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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント中篇 その05
しおりを挟むギルドで処理を行い、俺は晴れてBランクの探索者となった。
特に目立ったイベントは無い……すでに祈念者たちが何度も経験済みだからだ。
やっかみも抱かれることなく、子供だからと舐められることも無い。
……すでに見た目が子供で、無双した奴が居たのだと思われる。
「ノゾム君はソロでBランクになったので、いくつかのS級の迷宮にも行けるようになりました」
「? S級なのに、AランクやSランクじゃなくても入れるの?」
「S級の中には、入る人数やレベルの合計で難易度が上がる場所があるのよ。でも、一人の場合はそういった制限に抵触しない。だから、比較的ソロでも活動できる迷宮は入場が許可されます」
「…………ふーん。その方が、ギルドも嬉しいのかな?」
その返答は──笑み。
かなりいい素材が取れるのだろう。
だが、パーティーでは難しいし、Sランクのソロはもっと実入りのいい場所へ行く。
ならば実力はあるが高難易度の経験が浅いBランクの探索者に、そういった素材を回収してきてもらう……それがギルド側の考えなのだろう。
まあ、急いてアイテムを集めているわけでは無いし、S級迷宮を攻略できるうえ、より難易度の高い場所へ挑む資格まで貰える、というサービスはこちらとしても助かる。
「じゃあ、いろんなアイテムが手に入るA級の迷宮を教えてください」
「……S級ではなく?」
「うん、A級」
──がしかし、なんとなくいきなりSというのもアレだった。
これまでの俺は何でもイベントをスキップして来たし、普通の経験も積んでおきたい。
あと、これは全然……全ッ然まったく、これっぽっちも気にしていないのだが。
なんとなく、言われるがままにS級迷宮に行くよりかはA級に行きたい気分です。
「お姉さん、正式なAランク探索者になればどこでも好きなS級迷宮に入れるの?」
「いいえ、それにはSランクの資格が必要となります。SランクはA級迷宮を三つ、そしてS級迷宮をこちらで指定した迷宮を含め、計二つ攻略してもらう必要があります」
「ということは、やっぱりA級を攻略する必要があるんだ……分かりました、じゃあさっき言った感じのA級迷宮をお願いします!」
「…………分かりました」
とはいえ、これはれっきとしたギブ&テイク──机の上にたんまりとお金を置いて、受付嬢から迷宮の情報を聞き出すのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
A級迷宮 竜横山脈
竜王ではなく竜横。
何のジョークだと思った俺だが、迷宮に入ればその意味もすぐに分かった。
「へぇ……こりゃあ凄い──『蓬山真竜』かぁ、これでハイエンドな竜を生で見たのは二回目だよ」
超巨大な山脈、フィールドの大半を占めるそれは大きな竜の体そのもの。
それこそが竜の横たわる山脈、即ち竜横山脈の正体だった。
当然、竜の背には膨大な数の竜が生息しており、そこに生える植物も竜に由来するレアな植物ばかり……だが彼らの目を掻い潜っての採取が難しく、A級と認定されている。
「それでもS級じゃないんだよね……一番大きな竜と戦わないだけ、マシって認識されているのかな?」
情報収集のついでにS級迷宮の話を聞いたが、どうやらいろんな意味で悪辣らしい。
戦闘、罠細工、禁止フィールド……分野は違えど、苦労すること間違いなしだ。
「ふーむ、それじゃあ始めようかな。ここからは、やり方を変えていこう。魔本開放──“宝物落下”」
支援系魔法の中でも、かなり希少なドロップ率向上の魔法。
だがドロップと言いながら、ちゃんと採取などにも効果が効いてくれる。
大した運も、極めるほどの採取スキルも無いので、程よく運が向く程度の魔法を掛けておいた……いちおう激強魔法なので、使い手が居るかも不明だけども。
「あとは──“精霊憑依:アリユ”」
毎度お馴染み『夢現の書:精霊の頁』から闇の精霊と契約したページを見つけ出し、そこに手を触れながら精霊魔法を発動。
そのまま体を通して、アリユの力が発現。
魔法が持続している間、俺は一時的に闇属性に対する精霊と同等の適性を得られる。
「闇魔法、じゃなくて闇属性だもんね。できることはやらないと──“影潜”」
闇属性の中でも、自分をも呑み込む暗い魔力がもたらす影属性。
他の闇系統属性と違って、周りと同化することを得意としている。
この“影潜”は地中の影と同化し、そこを自由に移動できるようにする魔法。
注意するのは息継ぎ、そりゃあほぼ密閉された地中に空気なんて存在しないからな。
呼吸に関してはあえて“影潜”を完全にはせず、意図的に影の空間と地上を繋いでおくことで酸素を確保している……その分バレる可能性もあるが、まあ死にたくないしな。
「うーん、奥深くにはいけないな。魔力濃度が高いから、ごリ押しじゃ通用しないってことかな? まあでも、今回はちゃんと攻略しないと──契約相手も探さないといけないからね」
竜との契約、それもまた『契約術師』の縛り内で許容された戦力増強方法。
それを可能とする術も、すでにこの手にある……目指せ竜騎士、みたいな感じだな。
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