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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント前篇 その12
しおりを挟むナシェクを説得(?)し、次の日もひたすら浄化しやすいアンデッドを倒し続ける。
だんだんこちらに来る祈念者も増えているのだが、大抵は城か地下水道狙いだ。
そりゃあ役割を演じている以上、勇者か魔王らしい活躍が好ましいからな。
狙う相手も目標も、大物チックな方が彼ら敵にも助かるのだ。
「しかしまあ、結構数が多いよね……そりゃあ今まで解放できなかったわけだよ。どう、数は減ってる?」
『総数的には減っていません。しかし、生み出されるアンデッドは触媒を用いたモノではなく、スキルや魔法によって無から形成される個体が多くなっていますね』
負の魔力で動く死者はアンデッドと言えるのだが、アンデッドは死者とは言えない。
何故ならすべてのアンデッドが、亡骸を触媒に生まれたわけでは無いからだ。
分かりやすいたとえを挙げると迷宮。
あそこで出現するアンデッドは、基本的に同じような姿をしている……ある程度決まったパターンからランダムで創られる感じで。
同様にして、“死者創造”などの魔法やスキルで生み出されるアンデッドも、意図して死者を触媒にしない限り、無から構築された何物でもないアンデッドとなるのだ。
そして今回のこの廃都。
現れるアンデッドの内、その大多数はこの地で生き、そして死んだ者たちの魂が束縛されて生み出された個体だった。
しかし祈念者が現れて、一気にそんなアンデッドの数が減っていく。
だがその総数は減ることは無い……それを補うモノがこの廃都のどこかに居るからだ。
「まあ、間違いなく上位個体の仕業だと思うけど。ちゃんと浄化できていない魂はリサイクルされるし、全部が全部創られた個体ってわけじゃないけどね」
『ですが、貴方にそれを倒す気はないと。それではいつまで経っても、根本的な解決はできませんよ?』
「そういうことをやりたい人が、この地には集まっているんだよ。僕がやらずとも、僕よりも強い人がそれを成し遂げるんだ。今の僕にできるのは、一人でも多く早く、浄化してあげるだと思うよ」
『! ……そうですね。ええ、私が間違っていました。彷徨える魂を救うため、私も協力しましょう!』
張り切っているナシェクだが……うん、それ自体を目的にするなら『死葬の修道服』一式を装備するだけですぐにできる。
そうでなくとも、アイの試練で得たあるアイテムを使うだけで速攻で解決可能だ。
……なんせ、一定範囲のアンデッドを丸ごと浄化させられるからな。
「──『灼炎の天剣』」
槌を使うのも飽きてきたので、今度は聖火が灯る剣を使用。
こちらも今回の場の狭さに合わせて、短剣サイズにまで縮めてある。
そして、ナシェクの誘導を受け次々とアンデッドを見つけては浄化していく。
聖火を燈され、この地に縛られていた魂たちは温もりに抱かれたまま消える。
霊感スキルは持っているが、彼らの詳細な想いまでは読み取れない。
だが、ナシェクには分かる……彼らは感謝していると教えてくれた。
『────とう』
「ん? ねぇナシェク、今何か言った?」
『いえ。今の方が、貴方に『ありがとう』と仰っていましたよ』
「……そう、なんだね」
ちらりと[ステータス]を確認すると、思念感知……そして天啓スキルを得ていた。
まあ、たぶん後者は模造とはいえ天使のナシェクの声を聴き続けたからかもな。
そして本命の思念感知、特殊スキルに属するこのスキルが意味するモノ。
俺、霊能力者みたいなこともできるようになったかもな。
◆ □ ◆ □ ◆
そして夜、魔石を提出してから一休み。
隠し持っている分がだいぶ増えて、正直持て余しているが……ここで出してもロクなことにならないので仕方がない。
隠蔽系のスキルで潜んでいるが、祈念者が増え始めたことで気づかれ始めている。
だが、そこはただ目立ちたくないという振る舞いをしておけば勝手に察していた。
今の俺の見た目は子供。
つまり…………くっ、非常に遺憾ではあるが、背に腹は代えられないのだ。
「……それよりも、良い情報が入ったよ。どうやら祈念者の方でクエストを進めたみたいで、人族の国の方からこの地の解放軍が来るみたいだよ」
『彼らに協力するためですか?』
「うーん、ちょっと違うかな。王女様がね、ここの王族の血を引いているんだって。だから彼女の権威を祈念者たちが高めた結果、ここの解放に力を入れることになったんだよ」
他の王族の手伝いをしていると、迷宮踏破やら魔物の大討伐をすることになっていたらしい……そりゃあ穏和な祈念者は、王女様の味方をしているだろうな。
なので祈念者、そして何やら特殊なバフを施せる王女様がここに来ている最中だ。
……まあ、たぶんその王女様を巡ってもう一波乱ぐらいありそうだけど。
「利権とか、いろいろとありそうだし……来ると言ってもまだまだ後だろうね」
『本当に人族は……愚かしい』
「まあ、それはどの世界でも同じでしょ。そうじゃない人だっているし、その最たる例がミコトさんじゃん」
『! そ、そうですね。ええ、ではその王女とやらを救いに行くので…………その反応、これっぽっちも行く気がありませんね』
はい、正解。
ピンチになった王女様を救う、ありふれた展開ではあるが……うん、絶対に他の祈念者でもできることだ。
というか、初期からそのクエストに従事している連中から間違いなく恨まれる。
王女様の容姿がどうだか知らないが……この世界だと、容姿端麗な連中が多いしな。
「うーん、王女様が到着して王城が解放されたら、僕も次の場所に行こうかな。偽善を必要とする人は居ないし、今度は迷宮を踏破していく日々を始めようか」
『…………う~ん』
「王女様を救いたい? でも、僕が居なくても絶対に救われるよ? 僕以上に強い祈念者もたくさんいるし、そもそも……いや、これはいいかな」
『なんですか、最後まで言われないと気になるではありませんか』
問い詰めてくるナシェクの思念をどうにか撥ね退け、とりあえず意識をシャットダウンして体を休める。
……たぶんだけど、このイベントエリアの自由民の目的は一つだと思う。
どういう形で伝わっているかは知らないけども、手っ取り早くて楽だろうからな。
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