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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント前篇 その09

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 水鉄砲の用途でも使えるが、当然魔力銃のように弾丸を射出することも可能だ。
 銃術スキル、そして聖具術スキルの恩恵を受けながら、アンデッドに聖水を当てる。

 そこに威力は関係ない。
 対アンデッドにおける重要な要素は、どれだけその攻撃がアンデッドたちに対して有効的なのかどうか。

 すでに死の要素を孕むがゆえに、大抵の攻撃では死ぬことの無い存在。
 しかし頭や心臓、四肢を極限まで潰せば物理的に殺すことができる。

 火属性が有効なのも似たようなもの。
 火に弱いのも、火葬という概念がより効果的に働くからである。

 では、聖属性はどうなのか。
 これはこれまでの理屈とは関係なく、聖属性そのものがアンデッドの動力源となっている負の魔力に致命的なまでに効くからだ。

 強大な相手を倒すのに強力な武器を用いるのではなく、凶悪な毒を使うようなもの。
 わざわざ体外からダメージを通すのではなく、内部から即死の一撃をぶち込んでいる。


「──まあつまり、聖性が高いほどアンデッドへの毒性が強まるわけで……ナシェクほどの聖具が生み出した水なら、浴びただけで即浄化レベルだよね」


 そりゃあ異世界人が特典として貰った聖具なので、多少落ちていても聖性は高い。
 初心者でも倒せるアンデッドも配置されているこの廃都では、無双確定である。


「こういうのもできるよね──“水路チャネル”!」


 引き金を軽く引いて聖水を放水。
 その水を触媒として描く、水の流れる道。
 触れただけでアウトなので、攻撃性能は不要……むしろ速度を重視して水を伸ばす。


「ふはははっ! さぁ、恐れよアンデッドども! 聖具ナシェクの力、見せつけてやろうじゃないか!」

『……悪事に加担させられている気分です』


 なんとも虚ろな想いが伝わってくるが、それで止める俺ではない。
 すべてはイベントのため、という大義名分と共にやりたい放題なのだからな!


「──『不可侵ノ密偵ハイドエンド・シーク』、そして隠蔽系のスキルで潜んで……“心臓貫きハートショット”」


 不意打ちからの急所射撃によって、通常よりも高い威力を発揮する。
 暗器術スキルを持っているので、そういう暗殺らしい動きもバッチリだ。

 気配を殺し、アンデッドをも殺す。
 ややロマンに走っている気がしないでも無いが……まあ、楽しければそれでいいや。

 そうして暗殺者っぽいアンデッドの浄化方法に楽しさを覚え、次々と聖水を当てながらレベリングを図る時間が続く。

 暗殺術、射撃強化、不意打、そして臭耐性スキルなどをその間に習得する。
 特に最後……うん、普通の祈念者ならカットできるんだけどな。


「普段はこんな場所で長時間活動もしないからね……ナシェクって、その状態で臭いを感じ取ることはできるの?」

『少なくとも、この場で感じ取りたくはありませんね』

「つまり、その気になればできるんだ……変態みたいだね」

『なっ! 変態とはなんですか変態とは!』


 たぶん、これに関しては知っていればミコトさんも考えたと思う。
 普通嫌がるだろ、臭いを嗅ぎ取ってくる武器なんて……密着しているわけだし。


「──まあ、最初からこうしておけば問題ないんだけど」

『……何をしたのですか?』

「んー、言ってもいいんだけど、今後現れるかもしれない使い手のために言わないでおいた方がいいかもね」

『…………ミコトにも言われましたね』


 あっ、やっぱりそう思われていたのか。
 ちなみにやったことはシンプル、魔力で自分を包み込んだだけ。

 体臭は届かなくなるし、体温も感じ取りづらくなるはず。
 ……ミコトさんも、ナシェクの五感を防ぐ対策はしていたみたいだな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 この地の解放を望む集団は、廃都を囲う城壁の外側に拠点を作っていた。
 アンデッドから取れた魔石を提出すれば、集団の中でそれなりに優遇される。


「ギルドじゃないから、まあそこまで分かりやすくは無いけど……その分隠しやすいし、ちょうどいいかな」


 なので魔石を意図的に隠せば、相応に評価も下げることができるわけだ。
 俺もノゾムとしての見た目に合わせ、少なめに提出して評価を下げている。


「拠点維持もタダじゃないからね。炊き出しとかのサービスを受けるにも、最低限の魔石提出が必要なわけなんだよ」

『……食事は自前、不眠不休で働く貴方にそれらは必要なのですか?』

「大切なのは大義名分だよ。とりあえず、ここに居てもいい理由作り。こうして耳を澄ませて、自分の役に立ちそうな情報を集める。これぞ暇人のテクニック!」


 可能な限り目立たないよう振る舞っている以上、通常の方法で情報は得られない。
 なので読唇、盗聴スキルを利用して情報を集めていくわけだ。


「もちろん、これじゃあ肝心の情報なんかは掴めないんだけども。本当にヤバい情報は、僕には必要ないからね。せいぜいイイ狩場があるとか、有名人は誰か……そんなバカ話で充分だよ」

『納得がいきません……が、今は待ちましょう。力を蓄えることに、異論はありません』

「そうだね。スキルも手に入るし、それなりに時間が欲しいかも。同時進行でデュラハンの行動を誘導する必要もあるし、いろいろと大変かな」


 イベント期間はそれなりにある。
 最後を飾るラスボスの振る舞いもあるし、下準備って本当に大変だなぁ。


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