上 下
2,168 / 2,518
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント中篇 その07

しおりを挟む


 幸いにして、目的地に着くまで俺の邪魔をする者は現れなかった。
 アリユを憑依させて影魔法を行使、影に潜み辿り着いたのは──横たわる竜の頭。


「うーん、やっぱりな……道理でここには、悪意なんて何にも無かったんだ」


 この迷宮は迷宮であって迷宮ではない。
 元【迷宮主】であり、レンから迷宮に関する情報を学んでいる俺なので、迷宮都市に存在する他の迷宮との違いに気づいていた。

 迷宮の発生方法は大きく分けて二つ。
 迷宮核や魔法を用いて人造的に構築する、あるいは周囲の膨大な魔力が形を成して核となる要素を取り込み迷宮とする方法だ。

 これは前に一度語ったので詳細は省くが、この迷宮の場合はその両方が混ざっている。
 たしかに迷宮核は存在し、他の迷宮同様に管理された魔物の発生が行われていた。

 ──がしかし、迷宮そのものがここそのものである『蓬山真竜ハイエンド・マウンテンドラゴン』を召喚したわけではないのだ。

 迷宮が呼んだのではなく、『蓬山真竜』が迷宮核を取り込んだとも言える。
 つまり、もともと世界に居た存在を、迷宮が核としてこの地の楔としたのだ。

 その結果、迷宮は擬似的に『蓬山真竜』を主として登録した形で運用された。
 故に現れる魔物は竜に限定され、主自身は何もせずとも一生活動することができる。


「人の煮詰めた悪意よりも、竜の威厳の方が強かったわけだね。さて……少しお話をしたいかな──“精霊憑依エレメンタルポセッション:ヘリス”」


 憑依してもらう精霊を、闇属性アリユから光属性ヘリスに変更。
 使える魔法も精霊の属性のものとなり、光系統の魔法を一時的に使用可能となる。


「──“光話アーギュ”」


 聖人的であり、悪辣的でもある──強制意思伝達魔法とも呼ぶべきこの魔法。
 放つ光が浴びた者に浸透すると、心を閉ざさない限り強制的にその意思が伝わる。

 言語理解スキルも不要、互いに伝える思念さえあればそれで充分。
 悪用すればそれこそ、洗脳にだって使えるのがこの魔法なのだ。

 今回の場合、そもそも物理的な発声で起こすことができない相手なので使う。
 大声を出せば、それこそ敏感に警戒している竜種たちに気づかれる。


「『あー、あー……テステス、テステス』」

『…………むぅぅ~?』

「『こんにちは、僕は人族のノゾムです。貴方とお話がしたいです』」

『人族ぅぅ~?』


 なので小声でも、そこに思念さえ乗せれば意図を伝えられる魔法を使ったが……うん、とりあえず会話自体はできている。

 間延びした感じではあるが、眠っていた意識が徐々に起きつつあった。
 それに合わせて、ゴゴゴゴッと揺れ動く地面……いや、『蓬山真竜』の全身。


『ふわぁぁ~。良く寝たぁぁ~』

「『お、おはようございます?』」

『う、うぅぅ~ん、おはよぉぉ~。えっとぉぉ~、何の話だったかなぁぁ~~?』

「『お、お話があります。実は、僕は竜と契約をしに来ました!』」


 胎動……もとい体動は止まらず、むしろ揺れは激しくなる一方。
 俺は縛りプレイであることを隠し、契約でしか強さを得られないことを説明した。

 その間も揺れは収まらない。
 俺の発言で止まるとか、そういう話ではないのだ……人が寝起きに体を動かすように、『蓬山真竜』もルーティンをしているだけ。


『うぅぅ~んとぉぉ~、つまりぃぃ~。竜と契約したかったのぉぉ~?』

「『はい! だからこのようにして、貴方様の許可を貰いに来ました!』」

『そっかぁぁ~。でもぉぉ~、まだ何かあるよねぇぇ~?』

「はい……実は──」


 そして、俺は自分がどの竜種と契約をすればいいのか迷っていることを打ち明けた。
 何というか『蓬山真竜』、マイペースなだけでちゃんと会話が成立しているのだ。

 なので、勘ではあるが何とかしてもらえると思う。
 ……完全に人(竜)任せなんだが、ここはプロに任せておくのが一番だ。


『うぅぅ~ん、じゃあぁぁ~……』

「『じゃ、じゃあ?』」

『こうしようかぁぁ~、それぇぇ~!』

「『! こ、これは……』」


 おそらく、迷宮の魔物召喚機能に似たナニカを行使したのだろう。
 突如として、俺の目の前に卵がぽつんと置かれていた。

 中身は間違いなく、竜種だ。
 親は居ないから怒られる心配は無いし、そもそも親というか創造主公認なのだから問題ないのだろう。


『どの子になるかはぁぁ~、ボクも分からないよぉぉ~。でもぉぉ~、きっと君を助けてくれるよぉぉ~』

「『あ、ありがとうございます!』」

『気にしないでぇぇ~。ボクがやりたかったからぁぁ~、やったことだからねぇ~~』

「『それでもです。貴方には、これをする意味も必要も無かったのですから』」


 完全にこれは善意だ。
 俺の打算ばかりの偽善ではなく、正真正銘の真心……なんとも温かみを覚える。


『あっ、でもぉぉ~、いつか顔を見せてほしいかなぁぁ~』

「『その程度でしたら、必ず』」

『そっかぁぁ~。ふわぁぁ~~~、じゃあボクは寝るねぇぇ~、おやすみぃ~~~』

「『はい、おやすみなさい』」


 胎動がまた激しくなり……やがて収まる。
 先ほどまで意識を覚醒させていた『蓬山真竜』は、再び眠りに着いた。

 残されたのは竜の卵。
 何が生まれるかは分からない……が、少なくとも普通の存在じゃないんだろうな。


「これからよろしくね」

『──』


 それでも、今回交わした約束はいずれ必ず果たす気でいる。
 たとえどれだけ時が経とうと、それこそイベントが終わろうと──絶対にな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...