上 下
2,165 / 2,518
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント中篇 その04

しおりを挟む


 迷宮へ向かう目的は二つ。
 一つは攻略し、更なる難易度の迷宮へ潜る資格を得るため。
 そしてもう一つは──契約。

 相対する迷宮守護者、暗黒牛鬼人ダークネスミノタウロス
 鑑定スキルで調べたところ、位階が9以上はありそうな個体だった。


「まあ、関係ないけどね。今の僕たちには、お星さまが付いているわけだし」


 天井に鏤められた銀色の星々。
 魔本『献上の星銀』によって構築されたそれらは、今なお牛鬼人と戦う精霊たちに強力なバフを施している。

 俺の詳細な指示が無くとも、彼らは好きなように戦ってくれていた。
 そしてその光景は、間違いなくこの場に居るであろう精霊たちの興味を集めている。


「エアル──“精霊憑依ポセッションエレメント”!」

『!』


 風の契約精霊の名を呼び、唱える魔法は対象の精霊を纏うもの。
 その精霊の属性魔法はもちろん、一時的に攻撃系の精霊魔法も単独で行使できる。

 精霊魔法の内、攻撃系の魔法は通常の属性魔法よりもエネルギー体への影響が強い。
 本来物理攻撃を無効化する霊体でも、土属性の精霊魔法なら効くからな。

 今回はエアルを憑依させたので、今の俺は風魔法と精霊魔法を使えるようになった。
 自分自身で使うより、属性の適性値が向上するので──魔法も一気に使える。


「──“空中歩エアステップ”、“装風ウィンドアーム”、“追風テイルウィンド”」


 空歩スキルと同じことができる魔法、そして風の力で行う強化支援魔法を発動。
 精霊たちも自由に空を舞うので、俺もまた宙を足場に牛鬼人を翻弄していく。

 咆哮などは風が遮り、持っている斧の振り回しはより向上した速度で回避する。
 こちらの攻撃は追い風を受けて、威力も飛距離も上がった状態で当てていった。

 本来は、ソロで挑むのなど烏滸がましいほどに強い個体。
 しかしどんなに強大な相手でも、ダメージが通るならばいずれは力尽きる。

 じわじわと、ゆっくりと……やればまあ、いずれ倒せるだろうけども。
 そんなやり方では、精霊たちも飽きが生じてしまう。


「だから──“風柱ウィンドピラー”」

『──ッ!?』

「みんな、いっせい攻撃!」

『!!』


 膨大な量の風が、とんでもない重量であろう牛鬼人を強引に宙へ飛ばす。
 足場のない所で思うように武器を振り回せない相手に、容赦なく魔法を叩き込む。

 一定値まで生命力が低下したのか、途中で毛が逆立ったり禍々しいオーラが生まれたりもした……が、すべてが無駄。

 精霊、もしくは属性魔法師にのみシステム的開示がされる強力な魔法の数々。
 継続ダメージの“○柱ピラー”、広範囲に炸裂する“○爆弾ボム”、一撃を叩き込む“○撃ブロウ”。

 それらを精霊たちと共に順番で放っていけば、地上に落ちるないまま浮き続けた。
 当然、その間も生命力はガンガン減っていくわけで……最後には魔石だけが残される。


「やったー、攻略完了だよ!」

『!!』

「みんなも、そして見ていてくれたみんなもありがとう!」

『♪』


 気が付けば“精霊揺籃エレメントクレードル”の中には、大量の精霊たちが集まっていた。
 一部、俺への嫌悪感を示す理知的な精霊も居たが……微精霊の大半はそうではない。

 畏怖嫌厭の邪縛とはいえ、毎度毎度距離を取られるのは心にクるものだ。
 それでも笑みを浮かべ、若干魔力を放出しながら彼らに話しかける。


「ここに来たのは、僕と契約をしてほしいからです。複数の精霊たちと契約している身ではありますが、それでも届かない……守りたいモノがあるんです」


 なおこの際、交渉系のスキルはいっさい使わない。
 直感が鋭い精霊たちは、そんなものよりも自身の感性──ノリで動く。

 その判断に介入するスキルの補正を、逆に嫌がる場合もあるからだ(byユラル)。
 なので自分には支払う対価がある、それを示す魔力以外の小細工はいっさいしない。


「遊びたい、外を見たい、上位の精霊になりたい……どんな願いでも構わない。僕に力を貸してくれるなら、それに僕も応えます」

『!』

「だから、僕と契約してほしい!」


 そうして向こうの反応を待ってみると、一体だけ俺の下にやって来てくれる。
 周りよりも小さい、内包する魔力量もやや低めの個体……それでも来てくれた。

 なので俺もそれに応えて、『夢現の書』を取り出す。
 ページを捲り[精霊の頁]を開いてから、再度声を掛ける。


「ありがとう、契約してくれるんだね?」

『……!』

「じゃあ、君は──『アリユ』だよ! これからよろしくね、アリユ!」

『……♪』


 名に応じ、闇の微精霊──アリユは魔本に触れて一度吸い込まれる。
 そして、俺が召喚すると嬉しそうに体を震わせた。

 これで属性精霊との契約は終了。
 ──がしかし、何度も語った通り俺の縛りは契約術師。

 まだ終わりではない。
 力を得るためならば、ある程度のリスクを背負おう……より深い迷宮には、相応の力も眠っている。


「これでBランクに昇級するための準備はできた。A級迷宮、そしてS級迷宮にはまだまだいろんなものが眠っている……うん、個々に入り浸りになるのも仕方ないよね」


 おそらく、過去に願いの力を使って生み出されたであろうこの迷宮。
 故にもっとも深い場所には、相応のモノがあるはずだ。

 ──だからこそ、ラスボス(笑)として俺はそこを目指す。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...