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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント前篇 その14
しおりを挟む祈念者の活躍の影響か、アンデッドたちに変化が起きる。
この地に縛られていた魂は上位個体に徴収され、有象無象が廃都に蔓延っていた。
俺はそんな中、『純源の天鎧』を身に纏い駆けている。
そして、自身のスキルを一部封印することで両手に二振りの刀を召喚した。
「──来て。[貔截]、[貅霓]」
夫婦刀、二振りで一つの役割を果たすその武器を握り締める。
山刀と呼ばれる短刀型の[貔截]、そして長刀型の[貅霓]。
──それらは共に、他者から運を奪い取るという能力を秘めていた。
しかし、アンデッドはすでに死んだ存在。
だからだろうか、総じてその数値は低い。
それでも、合法的に奪い取ることができる対象……思う存分に刀を振るっていく。
「それじゃあ行くよ──“百解瑞獣”!」
どんな効果かと問われれば、それは対悪用の運勢値バフと言えよう。
邪悪を払えば払うほど、俺は効果の持続時間中において幸運になることができる。
偶然、適当に振るった刀は急所に当たり。
偶然、相手の攻撃は俺をギリギリ通過し。
偶然、何度もアンデッドたちを発見する。
そうしてこの地に束縛されていた魂を持たないアンデッドたちを、次々斬っていく。
このとき、『純源の天鎧』が自動的に聖気の付与をしてくれるので浄化も済む。
元は無手用の効果だが、その状態で武器を握ればそちらにも延長してくれた。
まあ、少なくともミコトさんは試したこと無いだろうな。
「おっと、そろそろ厄介な個体が出てくるようになったかな──“避邪双角”!」
先ほどの能力、そしてこの霊体の効果を撥ね退けられる能力こそが[貅霓]の力。
長刀の銘が冠する[貅霓]とは、崇め奉られたその瑞獣の名を意味している。
そして、夫婦刀である[貔截]もまた、瑞獣としての力を保持しており、それらをお互いで共有し合えるようにしてある──妖刀の類いだ。
なのでどちらの刀を振るおうと、刀は運を吸い上げてそれを蓄えていく。
その蓄えた運の使い道は二つ、刀を成長させるか──[貔截]の能力に使う方法。
そうこうしていると、上位のアンデッドたちが居る地帯に辿り着く。
彼らはさらに高位の個体から瘴気の恩恵を受け、通常よりも強化されている。
それでも一体一体は、俺を殺し得るほどではないのだが……数が多い。
時間は掛かるが堅実に挑めば倒せるし、城付近の高位個体を倒せば弱体化もするはず。
「──“天禄単角”」
だが、それでは意味が無い。
強い状態のまま討伐できれば、相応の経験値だけでなくナシェクの回復もさらに速めることができるからだ。
夫婦刀が運を吸収して進化できるように、聖具は瘴気を浄化する際にそれを糧とすることができるらしいので。
故に[貔截]の能力を発動させた。
持ち主に福禄を与える、そんな瑞獣とされる[貔截]の名を冠した山刀型の妖刀は、能力を発動させた途端に変化を起こす。
ただ当たらなかっただけの攻撃は、敵同士に命中するようになる。
ただ急所に当たっていた攻撃は、より確実にアンデッドたちの活動を停止させていく。
ただ見つけていただけのアンデッドは、攻撃の当たりやすい遅鈍な個体ばかりになる。
極めて単純な能力だ。
発動中、使用者はその場に居る誰よりも一時的に幸運となる。
もっとも幸運な対象の運勢値に、自身の数値と夫婦刀の吸い上げた運勢値を足した数値になるとでも言っておこう。
「──“帝宝瑞獣”」
だが、運の介入する余地すらない、強大な存在を前に偶然の類いなど無意味。
狩りを続けていると現れた、『不死王』級の厄介な存在。
それに対して俺が発動したのは、進化とは違うもう一つの運の使い方。
これまで吸い上げた幸運、その大半が山刀へと注がれていく。
そして、他のアンデッドたちに運よく接触されないまま不死王へ接近。
光り輝く山刀を突きつけると──不思議と体が崩壊し、核を残して消滅していった。
「……うわぁ、えげつない」
それこそが“帝宝瑞獣”の能力。
たとえどんなに強大な相手でも、溜め込んだ運を消費することで絶対的な勝利を使用者にもたらしてくれる。
注意しなければならないこと。
それは大して溜めていない、または強大過ぎる相手に使うとマイナスの域まで運が下がり、そのまま不幸にも死んでしまうことだ。
「ナシェク、どうだった?」
『……あまり、私以外の武器を使うのは控えていただきたいですね。ええ、たしかに特殊能力に関しては、納得の力がありました。ですがそれでも、私を使い倒せないアンデッドなど存在しないのですから!』
「うーん、今度うちに居る元アンデッドを紹介するね。ちょっとヤバいけど、まあなんとかなるから」
夫婦刀の使用期限が過ぎたため、強制的に回収される。
再び無手となったうえ、ナシェクも鎧の維持を解いて腕輪の形となったので無防備だ。
しかし、周囲を警戒するものの、武器を準備しておく必要は無い。
すでにこの一帯、というか地下水道とお城以外のアンデッドはもういなくなっていた。
俺が倒したのもあるし、お城付近の上位個体が徴収したのもある。
八割がた後者の影響だが、なんにせよある意味解放に成功したと言えよう。
「この事実は誰も知らないし、知らなくていいこと。お城とその付近を解放したから、裏で地下水道を何とかしたからこうなった、そういう認識にさせておこう」
『……それで良いのですか?』
「良いも何も、今の僕に栄光は不要だもん。アンデッドを狩っていたのは、それがナシェクのためにも、彷徨っていた魂のためにもなるから……要は偽善だよ」
『メルス、貴方は……優しいのですね』
なぜそんな風に思ったのか、なんてことは訊かないでおく。
詳細を語られても、こちらが滅入ってしまうだけだし。
とりあえず、一度浮島に帰還して廃都のことは祈念者とそのうち訪れる姫様に任せる。
俺がここで出来ることは、もう何も無いのだから。
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