2,160 / 2,518
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント前篇 その19
しおりを挟むD級迷宮 養静の花園
E級の迷宮を攻略したことで、晴れて俺はD級迷宮への入場が認められた。
今回訪れたのは、色とりどりの花畑……橙色の世界を知っていると複雑な気分である。
「でも、今回は頑張らないと」
ここは純粋な力ではなく、迷宮の用意した仕掛けをどう攻略するかが鍵となるだろう。
──がその一つが、今の俺にとっては大変都合が良いため訪れた。
「魔本開読──“精霊探査”」
かなりお高めだった魔本に記載された術式は、周囲の精霊を探すための魔法。
そう、『養静の花園』には精霊種が多く存在している、だからこその来訪だった。
しかし、気を付けなければいけない。
E級迷宮たる『厳重なる森林』がそうだったように、この迷宮にもまたある種の理のような法則があるのだから。
「おっと、反応だ……まあ、予想通りいっぱい居るみたいだね。今の僕にはさっぱり探知できないけど」
精霊の反応は、精霊への適性を持つ者か特殊な瞳を持つ者、あるいは精霊が好む域まで属性の質を高めることができた者にしか感知することができない。
後天的に精霊魔法を獲得する、という方法もあるにはあるのだが……それだって結局のところ、今の俺のように場所の特定ができるだけに留まる。
というわけで、これ以上を俺一人でどうにかするのは無理。
なのでこの迷宮の法則を利用して、なんとかしてみる。
「ねぇねぇ、妖精さん。聞こえているなら返事をして」
『────』
「僕の頼みを聞いてくれるなら。この、とっても甘いおか──」
『何々?』『お菓子頂戴!』『甘いの欲しいぃ!』『もう早く頂戴よ!?』『ヨコセ!』『何すればいいの!』
言い方はアレだが、群がってくる大量の妖精たち。
養静、転じて妖精……ある条件を満たさない限り、ここは妖精の花園でもあった。
妖精たちは生まれ持って、精霊との親和性が高い。
つまり、彼らと交渉することで精霊たちを呼んでもらうことができる。
交渉材料は簡単、彼らの好む嗜好品。
大量のお菓子を持参して、それをチラつかせれば──
「うわぁ……」
『──連れてきたよ!』『ほらほら、速くしてよ!』『甘いぃいいい!』『いつまで待たせるの!?』『ヨコセ!』『まだ必要でしょうか?』
「う、ううん。これが報酬の──」
『──────!!』
言語機能すら失い、お菓子に飛びつく妖精たち……あそこまで欲望を剥き出しにできるとは、なんと恐ろしい種族なのだるか。
それでも約束通り、周囲に大量の精霊を集めてくれたのは間違いない。
持続させていた“精霊探査”も、感じられないが周囲に居ることを教えてくれる。
周りの妖精はお菓子に夢中で、こちらのことなんて意にも介していない。
まあ、隠すようなことでもないし──始めるとしますか。
「力を貸してほしいんだ。だから、お願いできるかな?」
見えざる存在に対して語り掛ける姿は、もう病的と言っても間違いではない。
それでも応えてくれると信じて、真剣な言葉を紡いでいく。
「僕が提供できるのは、自分自身の魔力。少し変かもしれないけど……でも、これだけしか無いんだ」
俺には畏怖嫌厭やその他にも邪縛がある。
それらが決して、精霊たちに不快感を与えないとは思っていない。
実際、妖精たちはお菓子を受け取ったら即座に離脱している。
精霊たちの自我が希薄だからこそ、それらは通常よりも効果を発揮しないでいた。
同時にそれは、上っ面だけの交渉の無価値さを意味する。
精霊にはダイレクトな想いを伝えるべし、と樹の聖霊様も教えてくれたからな。
「改めて──僕に力を貸してほしい。少しでも、できることを増やすために!」
そう言って、手を伸ばす。
魔力を軽く放出し、それを受け取ってもらえたら契約を受け入れるということになるのだが……。
「……いいんだね、本当に」
『!』
「ありがとう。その他のみんな、聞いてくれただけで充分だよ」
応えてくれたのは一体のみ。
だがしかし、畏怖嫌厭もある中で応えてくれるのはかなり貴重だ……ナース同様、レアなケースである。
属性は風。
自由気ままな性質を持つ彼らなので、俺への嫌悪感よりも外への解放をどこかで思っていたのかもしれない。
「じゃあ、契約しよう──[精霊の頁]」
デュラハンたちと契約した[夢現の書]。
アンデッドと契約できる[屍魂の頁]だけでなく、精霊との契約を可能とするページも用意されていた。
そこに契約した風精霊を近づけると、向こうから触れた後に吸い込まれていく。
妖精たちが遠目でこちらを見てくるが、お菓子をチラつかせれば何もしてこない。
「ふぅ……よろしくね」
『…………』
「ああ、えっと……どうぞ」
『────!!』
俺なんて無視して、即座にお菓子に群がりだす妖精たち。
もう[夢現の書]のことなど見向きもしていない……持ってきておいて正解だった。
「さて、改めて召喚──『エアル』」
『!』
「改めてよろしくね」
『!!』
契約した風精霊に名前を付けて、晴れて成立となる。
……これでとりあえず、戦力がゼロというわけでは無くなった。
「それじゃあ、ボスの所に行こう」
『!』
これまでと同じようにやるだけだ。
まだまだ大量にストックのあるお菓子を取り出して、俺は妖精に語り掛けるのだった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる