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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント中篇 その06
しおりを挟む──竜との契約。
従魔システムと類似したそれは、人と竜が共に生きることを選んだ証とも言えよう。
通常の従魔契約と違うこと、それは竜側に拒否権が存在していること。
正確には従魔契約にもあるのだが、高度な知性が必要なためあまり成功しない。
それらを有するのは大半が魔獣、あるいは魔者個体である。
だが竜種は真っ当に成長していれば、種族単位で高度な知性を獲得可能。
故に契約の難度も高く、ただ魔物を従えるよりもハードルの高いものとなっている。
「だから人族……というか普人族は卵の間から育てて、無防備な内に契約を交わしたりするんだけど。一から育てたから強いってわけでもないんだよね」
天然ものと養殖もの、ぐらいの違いだ。
量産するのであれば養殖でも構わないだろうが、質を問うのであればやはり天然ものをという考えの者も多いはず。
それと同じで、竜とは人の存在が色濃く出ている場所よりも、同族と共に居る方が強くなる……まあそりゃあ、高い知性を以ってそれらの継承をできるからな。
その点、この迷宮にはいかにも長生きしていそうな竜が居る。
迷宮産の存在でも、契約を交わせば外へ連れ出すことも可能だ。
「魔本を使っているから、キャパ枠に関しては気にしなくていいもんね。まあ、もともとディーに占有されているようなものだから、どう足掻いても同時運用はできないけどさ」
これまで利点を語り続けた竜族のデメリットの一つ、それは契約時のキャパ枠負荷。
種族単位で強大な竜種は、それが他の魔物に比べてかなり大きい。
枠は種族によって差があるし、就いている職業や保有するスキルで違いも生まれる。
そのため、組み合わせによっては、足掻きに足掻いて一体のみという者も居るのだ。
まさに今の俺がそう。
偽装している普人は枠も普通、職業には就けないため拡張できず、スキルで増やすこともできていない。
実際の所、キャパ枠で精霊と契約しようとしてたらあまり多くの契約は出来なかった。
あくまで契約を魔本に負担させることで、追加のキャパ枠を確保しているようなもの。
──そして何より、ディーを普段使いしている以上、俺の枠は使用不可能なのだ。
それこそがユニーク種であったディーを召喚するため、支払った対価。
呼び続ける限り、俺はキャパ枠を常に空としておく必要があるのだ。
「まあ、召喚してそれを維持しておくのにも魔力が必要なんだけどね。だからこそ、僕もあまり多くの竜種との契約は望まないかな」
精霊を召喚しておくよりも、基本的に竜種の召喚の方が負担は大きい。
適性がある、そういった能力があるといった要素を、俺はいっさい有していないしな。
だがそれでも、『契約術師』縛りなのでやれることはやってみる。
それが今俺がやっていること──影に潜んで行う、竜の観察だった。
「うーん、でもなんだか違う気がする……先に契約したのは微精霊なんだから、僕も幼竜の方がいいのかな?」
天然と養殖のたとえを出したばっかりだけども、うちには竜の系譜に属する者たちがかなりいるわけで……ちゃんと竜魔法も教えておけば、それなりに役立つはず。
そんな打算もあって、これまでの理屈はすべて却下。
改めて、竜の中からイイ感じの幼竜が居ないかを探すのだが……途中で気づく。
「あっ、普通赤ん坊を外で自由にさせるわけないもんね。となると、卵がある場所に行って交渉あるいは強奪なんだけど……後者はつまらないから無しだよね」
しかしまあ、ファンタジーにありがちな展開みたいだ。
竜の卵を盗み取り、それを育てて使役……使役者が善人か悪人かで結末も決まるヤツ。
だがそんな陳腐なことをやっても、眷属たちは喜んでくれないだろう。
なので平和的に交渉……なのだけども、こちらはこちらで問題が。
「誰に交渉するか、だよね。見た限り、多種多様な竜が居るみたいだし……うーん、頭がグルグルしてきたよ」
文字通り火力が高い火竜、水中戦が得意な水竜、空中戦が得意な風竜、大半は飛べないが耐久性がピカ一な土竜。
大きく分けて四種類の竜種が居り、そこに光竜や闇竜などが希少種として存在する。
また、氷竜や雷竜、無竜なども居るが……この辺りは置いておく。
その分類は姿形だけでなく、秘めた魔力属性の適性にも当て嵌まる。
火竜は火属性が得意だし、光竜や闇竜が得意なのは光や闇の属性だ。
「僕自身は、別にどの属性の竜でも構わないけどねぇ。空はエアルの力で飛べるし、相乗りして飛びたい相手も居ない。大まかな四系統に属していなくても、そもそも属性持ちの竜種じゃなくてもいいのか……」
呟きながら、自分の意見を纏めていく。
大抵のことは自分で何とかできるし、精霊たちのお陰で基礎属性の魔法は無属性以外ならどうにかなる。
ならば、俺にとって必要な竜種とは……純粋に契約して楽しくなりそうな相棒。
そう考えると、決めておいても意味が無いのでは、と今さらなことを思ってしまう。
「うーん、こうなったらいっそのこと、誰かに決めてもらった方が…………。そうだ、それで行こう!」
迷走の果てに辿り着いたおかしな答え。
だが今の俺にとって、それは真理にも思える……そんなわけで、俺は質問に答えてくれるであろう誰かの下へ向かうのだった。
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