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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント前篇 その10

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 近況報告──デュラハン二体は張り切っているようです。
 北と南に向かい、人族と魔物たちに攻撃を仕掛け──今なお交戦中である。

 彼らの原動力は地下に有った悪意の塊。
 しかも戦闘中に追加で回収することもできるため、俺が放逐した今でも元気に溜め込まれた悪意を振るっている。


「──ふむふむ、ここにもウワサが届くぐらいに力を発揮しているんだねー」

『……彼らを浄化する気は──』

「無いよ。自分で創ったモノを、自分で倒すなんて残酷なこと……僕にはできないよ!」

『……では、自分で創ったモノが被害を周囲に及ぼしている現状は構わないのですか?』


 あっうん、そっちは全然問題ない。
 デュラハン(戦)はそもそも戦場に居る相手しか襲わないし、デュラハン(憎)だって(彼なりの解釈で)悪人しか狙わないはず。

 偽善者とは善人ではない。
 手を貸したいという対象の願いのためならば、それ以外にどれだけの影響が出ようともいっさい厭わない人種──それが偽善者だ。


「創ったのは僕だから、視界の共有もある程度の思考誘導だってできるんだよ。だから、デュラハンと戦える力の持ち主、そしてデュラハンが強い感情を発露する相手を特定することができる」

『それが何だというのですか?』

「戦闘狂の個体は……まあ強い相手なら誰にでも反応するよ。でも、憎しみの個体はそうじゃない。自分をあんな目に遭わせた人……つまり偉い人に意識が向くんだよ。当時の人は居なくても、その血族は居るからね」


 なお、そんな理由からかデュラハン(戦)は北へ、デュラハン(憎)は南で闘争中。
 祈念者も応戦しているが……悪意の塊のせいか、イベント補正のせいかかなり強い。

 まあ、俺もちょっと手を加えているが、せいぜいレベルの上限を外したぐらいだ。
 それ以降、血や悪意を吸い上げて強くなったのは、彼ら自身の功績である。

 初期値が人族換算で200、今は限界を超えて300ぐらいに達していた。
 当然、レイド級の個体なので、単独や少数精鋭で挑む者はごく僅かしかいない。


「アルカはやっぱり挑むか……人族側だからあんまりデュラハンに戦う気は無いけど」

『アルカとは?』

「魔法の扱いに長けていて、【賢者】にも就いている努力の天才だよ。オリジナルの魔法もだいぶ作っていて……ああアレ、あれもあの子が創った魔法なんだ」


 会話の最中、周囲が上空を見てざわついていた。
 俺も上を見てみれば、空から巨大な隕石が降り注ぐ光景が見られる。

 アルカのオリジナル魔法『滅魔墜星』。
 保有する魔力量が多ければ多いほど、相手に大ダメージを与えることができる……それは負の魔力でも同じこと。


『これほどの魔法とは……今の時代、優れた魔法使いが台頭しているのですね』

「うーん、そうじゃないというか……ほら、前に言った祈念者。地球から魂だけ飛ばしてきている連中の一人だよ。転移や転生の特典は無し、全スキルとほぼすべての職業や種族に対する適性だけを与えられているよ」

『! そ、そうですか……適性だけで補正が無いのであれば、さぞ努力したのでしょう』

「うん、努力の天才だからね。ちなみに僕に気づくとあれ以上の魔法を撃ってくるから、絶対に気づかれちゃダメだよ」


 普通、普人族で全属性の魔法を使える人物などめったに誕生しない。
 各属性神の加護などを授かればギリギリ可能だが、先天性ともなればほぼ奇跡。

 祈念者はそういった法則を、種族的問題さえなければすべて無視できる。
 ……ついでに言うと、これも種族転生をすれば解決できるんだよな。


 閑話休題あるイミうらわざ


 アルカとデュラハンの戦闘に関しては、視界の間借りすら止めた方がいい。
 彼女であれば、何らかの方法でそれに気づいて逆探知までしかねないからだ。

 なのでギリギリ伝わってくる焦燥感や自らの魔力感知だけで、戦闘終了を見極める。
 アルカも単独、デュラハンも逃亡を第一として動いているし……いずれ終わるだろう。


「さて、今日は何をしようかな? 昨日聞いた感じだと、やっぱりお城の辺りは強いアンデッドがたくさん出てくるみたいだけど……儲かるのは地下水路って言ってたっけ?」

『貴方はそう言っていましたね。では、今日はそちらに?』

「うーん、逆に儲からない場所かな? ねぇナシェク、アンデッドは多いけどあんまり浄化できていない場所って分からない?」

『……いちおう分かりますが、私に案内係をしろと?』


 察しが良くて助かる。
 昨日は探索ついでにアンデッドを狩っていたが、今回は効率的に狩っていきたい。

 なのでアンデッド探しのプロ、ナシェク様に頼むのが一番だった。
 まあ、俺がやるでもできないわけじゃないが……協力体制、重要だしな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 今日使うのは銃ではなく槌。
 前に見た時は巨大な戦槌だったが、今回は小回りの利く大工で使うような小槌になってもらっている。

 意外と利便性に富んでおり、長さなども魔力を供給すれば変えることができるらしい。
 まあ、銃から出す水の威力を変えられる辺りで、なんとなく察しは付いていたが。

 ともあれ、お陰で人がなかなか来ない狭い道に蔓延るアンデッドでも、簡単に振れる槌で倒せるようになったわけだ。

 ──さて、(不死)人狩り逝こうぜ!


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