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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント中篇 その07

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 幸いにして、目的地に着くまで俺の邪魔をする者は現れなかった。
 アリユを憑依させて影魔法を行使、影に潜み辿り着いたのは──横たわる竜の頭。


「うーん、やっぱりな……道理でここには、悪意なんて何にも無かったんだ」


 この迷宮は迷宮であって迷宮ではない。
 元【迷宮主】であり、レンから迷宮に関する情報を学んでいる俺なので、迷宮都市に存在する他の迷宮との違いに気づいていた。

 迷宮の発生方法は大きく分けて二つ。
 迷宮核や魔法を用いて人造的に構築する、あるいは周囲の膨大な魔力が形を成して核となる要素を取り込み迷宮とする方法だ。

 これは前に一度語ったので詳細は省くが、この迷宮の場合はその両方が混ざっている。
 たしかに迷宮核は存在し、他の迷宮同様に管理された魔物の発生が行われていた。

 ──がしかし、迷宮そのものがここそのものである『蓬山真竜ハイエンド・マウンテンドラゴン』を召喚したわけではないのだ。

 迷宮が呼んだのではなく、『蓬山真竜』が迷宮核を取り込んだとも言える。
 つまり、もともと世界に居た存在を、迷宮が核としてこの地の楔としたのだ。

 その結果、迷宮は擬似的に『蓬山真竜』を主として登録した形で運用された。
 故に現れる魔物は竜に限定され、主自身は何もせずとも一生活動することができる。


「人の煮詰めた悪意よりも、竜の威厳の方が強かったわけだね。さて……少しお話をしたいかな──“精霊憑依エレメンタルポセッション:ヘリス”」


 憑依してもらう精霊を、闇属性アリユから光属性ヘリスに変更。
 使える魔法も精霊の属性のものとなり、光系統の魔法を一時的に使用可能となる。


「──“光話アーギュ”」


 聖人的であり、悪辣的でもある──強制意思伝達魔法とも呼ぶべきこの魔法。
 放つ光が浴びた者に浸透すると、心を閉ざさない限り強制的にその意思が伝わる。

 言語理解スキルも不要、互いに伝える思念さえあればそれで充分。
 悪用すればそれこそ、洗脳にだって使えるのがこの魔法なのだ。

 今回の場合、そもそも物理的な発声で起こすことができない相手なので使う。
 大声を出せば、それこそ敏感に警戒している竜種たちに気づかれる。


「『あー、あー……テステス、テステス』」

『…………むぅぅ~?』

「『こんにちは、僕は人族のノゾムです。貴方とお話がしたいです』」

『人族ぅぅ~?』


 なので小声でも、そこに思念さえ乗せれば意図を伝えられる魔法を使ったが……うん、とりあえず会話自体はできている。

 間延びした感じではあるが、眠っていた意識が徐々に起きつつあった。
 それに合わせて、ゴゴゴゴッと揺れ動く地面……いや、『蓬山真竜』の全身。


『ふわぁぁ~。良く寝たぁぁ~』

「『お、おはようございます?』」

『う、うぅぅ~ん、おはよぉぉ~。えっとぉぉ~、何の話だったかなぁぁ~~?』

「『お、お話があります。実は、僕は竜と契約をしに来ました!』」


 胎動……もとい体動は止まらず、むしろ揺れは激しくなる一方。
 俺は縛りプレイであることを隠し、契約でしか強さを得られないことを説明した。

 その間も揺れは収まらない。
 俺の発言で止まるとか、そういう話ではないのだ……人が寝起きに体を動かすように、『蓬山真竜』もルーティンをしているだけ。


『うぅぅ~んとぉぉ~、つまりぃぃ~。竜と契約したかったのぉぉ~?』

「『はい! だからこのようにして、貴方様の許可を貰いに来ました!』」

『そっかぁぁ~。でもぉぉ~、まだ何かあるよねぇぇ~?』

「はい……実は──」


 そして、俺は自分がどの竜種と契約をすればいいのか迷っていることを打ち明けた。
 何というか『蓬山真竜』、マイペースなだけでちゃんと会話が成立しているのだ。

 なので、勘ではあるが何とかしてもらえると思う。
 ……完全に人(竜)任せなんだが、ここはプロに任せておくのが一番だ。


『うぅぅ~ん、じゃあぁぁ~……』

「『じゃ、じゃあ?』」

『こうしようかぁぁ~、それぇぇ~!』

「『! こ、これは……』」


 おそらく、迷宮の魔物召喚機能に似たナニカを行使したのだろう。
 突如として、俺の目の前に卵がぽつんと置かれていた。

 中身は間違いなく、竜種だ。
 親は居ないから怒られる心配は無いし、そもそも親というか創造主公認なのだから問題ないのだろう。


『どの子になるかはぁぁ~、ボクも分からないよぉぉ~。でもぉぉ~、きっと君を助けてくれるよぉぉ~』

「『あ、ありがとうございます!』」

『気にしないでぇぇ~。ボクがやりたかったからぁぁ~、やったことだからねぇ~~』

「『それでもです。貴方には、これをする意味も必要も無かったのですから』」


 完全にこれは善意だ。
 俺の打算ばかりの偽善ではなく、正真正銘の真心……なんとも温かみを覚える。


『あっ、でもぉぉ~、いつか顔を見せてほしいかなぁぁ~』

「『その程度でしたら、必ず』」

『そっかぁぁ~。ふわぁぁ~~~、じゃあボクは寝るねぇぇ~、おやすみぃ~~~』

「『はい、おやすみなさい』」


 胎動がまた激しくなり……やがて収まる。
 先ほどまで意識を覚醒させていた『蓬山真竜』は、再び眠りに着いた。

 残されたのは竜の卵。
 何が生まれるかは分からない……が、少なくとも普通の存在じゃないんだろうな。


「これからよろしくね」

『──』


 それでも、今回交わした約束はいずれ必ず果たす気でいる。
 たとえどれだけ時が経とうと、それこそイベントが終わろうと──絶対にな。


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