上 下
2,153 / 2,518
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント前篇 その12

しおりを挟む


 ナシェクを説得(?)し、次の日もひたすら浄化しやすいアンデッドを倒し続ける。
 だんだんこちらに来る祈念者も増えているのだが、大抵は城か地下水道狙いだ。

 そりゃあ役割を演じている以上、勇者か魔王らしい活躍が好ましいからな。
 狙う相手も目標も、大物チックな方が彼ら敵にも助かるのだ。


「しかしまあ、結構数が多いよね……そりゃあ今まで解放できなかったわけだよ。どう、数は減ってる?」

『総数的には減っていません。しかし、生み出されるアンデッドは触媒を用いたモノではなく、スキルや魔法によって無から形成される個体が多くなっていますね』


 負の魔力で動く死者はアンデッドと言えるのだが、アンデッドは死者とは言えない。
 何故ならすべてのアンデッドが、亡骸を触媒に生まれたわけでは無いからだ。

 分かりやすいたとえを挙げると迷宮。
 あそこで出現するアンデッドは、基本的に同じような姿をしている……ある程度決まったパターンからランダムで創られる感じで。

 同様にして、“死者創造クリエイト・アンデッド”などの魔法やスキルで生み出されるアンデッドも、意図して死者を触媒にしない限り、無から構築された何物でもないアンデッドとなるのだ。

 そして今回のこの廃都。
 現れるアンデッドの内、その大多数はこの地で生き、そして死んだ者たちの魂が束縛されて生み出された個体だった。

 しかし祈念者が現れて、一気にそんなアンデッドの数が減っていく。
 だがその総数は減ることは無い……それを補うモノがこの廃都のどこかに居るからだ。


「まあ、間違いなく上位個体の仕業だと思うけど。ちゃんと浄化できていない魂はリサイクルされるし、全部が全部創られた個体ってわけじゃないけどね」

『ですが、貴方にそれを倒す気はないと。それではいつまで経っても、根本的な解決はできませんよ?』

「そういうことをやりたい人が、この地には集まっているんだよ。僕がやらずとも、僕よりも強い人がそれを成し遂げるんだ。今の僕にできるのは、一人でも多く早く、浄化してあげるだと思うよ」

『! ……そうですね。ええ、私が間違っていました。彷徨える魂を救うため、私も協力しましょう!』


 張り切っているナシェクだが……うん、それ自体を目的にするなら『死葬の修道服』一式を装備するだけですぐにできる。

 そうでなくとも、アイの試練で得たあるアイテムを使うだけで速攻で解決可能だ。
 ……なんせ、一定範囲のアンデッドを丸ごと浄化させられるからな。


「──『灼炎の天剣』」


 槌を使うのも飽きてきたので、今度は聖火が灯る剣を使用。
 こちらも今回の場の狭さに合わせて、短剣サイズにまで縮めてある。

 そして、ナシェクの誘導を受け次々とアンデッドを見つけては浄化していく。
 聖火を燈され、この地に縛られていた魂たちは温もりに抱かれたまま消える。

 霊感スキルは持っているが、彼らの詳細な想いまでは読み取れない。
 だが、ナシェクには分かる……彼らは感謝していると教えてくれた。


『────とう』

「ん? ねぇナシェク、今何か言った?」

『いえ。今の方が、貴方に『ありがとう』と仰っていましたよ』

「……そう、なんだね」


 ちらりと[ステータス]を確認すると、思念感知……そして天啓スキルを得ていた。
 まあ、たぶん後者は模造とはいえ天使のナシェクの声を聴き続けたからかもな。

 そして本命の思念感知、特殊スキルに属するこのスキルが意味するモノ。
 俺、霊能力者みたいなこともできるようになったかもな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 そして夜、魔石を提出してから一休み。
 隠し持っている分がだいぶ増えて、正直持て余しているが……ここで出してもロクなことにならないので仕方がない。

 隠蔽系のスキルで潜んでいるが、祈念者が増え始めたことで気づかれ始めている。
 だが、そこはただ目立ちたくないという振る舞いをしておけば勝手に察していた。

 今の俺の見た目は子供。
 つまり…………くっ、非常に遺憾ではあるが、背に腹は代えられないのだ。


「……それよりも、良い情報が入ったよ。どうやら祈念者の方でクエストを進めたみたいで、人族の国の方からこの地の解放軍が来るみたいだよ」

『彼らに協力するためですか?』

「うーん、ちょっと違うかな。王女様がね、ここの王族の血を引いているんだって。だから彼女の権威を祈念者たちが高めた結果、ここの解放に力を入れることになったんだよ」


 他の王族の手伝いをしていると、迷宮踏破やら魔物の大討伐をすることになっていたらしい……そりゃあ穏和な祈念者は、王女様の味方をしているだろうな。

 なので祈念者、そして何やら特殊なバフを施せる王女様がここに来ている最中だ。
 ……まあ、たぶんその王女様を巡ってもう一波乱ぐらいありそうだけど。


「利権とか、いろいろとありそうだし……来ると言ってもまだまだ後だろうね」

『本当に人族は……愚かしい』

「まあ、それはどの世界でも同じでしょ。そうじゃない人だっているし、その最たる例がミコトさんじゃん」

『! そ、そうですね。ええ、ではその王女とやらを救いに行くので…………その反応、これっぽっちも行く気がありませんね』


 はい、正解。
 ピンチになった王女様を救う、ありふれた展開ではあるが……うん、絶対に他の祈念者でもできることだ。

 というか、初期からそのクエストに従事している連中から間違いなく恨まれる。
 王女様の容姿がどうだか知らないが……この世界だと、容姿端麗な連中が多いしな。 


「うーん、王女様が到着して王城が解放されたら、僕も次の場所に行こうかな。偽善を必要とする人は居ないし、今度は迷宮を踏破していく日々を始めようか」

『…………う~ん』

「王女様を救いたい? でも、僕が居なくても絶対に救われるよ? 僕以上に強い祈念者もたくさんいるし、そもそも……いや、これはいいかな」

『なんですか、最後まで言われないと気になるではありませんか』


 問い詰めてくるナシェクの思念をどうにか撥ね退け、とりあえず意識をシャットダウンして体を休める。

 ……たぶんだけど、このイベントエリアの自由民の目的は一つだと思う。
 どういう形で伝わっているかは知らないけども、手っ取り早くて楽だろうからな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...