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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント中篇 その03

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 B級迷宮 闇愚の冥牢


 お察しの通り、真っ暗闇の迷宮に来たのは闇精霊を探してだ。
 迷路のような構造をしたこの迷宮は、不意打ちなどの悪戯が頻繁に起きるらしい。

 罠も魔物たちが勝手に増やし、構造もころころ変わるため地図も使えない。
 光を燈せば魔物たちに警戒され、命の灯ごと消されるとのこと。

 そういった情報はすべて、迷宮へ行く前に受付嬢から買っている。
 簡単な情報ばかりだが、割と重要なことも言ってくれるので助かっていた。


「それじゃあ、今日も頑張ろうか」

『!!』


 精霊たちを引き連れて、そんな暗闇の中を進んでいく。
 彼ら自身が仄かに光を放っており、周囲をある程度確認できる。

 それでも遠くを見ることはできない。
 まるで一寸先は闇、という言葉を迷宮が強要しているかのような感じだ……フィールド特性みたいなものだろう。


「闇に紛れているから、探知や感知も上手くいかないねぇ。ソムス、お願いできる?」

『……』


 だがそれも、俺の感性ではという話。
 より魔力に精通した彼らであれば、どうにかこの状況を打破してくれるかもしれない。

 ということで、土の精霊こと『ソムス』に周囲の索敵を頼む。
 地面を通じて周囲を調べる方法……人族の使う魔法、土魔法の“探地ソイルソナー”のやり方だ。

 精霊なので人よりも上手く、そして敏感に魔物たちの行動を把握してくれる。
 やがてソムスがピクンッと反応する……どうやら、待ち伏せされているらしい。


「なら、エアル。ここを静かにね」

『!』


 風魔法“静寂サイレント”……に似たナニカ。
 風の精霊たるエアルが直接周囲の風を操ることで、外部に俺の声が漏れないようにしてくれている。

 自分で魔法を使えない以上、精霊たちに代わりに使ってもらうしかない。
 まあ、縛りをしていないときに俺の使える魔法はほとんど開示して教えているからな。

 それを擬似的に再現してくれている。
 お陰で普通の精霊よりも、それこそ中位精霊よりかは魔力さえ足りていれば、やれることは多くなっているはずだ。


「じゃあ…………ヘリス、やる?」

『♪』

「うん、分かった。ヘリス、ここから少し離れた場所を明るくして。ただし、個々の明るさはそのままにした状態でね」

『!』


 何かをやりたそうな新たな契約精霊に、お仕事を頼んでみた。
 遠隔での光源生成、やや難しいかもと思ったが──それはすぐに目に見えて発生。

 当然、この迷宮の法則は生み出された光を許さずに攻撃を開始。
 集まってきた大量の魔物に対し──こちらも精霊たちが魔法を放つ。

 お陰で光源に群がって来ていた魔物たちは殲滅され、ドロップアイテムが散らばる。


「よし、みんな凄いよ!」

『!!』

「だけどみんな、油断しちゃダメだよ。たとえば……魔本開読オープン──“魔力弾マナブレッド”」


 油断していたのだろう。
 俺でも知覚できる領域内、光源に向かって俺たちの側から向かう魔物が居た。

 彼らは先んじて俺や精霊に気づき、潜みながら攻撃を仕掛けてようとしていたのだ。
 なので魔力を弾丸にして射出し、その個体の目論見を打破する。

 その後は言わずもがな。
 精霊たちが即座に対応してくれるので、末路は他の魔物たちと同じである。


「というわけで、周りに気を付けながら頑張ろうね」

『!!』

「うん、良い返事。それじゃあ、ボスの所まで行ってみよう!」


 すでに“精霊探査サーチエレメント”を使い、闇精霊が居そうな場所は探ってある。
 ……今回もまた、やることを終えてからでないと契約は難しいみたいだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 目的地は分かれど、そこに至るまでの道が入り組んでいる。
 闇精霊、そして階層主に出会うためには迷路の攻略が必須だ。


「アクス、アイア、エアル。それじゃあ、お願い」

『『『!!』』』


 俺の魔力をとことん使ってもらい、彼らに水と風を迷宮中に生みだしてもらう。
 彼らはそれらを知覚し、その感覚を俺が反映──脳内マップを埋めていく。

 排水機構などが無いことは確認済み。
 ただただ魔力が持つかどうか、それだけがデメリットだが、それは魔本で“魔力自動回復・高”などを使って補っている。


 一つひとつ、行き止まりを虱潰しにしていけば、やがて正しい道が浮かび上がる。
 精霊たちに身体強化のバフを掛けてもらってから、導き出したゴールへと向かう。


「さぁ、みんなでやろう! 好きなように自由で、そして楽しい戦いを!」

『!!』

「僕もみんなをサポートするから。魔本開読──“献上の星銀”!」


 童話の魔本を開き、残された魔力を注ぐ。
 何もない真っ暗闇な天井に、ポツポツと光り輝き始める銀色の星々。

 待ち受ける階層主──真っ黒な牛鬼人ミノタウロスもその変化に若干戸惑っている。
 そりゃあ、何のためにやっているのか理解できないだろうからな。

 しかし、効果は明確。
 星の輝きがこの場にある限り、精霊たちには無尽蔵のエネルギーの供給が成される。

 かつて少女がその身を捧げたように、俺も魔力を捧げて滅私の奉公を行う。
 それによって成り立つ目的の達成、そのために必要な要素を星々が補ってくれる。


「っと、これもね──“精霊揺籃エレメントクレードル”」


 この場に集う闇の精霊たちがまったりと観戦できるよう、揺り籠を配置しておく。
 それで準備は終了、あとは牛鬼人の相手をしながらアピールをするだけだ。


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