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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント前篇 その08

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 現地で仲間集めという選択肢だったが、具体的にどういった人材を……といった考えは特に浮かんでいない。

 デュラハンたち然り、無ければ創ればいいなんてこともできるこの世界。
 強いヤツ以上に弱いヤツを強くできるし、その逆だってありえる。

 なので初期値ではなく、俺みたいな奴ともつるんでくれそうなヤツの方が好ましい。
 ……そういう意味では、畏怖嫌厭を発動するのは調べるのに最適なんだよな。


「というわけで、一定距離というか俺を相対する存在として認識した時点で、効果を発揮するようになりましたー」

『…………』

「まあ、完全に切っても、さっきまでの状態でも面倒なわけだし……うん、世の中やっぱり中途半端が一番だね」

『──納得いきません!』


 おや、急にどうしたのだろうか。
 俺の片腕に嵌った天使の羽を模した腕輪、それが急にペカペカと発光したかと思えば強めな思念を送ってきた。

 そう、ナシェクこと聖武具ナシェケエル。
 今まで一番気にしていたこと、つまりほぼ同郷のミコトさん(仮)について進展があって……だいぶウキウキしている。

 結果、なんだかんだ契約をごり押しした俺にある振る舞いを求めていた。
 まだ会えないミコトさんを懐かしみ、かつての記憶を思い返し──想いを吐き出す。


「えっと、何ですかナシェクさんや」

『なぜ……なぜ、物語のような展開を望まないのですか!』

「……なんて残念なことを。いやね、ナシェクさん。テンプレという概念はミコトさんから聞いたんだと思うんだけど、なんでテンプレ的な流れを求めないといけないのかな?」

『いいですか、メルス。貴方にはミコトに次ぐ立派な聖人を目指してもらわねばならないのですよ!? なのにこんなにも……面白みのない振る舞いを!』


 そういうナシェクは、俺以上にキャラ崩壊レベルで面白みが出ているけども。
 俺を立派な聖人にする、元からミコトにもしていたらしいことを俺に強要してくる。

 もちろん、俺に心の底からそうなる気はこれっぽっちも無い。
 あくまでも偽善のついでに……というぐらいなら、別にいいんだけどな。


「──契約」

『うっ……!』

「僕のやることを否定しない、そういう約束だったよね? まさか、ミコトさんを導いた素晴らしい聖武具であるナシェケエル様が、人の子と交わした契約すら守れない……なんてこと無いよね?」

『と、当然です! ただ、貴方が自らそれを望むのであれば、契約には背かない……そうではありませんか!?』


 と、いかにも屁理屈っぽい主張をしてくる辺り、ミコトさんに染められている。
 まあ、俺が目指すのは偽善者なので、聖人にするのは諦めてもらいたい。


 閑話休題せつめいさいかい


 今さらだが説明しよう。
 現在、俺が訪れているのは西──つまり廃棄された過去の都だ。

 大量のアンデッドが占領し、それを取り戻さんとする自由民の方々。
 祈念者の役割は勇者や魔王として、死人からこの地を解放することなのだろう。

 北と南はストレートに勇者と魔王のぶつかり合いだが、迷宮の乱立する東やアンデッドが占領する西では、本来の勇者と魔王よりもやや複雑な振る舞いが求められる。


「ちょうどナシェクは聖具だし、アンデッドの浄化はそっち的にも都合がいいよね?」

『……ええ。可能であれば、その功績を他者に見せつけてもらえるとなお助かります』

「それは僕を目立たせるため? それとも、自分が力を取り戻すため?」

『…………両方、ですね』


 本来、聖具は他者からの信仰などを糧に自らを強化できる性能を持つ。
 象徴たるアイテムが強くなり、果ては神器となる……便利なシステムである。

 元はそんな感じでミコトさんと共に強化され続けていたナシェクだが、彼女の死後いろいろあってその信仰は抹消された……とどのつまり、弱体化していた。

 かつての力を取り戻すということは、過去ミコトさんと居た時期に戻るということ……それが結果的に俺を聖人とする計画に最適らしく、ゴリゴリで進めようとしてくるのだ。


「ふーん。まあ、別にいいけどね。僕もいつまでもナシェクだけを使う気は無いし、自立できる第二形態に自分で変化できるようになる方がいいもん。とりあえず、自分のためにも使わせてもらうよ」

『! ……私は、不要ですか?』

「そういうことじゃないけどね。まあ、しばらくは……ナシェケエルとしての力を取り戻すまでは、そのまま使わせてもらうから」


 そして、それ以降は本来の主に振るってもらうのが彼女にとっても一番の幸せのはず。
 同時進行でやれるか微妙だが……まあ、偽善者らしく頑張るとしますか。


「というわけで、さっそく始めるようか──『滝水の天銃』」


 腕輪の形状が変化し、現れる青色の銃。
 軽く引き金を引けば、弾丸の代わりに水がチョロチョロと流れ出る。

 ただの水ではなくそれは聖水。
 現在、この都市を奪っているアンデッドたちの天敵……アイテムチートで無双するのは少々狡いが、まあ気にせずやり遂げようか。


「スキルを少し封印して、聖具術でもレンタルしておこうかな……よし、準備OK!」


 今回は無茶をせず、安全マージンを取りながらやっていくつもりだ。
 目立ち過ぎるのもアレだし……目的を果たすことを、優先しながらな。


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