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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント前篇 その16

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 ──そこには、玉座が一つだけ存在した。

 それ以外には何も無い、絢爛なステンドグラスもシャンデリアも、カーペットだって何も敷いていない。

 だが、それだけで充分だった。
 玉座と、そしてそこから放たれる風格がこの部屋のすべてを物語っていると言っても過言ではない。


「いや、やり過ぎだろう……いつの間にデザイン担当を抱え込んだんだ?」


 現代チート……というか創作チート。
 ラノベやらアニメやらの知識の一部は、俺の記憶や協力者たちの情報からこちらの世界へ持ち出されている。

 芸術的な観点でも、当然それらは行われているわけで……。
 一時はそれが流行になっており、今なおそのデザインに魅せられている者もいる。

 おそらく、そうした芸術家の一人にこの宮殿のデザインをやらせたのだろう。
 黒と白、そして灰色のデザイン……その人には後日、ちゃんと返礼の品を届けないと。


「玉座は……うん、座らないでおくとして。何か別の物を盛ろうとすると、逆に景観を損ねそうだなぁ。まあでも、術式を隠しておくぐらいはできるか」


 迷宮なので<常駐魔法>を使わずとも、罠として組み込んでおけば問題ない。
 ……が、このやり方だと迷宮のエネルギーで運用せねばならないので却下。

 どうせ魔力はたんまりあるので、普通に支払うことにする。
 どんな魔法にすべきか……そう考えて思い浮かぶのはやはり──


「これだよな──“身命祈願サクリファイスウィッシュ常駐レジデント”」


 このイベントエリアにおける、鍵と成り得たであろう禁忌魔法“星命誓願ウィッシュ・ア・スター”。
 規模は劣るものの、同じく願いを叶えることができる魔法を仕込んでおく。

 発動条件はラスボスの討伐時、役を演じるものにも関連した台詞セリフを言ってもらう。
 あまりに無茶な願いでも無ければ、これでどうにかなるはずだ。


「あの術式は、あまりに悲惨なことになりそうだから壊したけど……善いことを願うヤツも居るからな。願わくば、そういうヤツがここで目的を果たしてくれるといいな」


 これ以上は無粋なので、部屋から出る。
 ラスボス役、このままだと俺がやることになるんだが……自分でこれをどう説明するのか、いちおう考えておかないと。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 やることが再び無くなってしまった。
 そうなるといつもグータラする時間が始まるのだが……今回は[選択肢]、という術を持っているからな。


「さて、どうなるのかなっと」


 UIに表示された仮想のボタンを押すと、俺の瞳は未来眼に切り替わった。
 そして、本来の[選択肢]に用いられるはずのエネルギーを利用して未来を覗き見る。


===============================
・これからの方針──何をする?

 1:眷属と共に蹂躙(金)
 2:再び廃都で活動(青)
 3:東で迷宮の攻略(青)
 4:南で人族に協力(赤)
 5:北で魔族に協力(赤)

===============================


 ……変わらない一つ目の選択肢に関して、俺から言うことは何もあるまい。
 問題はそれ以降、色で判断するのであれば西の廃都か東の迷宮を選ぶべきだろうか。


「そういえば、赤色で選んだのは仲間探しのはずだったんだよな。それがどうして、誰も仲間にできないまま帰還したのやら」


 前回は赤を選んだが、それといった問題は特に無かった。
 まあ、アンデッドとの戦闘はある意味苦労に入るのかもしれないが。


「そう考えると推測が間違っていたのか? いや、そもそもとして。この色は誰にとっての判断なんだ?」


 仮に俺用の色だとして、特に目立つ金色が眷属に関係していることは分かる。
 だがそれ以外の色は、そこで起き得ることが誰にとっての認識なのかが不明なのだ。

 俺の場合だって、それが『偽善者メルス』なのか『凡人ノゾム』なのかも分かっていない。
 少なくとも前者なのであれば、色が危険色と思われる赤になるはずがないのだ。


「クソ女神基準……って可能性もあるにはあるが、それって誰得? な状況だし。俺、もしくはそのときに映った者たちにとっての判断なのか?」


 少なくとも現状では、これが一番しっくりとくる……完全では無いが。
 それならば、仲間集めが赤色になるのもある意味納得だからだ。


「俺と仲間として行動するということは、間接的にラスボス(笑)に協力するというわけだからな。演出はどうせ、準備してもしなくてもラスボスをする意味での現状維持。青は予想通り、その進展ってことだな」


 まだ仮の考察でしかないし、眷属なら一瞬で答えを導き出しそうな気もする。
 しかし、俺なりに考えることを忘れては、依存し切ってしまうからな。

 ……もし色が全部金色にでもなったら、大人しく訊くことにしよう。
 でもそれまでは、他の色を選びながらこのイベントを楽しもうじゃないか。


「──というわけだ、アン。四天王を決めるのはいいけど、ラスボスを俺がやらないことも考慮してくれよ」

《そんな……すでに各四天王の侍るポジショニングまで決めておりますのに》

「……変なところを先んじて決めるなよ。あと、俺がラスボスをするにしてもそんな男どもに活力を与えそうなことはやらん」

《仕方ありません。では、何番目に倒されるのかで争うことにしましょう》


 それはそれで、また激しく揉めそうな気もするんだが……まあ、眷属たちがそれでいいなら俺も良しとしよう。


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