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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント前篇 その20

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 養静の花園、その特徴は荒事を企てると強制的に排除されること。
 妖精の住まう地でありながら、養静──転じて静養の地でもあるのがこの迷宮だ。

 そのため、階層主以外の場所で戦闘行為をすればアウト。
 そのルールを理解していなければ、ほぼ確実に踏破できない迷宮となっている。


『またねー!』

「ありがとう~! ふぅ……大きい樹だね」


 妖精たちにお菓子を渡して案内させ、複雑な道筋を越えて辿り着いた場所。
 そこには巨大な大樹が一本生えており、膨大なエネルギーを秘めている。

 鑑定スキルで視たところ……あっ、レベルが低すぎて分からないや。
 まあ、妖精たちの住まう森のボスなのだ、おそらくは──


「“魔物言語”起動──『初めまして』!」

『……ほぉ、礼儀正しい子みたいだね。私は『妖賢樹フェアリートレント』、この迷宮の守護者だよ』


 鑑定で分からなかった情報が、意図せず開示された。
 お陰でスキルレベルが上がったことに喜びつつも、話を本題に進める。


「『トレントさん。この迷宮を攻略したという証は、どうしたら手に入りますか?』」

『そうだね。では、少しばかりこの老木の些細な願い事を聞いてくれるかな? その出来次第では、私から取れるドロップアイテムをあげなくもないよ?』


 迷宮を踏破ではなく攻略するだけならば、決して階層主を倒さずとも良い場合もある。
 ギミック式の迷宮、うちの迷宮にもそういう仕掛けがあるので成立は可能だ。


「『分かりました。では、何をすれば?』」

『君は風の子と契約をしているみたいだね。では、頼んだ場所の枝を切ってくれるかな』

「『はい』!」


 剪定、というヤツだろう。
 しかも普通に行うのではなく、契約したことが見抜かれている風精霊を用いてだ。

 他の契約存在に何も言ってこない辺り、把握しているのは迷宮内で起きたことだけ。
 そうじゃなければ、ユラルの威光にビビって即座に降伏とかをしていたはずだし。

 枝の刈り込みを始めるため、言われた通りに精霊を召喚する準備を整える。
 必要なのは契約に用いた『夢現の書』、その[精霊の頁]から対象を選ぶ。


「来て──『エアル』!」

『!』


 召喚陣が魔本から転写され、中から風の微精霊が現れる。
 ……そう、俺の畏怖嫌厭を無視あるいは気にしないでいられる微精霊なのだ。

 召喚に応じてくれたということで、とりあえず風属性を抽出した魔力を渡しておく。
 そして、機嫌を良くさせてから、改めて俺の頼みを伝える。


「ねぇエアル。あの樹のお方がね、枝をエアルに切ってほしいって言ってるんだ」

『?』

「僕から魔力は好きなだけ持っていっていいから、やってみてくれないかな?」

『!』


 俺の言葉を理解したのか、まずは妖賢樹の方へ飛んでいく。
 そちらで何やらやり取りをすると、俺から魔力を持っていって魔法を発動しだす。

 風属性の刃が枝に当たり、次々と地面に落ちていった。
 本来ならありえない、ボスの枝がそんなにやわでは戦闘も快適だろう。

 だが今回、本人ならぬ本樹の意識の問題かそれができている。
 これもまた、ギミック式ゆえの仕掛けなのかもしれない。


「いいぞ~、頑張れエアル~!」

『~~♪』


 他の属性の精霊を使役していたら、どんなことを頼まれていたのだろうか。
 なんてことを思いつつも、エアルに送っても尽きぬよう魔力の回復に専念する。

 微精霊な分、一発の威力が低いのだろう。
 何発も、しかもあまりよろしくない効率で放たれる風魔法……まあ、それでも人族の魔法よりは効率良いけど。

 成長すれば自然と、それこそ超低燃費で高火力を発揮するようになる。
 ちなみにナースは例外、超高燃費で極火力となっています。


『もういいよ。幼子よ、感謝する』

『~~!』

「君も、よくぞその魔力を持たせた。足りないのであれば、私の蜜を提供しようと思っていたのだがね」

「『お気遣いいただいて嬉しいです。でも、なんとかなりました』」


 精霊次第では、かなり時間の掛かったかもしれない頼み事だからだろう。
 支援用のアイテムも用意してくれていたとは……うん、サービスが充実しているな。


『今回切り落とした枝、そしてもともと渡す気だった蜜を持っていきたまえ。それで迷宮攻略として認められるはずだよ』

「『ありがとうございます』!」

『それはこちらが言うことだよ。お陰でなんだかすっきりした気分でね。これなら侵入者にも、丁寧な対応ができそうだよ』

「『あ、あははは……』」


 じゃあ丁寧じゃない対応って……道理でこの迷宮、不人気だったわけだ。
 素材を摘むにも、妖精たちに頼まないとアウトってルールだからな。

 それから俺は妖賢樹の枝、そして指定された場所に作った切り口から採取した蜜を集めてこの場を去る。

 帰りもお菓子をチラつかせて、妖精たちに迷宮の入り口まで連れて行ってもらう。
 しばらくすれば何事もなく、迷宮から脱出できた。


「今回の収入は……精霊魔法、精霊感知、精霊言語、餌付、調教、剪定、採蜜かぁ。回数が多かったり、格上相手にやっていたからかな? うん、迷宮はやっぱりスキルが手に入りやすいよ」


 それがラスボスプレイに使えるかはともかく、何かしらの役に立つかもしれない。
 しばらくはこうして、迷宮攻略を契約術師縛りで行い、上位の迷宮を目指してみよう。


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