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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント中篇 その04
しおりを挟む迷宮へ向かう目的は二つ。
一つは攻略し、更なる難易度の迷宮へ潜る資格を得るため。
そしてもう一つは──契約。
相対する迷宮守護者、暗黒牛鬼人。
鑑定スキルで調べたところ、位階が9以上はありそうな個体だった。
「まあ、関係ないけどね。今の僕たちには、お星さまが付いているわけだし」
天井に鏤められた銀色の星々。
魔本『献上の星銀』によって構築されたそれらは、今なお牛鬼人と戦う精霊たちに強力なバフを施している。
俺の詳細な指示が無くとも、彼らは好きなように戦ってくれていた。
そしてその光景は、間違いなくこの場に居るであろう精霊たちの興味を集めている。
「エアル──“精霊憑依”!」
『!』
風の契約精霊の名を呼び、唱える魔法は対象の精霊を纏うもの。
その精霊の属性魔法はもちろん、一時的に攻撃系の精霊魔法も単独で行使できる。
精霊魔法の内、攻撃系の魔法は通常の属性魔法よりもエネルギー体への影響が強い。
本来物理攻撃を無効化する霊体でも、土属性の精霊魔法なら効くからな。
今回はエアルを憑依させたので、今の俺は風魔法と精霊魔法を使えるようになった。
自分自身で使うより、属性の適性値が向上するので──魔法も一気に使える。
「──“空中歩”、“装風”、“追風”」
空歩スキルと同じことができる魔法、そして風の力で行う強化支援魔法を発動。
精霊たちも自由に空を舞うので、俺もまた宙を足場に牛鬼人を翻弄していく。
咆哮などは風が遮り、持っている斧の振り回しはより向上した速度で回避する。
こちらの攻撃は追い風を受けて、威力も飛距離も上がった状態で当てていった。
本来は、ソロで挑むのなど烏滸がましいほどに強い個体。
しかしどんなに強大な相手でも、ダメージが通るならばいずれは力尽きる。
じわじわと、ゆっくりと……やればまあ、いずれ倒せるだろうけども。
そんなやり方では、精霊たちも飽きが生じてしまう。
「だから──“風柱”」
『──ッ!?』
「みんな、いっせい攻撃!」
『!!』
膨大な量の風が、とんでもない重量であろう牛鬼人を強引に宙へ飛ばす。
足場のない所で思うように武器を振り回せない相手に、容赦なく魔法を叩き込む。
一定値まで生命力が低下したのか、途中で毛が逆立ったり禍々しいオーラが生まれたりもした……が、すべてが無駄。
精霊、もしくは属性魔法師にのみシステム的開示がされる強力な魔法の数々。
継続ダメージの“○柱”、広範囲に炸裂する“○爆弾”、一撃を叩き込む“○撃”。
それらを精霊たちと共に順番で放っていけば、地上に落ちるないまま浮き続けた。
当然、その間も生命力はガンガン減っていくわけで……最後には魔石だけが残される。
「やったー、攻略完了だよ!」
『!!』
「みんなも、そして見ていてくれたみんなもありがとう!」
『♪』
気が付けば“精霊揺籃”の中には、大量の精霊たちが集まっていた。
一部、俺への嫌悪感を示す理知的な精霊も居たが……微精霊の大半はそうではない。
畏怖嫌厭の邪縛とはいえ、毎度毎度距離を取られるのは心にクるものだ。
それでも笑みを浮かべ、若干魔力を放出しながら彼らに話しかける。
「ここに来たのは、僕と契約をしてほしいからです。複数の精霊たちと契約している身ではありますが、それでも届かない……守りたいモノがあるんです」
なおこの際、交渉系のスキルはいっさい使わない。
直感が鋭い精霊たちは、そんなものよりも自身の感性──ノリで動く。
その判断に介入するスキルの補正を、逆に嫌がる場合もあるからだ(byユラル)。
なので自分には支払う対価がある、それを示す魔力以外の小細工はいっさいしない。
「遊びたい、外を見たい、上位の精霊になりたい……どんな願いでも構わない。僕に力を貸してくれるなら、それに僕も応えます」
『!』
「だから、僕と契約してほしい!」
そうして向こうの反応を待ってみると、一体だけ俺の下にやって来てくれる。
周りよりも小さい、内包する魔力量もやや低めの個体……それでも来てくれた。
なので俺もそれに応えて、『夢現の書』を取り出す。
ページを捲り[精霊の頁]を開いてから、再度声を掛ける。
「ありがとう、契約してくれるんだね?」
『……!』
「じゃあ、君は──『アリユ』だよ! これからよろしくね、アリユ!」
『……♪』
名に応じ、闇の微精霊──アリユは魔本に触れて一度吸い込まれる。
そして、俺が召喚すると嬉しそうに体を震わせた。
これで属性精霊との契約は終了。
──がしかし、何度も語った通り俺の縛りは契約術師。
まだ終わりではない。
力を得るためならば、ある程度のリスクを背負おう……より深い迷宮には、相応の力も眠っている。
「これでBランクに昇級するための準備はできた。A級迷宮、そしてS級迷宮にはまだまだいろんなものが眠っている……うん、個々に入り浸りになるのも仕方ないよね」
おそらく、過去に願いの力を使って生み出されたであろうこの迷宮。
故にもっとも深い場所には、相応のモノがあるはずだ。
──だからこそ、ラスボス(笑)として俺はそこを目指す。
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