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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント前篇 その06

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「──お前はチャイ、お前はファズ、お前はマーザだ」

『!!』
『『ハイ!』』


 面倒になったので名前を与えた。
 外に行った二体の個体と違い、多少手を加えたので愛着がな……まあ、後のことは後で考えればいいさ。

 チャイはデュラハン(聖)。
 言葉は話せていないが、それでもこちらの意図はちゃんと読み取れるので、後ほど意思伝達のために魔道具を渡す予定だ。

 ファズとマーザはデュラハン(感謝)から分かれた、父親個体と母親個体。
 少々分離に一苦労したが、まあ嬉しそうなチャイが見れたのでそれで満足だ。


「──[夢現の書:屍魂の頁]。この本に触れてくれ、仮ではあるが契約したことになるからな」

『?』

「……そう、だな。これからはいっしょ、ということだ。寂しくはさせないぞ」

『!』


 俺の言いたいことが分かると、本に触れずにいたチャイが最初に触れた。
 契約は成され、新たに本の頁が加わり──そこへチャイは吸い込まれる。


『『!!』』

「害は無い。触れれば同じ場所に飛ばされるから、そっちに居る連中に話を聞いてくれればいい……少なくとも、死にたくなるようなことは無いぞ」

『……ワかりました』
『アナタをシンじます』


 そうしてファズとマーザもまた、魔本に触れて吸い込まれていく。
 なお、[夢現の書]で繋がる先は共通なので、アンデッドだらけというわけじゃない。

 今回も、いきなりそんな死体だらけの場所に飛ばすのはどうかと思い、エントランス的空間に飛ばしてある……受付もいるし、なんとかしてくれるはずだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 改めて、誰も居なくなった儀式場を見る。
 すでに描かれていた術式は崩壊し、内部に蓄積されていたエネルギーや強い憎悪もすべて消費し切った。

 残されたのは悪意の残骸、そして失われたこのイベントの目的地のみ。
 ……地上は魔導によって砂漠と樹海に覆われ、通常以上に侵入は困難だ。


「──よし、飛ばそう」


 どういう理屈か、そんな意味ものは不要だ。
 ただなんとなく飛ばしたい、ラスボスやイベントの最終地点は特殊な環境で無ければつまらないというややアレな思考の答え。

 元より、血や強い想いを糧に溜められていたエネルギー。
 その回収システム云々は、儀式場の術式とは別に用意されていたので今なお健在だ。

 なのでそれを利用し、空に浮かせられないかと考えること数分。
 眷属から届いたやり方を確認しながら、儀式場の術式を書き換えていく。


「完成っと──“物体浮遊レヴィテーション”」


 重力魔法の“物体浮遊”。
 その名が冠する通り、物体に掛かる重力の枷を外して浮かせられるようにする魔法だ。

 その効果範囲を封印されていた空間すべてに引き延ばし、地上部分ごと浮かせる。
 しばらく抵抗するように揺れが続いたが、やがて上からの圧が一瞬強まった。

 エレベーターに乗って、上を目指すときのような感覚だ。
 しばらくすると同様に、またその変化が起きて目的地への到着を伝えてくれた。


「さてさて、どうなっているかな。足りないなら、演出を増やさないといけないし」


 一度通った道を引き返すと、やがて着いた先は崖っぷち。
 足元に踏むべき場所は無く、眼下に先ほどまで居たはずの地上が広がっている。

 それ以外に何もなく、しいて挙げるのであれば魔物などが飛んでいる程度。
 今は物珍し気に見るか警戒されるかのどちらかだが、いずれ攻撃してくるはずだ。


「魔導解放──“移りゆく天なる意気”」


 天候操作の魔導を発動し、周囲が嵐に包まれるように細工する。
 そう、それはさながら竜の巣……ラピュ夕は本当にあったんだ!

 魔物たちもわざわざ嵐の中に突っ込んでくるような真似はしない。
 そのことを神眼で確認しながら、とりあえずの安全は確保できたと満足する。


「まあ、魔物はやらなくても祈念者ならやりかねんけど……ここは封印の術式を利用し、資格を持つ者がいっしょに居ないと入れないようにしておきますか」


 そうでもしないと、魔法で何でもごり押しする人とかが来そうだし。
 術式の方は眷属が解析してくれたので、それを浮島ごと包み込めばいい。

 絶対とは言えないが、それでも難攻不落ぐらいにはなったはず。
 ……まあ、辿り着いても特に意味なんて無いわけだが。


「あとは……そうだな、テラフォーミングだな。魔導解放──“護国宝饒神祈の宴舞”」


 砂漠と樹海、そしてその内部に花々や泉などが突如として生まれる。
 自然環境を強制的に豊饒とする、その解釈に手を加えることで自然豊かにしてみた。

 さすがに虫や動物は生み出せないが、地形に関するものならなんとかなる。
 そうしてしばらく弄っていれば、ある程度満足できる仕上がりとなった。


「……もう箱庭だな。ある意味、楽園でも目指した果てっぽいからいいけど」


 さて、ここまでいろいろとやってきたが、作業中に別のことを考えていた。
 すなわち、これから先また何をすればいいのかと。

 むしゃくしゃして儀式場を破壊したが、ここでずっと待機というのもつまらない。
 かといって、何をしたいわけでも無いのだから、このままでは戻っても暇になる。


「仕方ない、[選択肢]を使うか」


 精度を落とす代わりに、一日一回の制限が失われた擬似[選択肢]。
 神眼を未来眼に切り替え、これから何をするのか意識しながら使ってみた。


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