2,152 / 2,518
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント前篇 その11
しおりを挟むアンデッドの種類は多岐に渡る。
ゾンビ映画などで良く出てくるイメージのある人型や動物型だけでなく、魔物……果ては精霊のアンデッドまで現れるのだ。
まあ、精霊と言っても精霊の体が腐肉みたいにグチャグチャになっているのではなく、負の魔力に染まっているということ。
狂ったように暴れ回り、妖精のする悪戯よりも悪辣なことをしてくるだけ。
具体的には、アンデッドを攻撃している最中に妨害をしてきたりなどだ。
「まあ、ナシェクが居るから何の心配もしてないけどね」
『…………!』
ドヤァといった思念が伝わってくる。
まあ、アンデッドよりもエネルギー体としての存在な精霊(邪)なので、浄化の波動がより伝わりやすいのだ。
聖具自体が聖気を帯びているため、空気清浄機のように辺りを浄化していく。
なので一定距離まで近づけば、自動的に浄化されてドロップ品を残して消えるのだ。
もちろん、その際はいっさい経験値的なものは入らないのだが。
まあ、ナシェクの方はちゃんと稼いでいるようなので、俺としてはそれで納得した。
「さてと、僕も頑張らないと……ねっ!」
振り向きざまに槌を振るえば、別の通路から顔を出したアンデッドに命中する。
威力は関係ない、触れた時点でナシェクの聖気によって強制的に浄化が成されるから。
地面に落ちたドロップ品を回収し、再び移動を再開する。
狙い目な場所に来ているとはいえ、波のようにアンデッドが襲ってくるわけではない。
呼び寄せれば違うだろうが、ナシェクの聖気があるので上位の個体は忌避感から近づいてこない……うん、最悪何を言われても強引に収納しよう。
まあ、俺が来ているのは基本的に浄化が一発で可能な弱いアンデッドの密集地域だ。
なのでそんな機会は、それこそヤバいのが多いお城付近でも無いとありえないはず。
「当たれば確殺。うーん、ミコトさんもアンデッド狩りのときはこんなに楽だったんだ」
『いえ、ミコトが行うのはもっと高位の個体ばかりでしたので。さすがに聖気だけで浄化できるような個体ばかりではありません。あの娘の流派の技を使えるようになれば、それらも簡単に倒せるでしょう』
ナシェクの言う流派とは、ミコトさんが地球で培い実戦で昇華させた武術のこと。
当人の才覚を用いた我流の部分が強く、凡人である俺の習得は遅れている。
だが聖人として振る舞っていただけあり、基本的にそれは対アンデッド系の技が多い。
正確には対悪といった感じで、超常的な存在にもかなり効くとのこと。
「僕じゃなくて眷属なら、簡単に使いこなせるようになると思うんだけどね」
『今は貴方の話を……いえ、その方がやる気が出るというのであれば構いません。普及するのは良いことですので』
「あっ、それは問題ないよ。ナシェクが了承してくれるなら、実験的に導入してみようと思っていたし。多少使い手は選ぶかもしれないけど、全部の技は諦めて、比較的簡単な技だけでも使えるようにしてみるよ」
まあ、本人の残留思念を見つけられれば、もっと手っ取り早くなんとかできるかもしれないが……今は忘れておく。
型はナシェクに合わせて銃を除く七種の武器、そして鎧に合わせた無手での技がある。
厳密には銃の技もあるらしいが、そちらは彼女も見せてくれなかったらしい。
仮に古武術だとして、そりゃあ銃の技なんてそこまで無いはずだ。
つまり、存在しない銃の型とは……うん、彼女の名誉のためにもそっとしておこう。
閑話休題
それなりに狩り終え、時刻は夕暮れ。
夜になるとアンデッドは強化されるので、一度引き返して拠点で休むことに。
息をするように読唇と盗聴スキルを起動してみると、気になる情報を確認。
視力強化、聴力強化スキルといった補助を受けて、更なる情報収集に勤しむ。
「なるほどなるほど……うん、やっぱり地下水道には行かなくて正解だったよ」
『何か現れたのですか?』
「えっとね、結構大きいスライムだって。しかもアンデッド状態の」
『…………それは厄介ですね』
スライムは雑魚で定番だが、キングにもなればゲームでも強いように、こちらの世界でも体積が大きければ大きいほど厄介な存在という認識だ。
そりゃあ触れた相手を溶かす、体をいくら攻撃しても核に当たらなければ死なない、周囲の物質を取り込んで無尽蔵に再生する……などなどの厄介な性質を持てば当然である。
そのうえ、今回はアンデッド化している。
何が厄介かというと、とにかく面倒なまでにタフなのだ。
「聖属性が弱点なのは同じだけど、そこだけ切り離されちゃうし。周囲に他のアンデッドが居るなら、自分を切り分けて回復させたり逆に取り込んで回復したりするし……なかなか苦労するよね」
『ええ。火属性で一気に焼こうにも、そちらは持ち前の再生力で意味を成しません。かなりの強敵でしょう』
「うん、だから頑張ってほしいよね」
『…………向かわないのですか?』
あら、おかしなことを聞いてくるものだ。
せっかくみんな、倒そうと頑張って話しているというのに……それ邪魔するのは、偽善者的にアウトである。
「まだ自分たちで成し遂げたい、そういう人たちが居るからね。もうダメだ、諦めようとかそういう流れになるならいいけど。まあ、今回は絶対にそうならないよ」
『何故ですか?』
「祈念者が居るからだよ。死んでも蘇り、何度でも戦える死兵。それが数百、数千も居るのに諦める必要があると思う?」
『ですが、時間は掛かるはずです。その間、こちらの世界の人々にどれだけの被害が出るのか……』
うんうん、とても聖人的思考だ。
困っている、ピンチになると分かっている状況で助けないならヒーローじゃない、俺も頭ではきちんと理解しているぞ。
「──けど、彼らはここを解放することを自らの意思で望んでいる」
『!』
「死ぬ可能性も理解して、それでもここに来ている。死ぬ気も無い、理不尽に文句を言う祈念者が来ているのだって、ギリギリ合法ぐらいの問題じゃないか。それ以上、いったいどんな支援が必要なの?」
『……しかし』
俺は完璧に人を救えない。
だから自分を偽善者だと思うし、そのこと自体に悪気などいっさい無いのだ。
その選択が結果的に、人の命を失うことになることだってある。
だが、元はと言えば死地に来ている方も悪い……そうとも取れるだろう。
「仮に僕がスライムを倒したとするよ。傷を受けて休むとして、その間にも調査は続いたとしよう。じゃあ、もっと奥でもっと強い個体が現れます。その被害は僕がスライムと戦わなかった時と比べてどうなるでしょう?」
『そ、それは……』
「甚大な被害、一人が死んでも複数人が死んでも問題だよ。だからと言って、先のことを後回しにして現状だけをどうにかするのは大間違いだと思う。そこに挑むだけの力を、きちんと得てからじゃないと」
現在、スライム討伐とお城攻略が同時に進行しているが……今回の問題を受けて、おそらく状況が変化するはずだ。
だがどちらにしても、強者が弱いアンデッドばかりの地域を攻略するはずもない。
そういう意味でも、俺は地道な狩りをやり続けているのだ。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる