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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と陣営イベント前篇 その04
しおりを挟むこれまでをあらすじにしたらどうなるか。
想像以上に酷い……イベントの真の目的になりそうな、願いを叶える魔法を壊しちゃった♪ だからな。
まあ、その魔法も何かしらの代償を必要として起動する代物だったし。
短期的に使うなら使用者の命、長期的だったとしても……星の命を使っていたな。
あとはこの世界で起きた闘争、そこで生まれた流血や強い想いを喰っていただろう。
軽く視た際、魔法陣はさまざまなモノを糧として起動に必要な魔力を貯めていたし。
「こういうのって、どういう流れが定番なんだっけ? 力を求めて巨大なボスが出現するとか、平和な世界を望んだら解釈違いで巨大なボスが出るとか、世界への憎悪を吐き出したら巨大なボスになっちゃうとか……」
うん、いかに俺が巨大化なテンプレしか知らないのがよく分かる予想だった。
すでに魔法陣は壊したので、願いは叶わないのだが……溜めたエネルギーは存在する。
テンプレだと、そのエネルギーだけで巨大化する場合もあった。
もちろん、流血やら強い想い──特に悪意まで取り込むんだから暴走確定だが。
「けどまあ、これは俺が有効的に使ってやるとしますか。まずはそうだな……うん、とりあえずエネルギーに関しては俺が有効利用するとしよう──“奪魔掌”」
魔力を奪う【強欲】の力で、根こそぎ溜め込まれたエネルギーを回収する。
先ほど語った通り、悪意の塊が肉体の主導権を奪おうとするが……無駄なこと。
強い想いはそのまま{感情}によって抑制され、残念な凡人とエネルギーだけが残る。
がそこであることを思いつき、さらにエネルギーと悪意の塊を[内外掌握]で分離。
「久しぶりに使うな──“屍騎受体”っと」
死の冒涜、ナニカを憎む負の魂魄を利用してアンデッドを生み出すこの魔法。
必要なコストは先ほど得た分で支払い、通常よりも強化された個体を顕現させる。
『────ッ!』
「おぅおぅ、元気で何よりだ。しかしまあ、力量差ぐらい分かるよな?」
『ッ!? ────』
「うむ、それで良し。魔法を使った奴を干渉しなくても、それなら自分自身の手でやりたいことができるはずだ。出口はそっちだぞ、行くなら早めにな」
しばらく待つと、デュラハンは動き出すのだが……ここで問題が。
どうやらやりたいことが複数あるらしく、体が行ったり来たりしているのだ。
苦笑しつつ、さらに“屍騎受体”を使い受け入れるための器を準備。
そのまま“奪魂掌”で目的ごとに魂魄を千切り、別々の器に突っ込んでいく。
『タタカイダ、タタカイダ、タタカイダ!』
『シネシネシネシネシネ……ナニモカモガシネバイイノニ』
『コノゴオンハワスレマセン、デスカラドウカシンデクダサイ!』
『────』
とまあ、分離したのは全部で四体。
戦闘狂と世界を恨む個体は外へ向かい、感謝(狂)する個体と無言の個体はこの場に残ることを選んだ。
ぶんぶんと大剣を振り回してくる感謝の個体を捌きつつ、この後の予定を考える。
とりあえず、感謝の個体には再調整をするとして……無言の個体には何をすべきか。
「そうだな、こういう時こそ[選択肢]頼りにしてみるのもいいか」
祈念者たちが使っているものと違い、だいぶ劣化が進んでいるものの、難度でも使えるのでお試し感覚で使うことができる。
発動対象を言葉を話さないデュラハンにして、[選択肢]を起動。
勝手に眼が未来眼に切り替わると、すぐにUIとして選択肢が表示された。
===============================
・デュラハンは無言だ──何をする?
1:話しかけてみる(青)
2:魔法を見せる(虹)
3:何もしない(青)
4:命令をする(赤)
===============================
最初に使った時と違い、注釈での未来に関する情報は記されていない。
その代わりに、選択肢自体に色が付いておりそれぞれの結果を表しているようだ。
「赤はヤバそうだな、命令だし。話しかけると命令が同じってことは、青は現状維持かもしくは好転か? じゃあ、虹って…………でも、具体的にどんな魔法を見せるのか書かれていない辺り、精度の低さが出ているな」
とはいえ、魔法を見せるというのであれば使うのだが……どうしたものか。
命令がダメなら、死霊系の魔法はおそらくアウトだし、弱点だから聖属性もアウト。
精神魔法で調律……というのも、なんとなく違う気がする。
いや、見せるわけだから、目に見える感じの魔法がいいはずだ。
「まあ、どうとでもなれ──“花火”」
『!!』
「おっ、反応アリか。それじゃあ、もっと派手に行くぞ──“幻光花火”」
『!!、!!!?』
妙に興奮するデュラハンだが、まあ危害は示さないので放置で。
感謝の個体? ああ、花火に無言の個体が驚いている間に蹴り飛ばしておいた。
しばらく観察していれば、大まかに察しがついた……この個体、意識の主体が子供だ。
そりゃあ長年蓄積しているのだ、小さい子供も贄に含まれていたっておかしくはない。
ただまあ、似たような案件を霧の都で経験しているので……少々思うところもある。
純粋に花火を楽しめる子が、ずっと苦しんでいたわけだ……当然、偽善の対象内だ。
スッと手を伸ばすと、怯えるように体を震わせる。
それでも、おずおずとこちらの顔色を窺いながら手に触れてきた。
「俺はメルス、まあ偽善者だ」
『?』
「細かいことはいい。それより、さっきのアレを自分でもやってみたくないか?」
『! ッ!!』
これまた激しく首を振る。
なお、デュラハンなので首が取れる……再誕する際に種族としての知識がインストールされるので、普通に首を回収していた。
そのため一度離された手だが、再び繋ぐ際は先ほどよりもギュッと握られる。
それだけ期待しているのだろう……それに応えるのが偽善者の役割だ。
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