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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント前篇 その11
しおりを挟むアンデッドの種類は多岐に渡る。
ゾンビ映画などで良く出てくるイメージのある人型や動物型だけでなく、魔物……果ては精霊のアンデッドまで現れるのだ。
まあ、精霊と言っても精霊の体が腐肉みたいにグチャグチャになっているのではなく、負の魔力に染まっているということ。
狂ったように暴れ回り、妖精のする悪戯よりも悪辣なことをしてくるだけ。
具体的には、アンデッドを攻撃している最中に妨害をしてきたりなどだ。
「まあ、ナシェクが居るから何の心配もしてないけどね」
『…………!』
ドヤァといった思念が伝わってくる。
まあ、アンデッドよりもエネルギー体としての存在な精霊(邪)なので、浄化の波動がより伝わりやすいのだ。
聖具自体が聖気を帯びているため、空気清浄機のように辺りを浄化していく。
なので一定距離まで近づけば、自動的に浄化されてドロップ品を残して消えるのだ。
もちろん、その際はいっさい経験値的なものは入らないのだが。
まあ、ナシェクの方はちゃんと稼いでいるようなので、俺としてはそれで納得した。
「さてと、僕も頑張らないと……ねっ!」
振り向きざまに槌を振るえば、別の通路から顔を出したアンデッドに命中する。
威力は関係ない、触れた時点でナシェクの聖気によって強制的に浄化が成されるから。
地面に落ちたドロップ品を回収し、再び移動を再開する。
狙い目な場所に来ているとはいえ、波のようにアンデッドが襲ってくるわけではない。
呼び寄せれば違うだろうが、ナシェクの聖気があるので上位の個体は忌避感から近づいてこない……うん、最悪何を言われても強引に収納しよう。
まあ、俺が来ているのは基本的に浄化が一発で可能な弱いアンデッドの密集地域だ。
なのでそんな機会は、それこそヤバいのが多いお城付近でも無いとありえないはず。
「当たれば確殺。うーん、ミコトさんもアンデッド狩りのときはこんなに楽だったんだ」
『いえ、ミコトが行うのはもっと高位の個体ばかりでしたので。さすがに聖気だけで浄化できるような個体ばかりではありません。あの娘の流派の技を使えるようになれば、それらも簡単に倒せるでしょう』
ナシェクの言う流派とは、ミコトさんが地球で培い実戦で昇華させた武術のこと。
当人の才覚を用いた我流の部分が強く、凡人である俺の習得は遅れている。
だが聖人として振る舞っていただけあり、基本的にそれは対アンデッド系の技が多い。
正確には対悪といった感じで、超常的な存在にもかなり効くとのこと。
「僕じゃなくて眷属なら、簡単に使いこなせるようになると思うんだけどね」
『今は貴方の話を……いえ、その方がやる気が出るというのであれば構いません。普及するのは良いことですので』
「あっ、それは問題ないよ。ナシェクが了承してくれるなら、実験的に導入してみようと思っていたし。多少使い手は選ぶかもしれないけど、全部の技は諦めて、比較的簡単な技だけでも使えるようにしてみるよ」
まあ、本人の残留思念を見つけられれば、もっと手っ取り早くなんとかできるかもしれないが……今は忘れておく。
型はナシェクに合わせて銃を除く七種の武器、そして鎧に合わせた無手での技がある。
厳密には銃の技もあるらしいが、そちらは彼女も見せてくれなかったらしい。
仮に古武術だとして、そりゃあ銃の技なんてそこまで無いはずだ。
つまり、存在しない銃の型とは……うん、彼女の名誉のためにもそっとしておこう。
閑話休題
それなりに狩り終え、時刻は夕暮れ。
夜になるとアンデッドは強化されるので、一度引き返して拠点で休むことに。
息をするように読唇と盗聴スキルを起動してみると、気になる情報を確認。
視力強化、聴力強化スキルといった補助を受けて、更なる情報収集に勤しむ。
「なるほどなるほど……うん、やっぱり地下水道には行かなくて正解だったよ」
『何か現れたのですか?』
「えっとね、結構大きいスライムだって。しかもアンデッド状態の」
『…………それは厄介ですね』
スライムは雑魚で定番だが、キングにもなればゲームでも強いように、こちらの世界でも体積が大きければ大きいほど厄介な存在という認識だ。
そりゃあ触れた相手を溶かす、体をいくら攻撃しても核に当たらなければ死なない、周囲の物質を取り込んで無尽蔵に再生する……などなどの厄介な性質を持てば当然である。
そのうえ、今回はアンデッド化している。
何が厄介かというと、とにかく面倒なまでにタフなのだ。
「聖属性が弱点なのは同じだけど、そこだけ切り離されちゃうし。周囲に他のアンデッドが居るなら、自分を切り分けて回復させたり逆に取り込んで回復したりするし……なかなか苦労するよね」
『ええ。火属性で一気に焼こうにも、そちらは持ち前の再生力で意味を成しません。かなりの強敵でしょう』
「うん、だから頑張ってほしいよね」
『…………向かわないのですか?』
あら、おかしなことを聞いてくるものだ。
せっかくみんな、倒そうと頑張って話しているというのに……それ邪魔するのは、偽善者的にアウトである。
「まだ自分たちで成し遂げたい、そういう人たちが居るからね。もうダメだ、諦めようとかそういう流れになるならいいけど。まあ、今回は絶対にそうならないよ」
『何故ですか?』
「祈念者が居るからだよ。死んでも蘇り、何度でも戦える死兵。それが数百、数千も居るのに諦める必要があると思う?」
『ですが、時間は掛かるはずです。その間、こちらの世界の人々にどれだけの被害が出るのか……』
うんうん、とても聖人的思考だ。
困っている、ピンチになると分かっている状況で助けないならヒーローじゃない、俺も頭ではきちんと理解しているぞ。
「──けど、彼らはここを解放することを自らの意思で望んでいる」
『!』
「死ぬ可能性も理解して、それでもここに来ている。死ぬ気も無い、理不尽に文句を言う祈念者が来ているのだって、ギリギリ合法ぐらいの問題じゃないか。それ以上、いったいどんな支援が必要なの?」
『……しかし』
俺は完璧に人を救えない。
だから自分を偽善者だと思うし、そのこと自体に悪気などいっさい無いのだ。
その選択が結果的に、人の命を失うことになることだってある。
だが、元はと言えば死地に来ている方も悪い……そうとも取れるだろう。
「仮に僕がスライムを倒したとするよ。傷を受けて休むとして、その間にも調査は続いたとしよう。じゃあ、もっと奥でもっと強い個体が現れます。その被害は僕がスライムと戦わなかった時と比べてどうなるでしょう?」
『そ、それは……』
「甚大な被害、一人が死んでも複数人が死んでも問題だよ。だからと言って、先のことを後回しにして現状だけをどうにかするのは大間違いだと思う。そこに挑むだけの力を、きちんと得てからじゃないと」
現在、スライム討伐とお城攻略が同時に進行しているが……今回の問題を受けて、おそらく状況が変化するはずだ。
だがどちらにしても、強者が弱いアンデッドばかりの地域を攻略するはずもない。
そういう意味でも、俺は地道な狩りをやり続けているのだ。
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