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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント前篇 その13
しおりを挟む──賢い人々なら思うだろう、デュラハンとアルカの戦いはどうなったのかと。
戦っている間は彼女の暴力的なまでの高火力によって、他者が介入する余地など無い。
だが、それによって弱体化した後ならば付け入る隙もある……そう考えるはずだ。
結論から告げよう──デュラハンはアルカから逃げおおせた。
改めて確認した結果、活力を取り戻すために貴族を惨殺しているシーンを観ている。
「──とまあ、今も元気にやっているみたいで何よりだよ」
『そのアルカという【賢者】は、私から見ても凄腕の魔法使いのはずです。その魔法、たしか『滅魔墜星』と言いましたか? アレを受けてもなお、デュラハンは平然としていたのですか?』
「僕も後から知ったんだけどね、僕の想像以上に危険な個体になっていたみたいなんだ」
そもそも、アルカと戦ったデュラハンと合わせて四体の個体を生み出している。
一体は聖化し、一体は分裂したりもしたのだが……そこは置いておくとして。
ナシェクも俺がやらかしたことに関して、腕輪越しに把握している。
せっかくなので、ナシェクに説明しながら俺も状況のおさらいをしておこう。
「問題はその数なんだよ。ナシェク、支援魔法を掛けるとして、軍勢に掛けるのと精鋭に掛けるのとでどういう違いがあるかな?」
『質でしょう。個々に魔力や聖気を収束させられる分、その性能も高いものに……そういうことですか』
「うん。きっとイベントが当初の予定通りに進んでいたら、もっと軍勢みたいな規模で使われるはずだったものを、たった四体に注ぎ込んだらどうなるか……その結果なんだ」
『あのような負の力の塊は、濃縮して制御するよりも大雑把に使った方が扱いやすいですからね。精鋭の個体を生み出すよりは、有象無象でも数で補っていた可能性が高いです』
本来それは、莫大な量のエネルギーに耐え得るだけの器が無ければできない所業。
しかし、そこには俺が──創造すらも可能とする存在が居た。
デュラハンを生み出す魔法は、そのエネルギーによって強制的に変質していたのだ。
……気にも留めなかったが、たしかに制御がやや面倒だなぁと思った気がする。
それによって、四体のデュラハンたちはレイドボス級の力を手に入れていた。
素でその状態なのだが、そこにイベントボスとしての補正やらをてんこ盛りで受ける。
──かくして、(俺以外には)誰も制御することのできない怪物たちが誕生したのだ。
なお、この情報はすべて、浮島で作業をする合間に眷属たちが解析してくれました。
「ちなみに、外に行かなかった二体のデュラハンの場合は、聖化や分裂にリソースを割いているからそこまで強くないよ。その代わりに得たものは、いっぱいあるんだけどね」
『……聖化や分裂など、もうその時点でおかしいと思うのですが。それ以上に、まだ何かあるのですか?』
なんだかんだ言いつつ、興味津々なのが思念に乗って伝わってくる。
ミコトさんがどういう人物か完全には掴めていないが、まあ面白い感じだしな。
そんな彼女と共に居たのだ、ただ無機質に添い遂げたわけじゃない。
その遺志を継ぐと同時に、趣味嗜好の一部もトレースしたのかもな。
さて、そんなナシェクに対して二体もとい三人のデュラハンの能力を語る。
最初はただ黙って聞いていたが……最後の辺りは、かなりツッコミを入れていた。
『──それだけの力があってなお、そこまで強くないと言うのですか?』
「条件付きで強い彼らと違って、外の二体は無制限で強いからね。さすがにアルカレベルだと、少しは消耗するけど……雑魚がどれだけ集まっても、糧にしかならないよ」
何度も言うが、デュラハンたちの動力源は悪意の塊である。
俺が調整をきちんと施した親子の個体と違い、外に出た個体はそれらがそのままだ。
さて、ここで問おう。
闘争や世界への怨嗟を抱いた彼らには、どのような悪意が籠もっているのか──そしてそれを抱いて者たちが、何者なのかを。
◆ □ ◆ □ ◆
正解? 答えがたくさんあり過ぎるから、いちいち説明するのは面倒です。
今日も今日とでアンデッド狩り……なのだが、本日は少々気になることが。
『──おかしいですね。魂が束縛されたアンデッドの数が明らかに減っています』
「あー、もう来たのかな?」
『いえ、その可能性もありますが、それにしても異常です。祈念者以外の原因が、何らかの形であるかもしれません』
それはなんだと問う前に、廃都の中心部であるお城の辺りから不穏な空気が漂う。
そして邪気、あるいは瘴気と呼ばれるアンデッドが好む負のエネルギーが襲ってきた。
「──『煌光の天杖』」
すぐさま持っていた剣を杖に切り替え、そこへ魔力を籠める。
生み出された聖なる光に、強くイメージして自分を包み込ませた。
これで悪影響はシャットアウトできたが、こんな方法普通は取ることなどできない。
つまり、ほとんどの連中が瘴気を浴びてしまったわけで……なんとも厄介な。
『メルス!』
「はいはい、分かってますよ。とりあえず、振り払うね──“聖域”!」
杖に魔力を注ぎ込み、それらを聖気へと変換してもらったうえで聖魔法を発動。
通常以上に範囲・性能を増した聖なる領域が、辺り一帯の瘴気を浄化していく。
これで今の俺は歩く空気清浄機、すぐに移動を開始して周囲の澱みを解消する。
完全に瘴気に全身を貪られる前に浄化を済ませれば、まだ死ぬことは無いだろう。
屋根の上に立ち、瘴気が未だ残っている地帯を駆けては浄化を済ませておく。
拠点のある外、そしてお城の辺りは大丈夫そうなんだが……まだ何かあるようだ。
「っ……おっと、そう来るか。これはまた、面倒なやり方を仕掛けてくるね」
『人質、いえ魂質を取るなんて!』
「瘴気が濃い分、強制的な浄化の難易度も上がっているね。そうなると、術者というか瘴気の張本人の討伐が必須だね」
『…………それでも貴方は、自ら打って出ることはしないのですか?』
期待されてもこれだけはしない。
聖人らしい振る舞いではあれど、偽善者らしい振る舞いではない……そして何より、俺個人で挑んでも確実に負けるはず。
瘴気で魂を宿すアンデッドを強制回収し、それらを意図的に晒して自由民たちの意欲を削ぐ……卑劣で卑怯ではあるが、祈念者だけに集中できる分、有効ではある。
これはイベント戦。
通常よりも強力な相手を、こちらの人々がカギとなって攻略方法を見出すことができるというやり口だろう。
姫様の到着、あるいは魂質の誰か、もしくはこの廃都に眠るナニカが道を切り開くだろう──そこに俺の介入は不要だ。
「僕にしかできないことなんて、この場所には無いんだよ。だから、僕は誰にでもできることを可能な限りやっていくんだ」
『……何をするのですか?』
「まあ見ててよ。その代わり、今だけは鎧の力を貸してくれるかな?」
『……いいでしょう。ですが、いつでも剥奪できることを忘れないでくださいね』
その言葉を聞き終えた後、俺はいつもは使えない『純源の天鎧』を身に纏う。
聖気を放つその鎧の力は、不浄の力を俺に寄せ付けなくする。
これで体を気にする必要は無くなった。
あとは全力全開で、俺のやりたいようにやるだけである。
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