこそ使える切り札。


「──『護法天影[ロウシャジャル]』! さぁディー、やっちゃって!」

『!!』

『な、何なんですかアレはぁああああ!?』


 ナシェクの心からのシャウトを聞きつつ、俺は頼れる相棒にこの先を任せるのだった。


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